35話 確信
「ありがとうございました」
深く礼をしてコンビニを出る。
予想通りの回答ばかりだ。急いで署に帰らないと。
車に乗りこんだタイミングで電話が鳴った。もちろん相手は薫。出るなり「よぉ〜」とのん気な声がした。
「何が『よぉ〜』だ。こっちは街中に車走らせて仕事してんだぞ」
『怒んなって。ジャンケンに負けたのは隼だろ?』
──ぐうの音も出ない。
『それよりどうだった?』
「ああ、皆口を揃えて同じことを言った。何となく能力は分かってきたな」
『そうか。こっちもスゲー情報手に入れたから早く帰ってこい。忙しくなるぞ』
嬉々とした声が切れた。通話終了の画面にため息を吐く。
シートベルトを締めてアクセルを踏む。青い空が高く広がっていた。
***
少秘警──刑事課
ボロボロの事務室では薫がアメを噛んで待っていた。机の上の資料を手前に出す。
「スゲー情報っていうのはこれか?」
「そうそう。零が突き止めたんだ」
真白な表紙をめくる。
──確かにスゲーな。
現れたのは今回の被害者記録と──犯罪歴。
横領や万引き、詐欺などと様々だが全員が何らかの犯罪を犯していた。
「見たことある顔があったって、記録漁ったら案の定ってよ」
「なるほど、全員が犯罪者······これが共通点なんだな?」
なら、気になることがある。
チェシャ猫の目的だ。なぜ犯罪者ばかりを狙うのか。資料からは憎悪も正義感も感じない。なぜ事件を繰り返したのだろうか。
「······隼、悪ぃんだけどよ」
「は? いきなり何だ」
「反転院翔に協力してもらってチェシャ猫を夜に呼び出した」
「はぁ!?」
薫いきなり何を言い出すのか。窓際に寄りかかって奥の森を見つめている。薫はゆっくりと目を閉じて、再び開く。
「今日は帰れねぇから」
窓に背を向け腰掛ける。行儀悪い、と注意出来なかった。
薫の目はまるで鬼のようだった。窓の外の森から黒い狼煙が一筋、太く空まで伸びている。
薫は手ぶらで帰る気はない──




