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少年秘密警察の日常  作者: 家宇治克
アリス狂乱茶会事件
33/109

33話 上司の仕事 3

 ──冷静になるな。

 ただ今の状況を受け入れて、淡々と仕事をこなせばいい。それだけでいい。



 賑やかな茶会の席で、ただ一人真顔で緑茶を啜るお菊は延々と自分に言い聞かせていた。



 洋菓子の山と紅茶を目の前にして──



 何故こんなに楽しそうになっているのか頭が追いつかない。

 最初、鳩が豆鉄砲を喰らったような表情だった四人は、陽炎に乗せられて笑いながらお菓子をつまんでいる。ケーキやマカロンなんて洒落た菓子と笑い話を紅茶で飲み干す。陽炎も美味しそうに食べる彼らが嬉しいのか、「もっともっと」と餌付けをする。


「ほれほれ和菓子もあるぞ! 飲み物は紅茶だけで良いのかの?」

「副署長、騒ぎ過ぎでありんす」

「お主の能力で『動かない』じゃろうが。心配するな! 老けるぞい」


 ──薫同様一言多いな。あの弟子にしてこの師匠あり、か。


 黙って陽炎のこめかみをノックする。たった一度。ほんの少し触れるくらいの力で叩くと陽炎は椅子から吹き飛ばされる。

 派手に転んで目を回していた。


「すまんのぉぉお······お菊」

「謝るのが遅すぎんした」

 席に戻って饅頭まんじゅうかじる。もりもりと食べる彼らをじっと見つめていた。その視線にマッドハッターが気づいた。しかし、あざけるような雰囲気はない。


「······な〜んか、懐かしむような目だな〜。そういう囚人ばっか見てたからか〜ぁ?」

 陽炎は笑う。歯を見せて、遠い何かを見るように。



「いや、なに。少秘警うちの連中も昔はそんな感じだったからのぉ。強がって、大人ぶっとるがの? 安心すると子供らしい一面を見せる。お主らも同じじゃ。変わらんな。あやつらと、お主らは」



 その一言に、どれほどの威力があっただろうか。お菊の拳以上に強いのだろうか。それでも彼らの何かに触れたことに変わりはない。

 ──陽炎は気づいてない。いや、気づいているのか?知らん顔で紅茶のおかわりを足す陽炎を見つめた。

 陽炎の目がお菊を見据える。

 薫のような悪戯っぽい笑顔が余計に考えを複雑にする。

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