3話 少秘警にて
東京と神奈川の境にある巨大都市─桜ヶ丘
都会と田舎の混合体のような街で、どちらにも属さないため「特別自治区」として成り立っている。
シンボルはもちろん、街全体を見渡せる丘の上の桜の木。
『“不思議”と出会える場所』がキャッチコピーなだけあって、数多の都市伝説が存在する。
霧に包まれた里と繋がる鳥居
死を目前とした者にだけ聴こえる歌声
街中に現れる妖怪
丘の桜の周りを駆ける二人の青年
その他にもあるが嘘か真かは判断出来ない。
ただ、その都市伝説の一つは真実である。
『特殊能力を持つ悪の組織』
···············悪じゃないけどな。
* * *
廃病棟とは真逆の街の郊外。
自然に囲まれた広大な敷地の中には五つの建物の他に、図書館や道場、森までもがある。
そんな敷地を取り囲む大きな塀の入口に『桜ヶ丘警察署』と威張るようなプレートが取り付けられていて、その下には墨で、
『少年秘密警察』
と書かれた小さな木札がぶら下がっていた。
「あーあ、ヤな気分。書類めんどくせぇしやる気しねぇし」
五つの建物の中で一番入口に近く、一番壊れかけている『刑事課』
建物の外側も内側も銃痕で埋め尽くされ、爆弾が使われた形跡もある。窓は割れ、崩れた壁は薄い木板数枚が支えているだけ。
一階の事務室で、薫が机の上に置いた枕に顔を埋めて文句を垂らす。その隣では隼が真面目に書類をまとめている最中だった。
薫がつまらなさそうに窓の外を見つめる。
外は滝のように雨が降っていて、窓の端に吊るしたてるてる坊主は笑っているだけで何もしない。
「あーヤダヤダ、机仕事超嫌い。おまけに外は雨がびちゃびちゃびちゃびちゃ」
「せめて『ザーザー』って言ってくれ。何か汚い」
二人が書いているのは監禁された時の報告書と取り調べの記録である。
どちらも重要な書類なのだが薫は全て白紙のまま。
「······お前『少年秘密警察』としての自覚はあるのか?」
「はぁ〜···少年秘密警察ねェ。······少秘警か」
『少年秘密警察』 略称:少秘警
その名の通り民間には知られていない秘密組織である。
所属する全員が何らかの能力所持者で尚且つ、署長・副署長・各課長以外は未成年という異端組織でもある。
······というところまではカッコいいのだが、実際のところ『能力者』というだけで人権が剥奪され『化け物』扱いを受けるわ、警察が本家だとすると少秘警は分家のようなものだから、と厄介事を押し付けられるわで散々な目にあっている。
ろくなことがない苦労組織だ。