29話 招かれざる客(お菊視点) 2
ダムとディーが倒されたことで団員たちに危機感が生まれる。緊張感が高まり、各々武器を握りしめる。
しかし、そんなことを気にもとめず、煙管をふかしてステージに向かう。煙が上る煙管をクルクルと回して団員に微笑みかけると、団員の一人が雄叫びをあげて襲いかかってくる。
あらゆる方向に棍棒を振り回す。右へ左へと無駄な動きをする棍棒を避け、鋼のような拳を脳天に落とす。床にめり込むほどの力を受けて倒れる団員に皆が顎を外す。
「わっち『で』遊ぶんじゃなくて、わっち『と』遊んでくんなまし」
それを合図に全員が悲鳴に近い雄叫びをあげて襲いかかる。
殺気立っているというのにどこか怯えたその眼差し。それを冷たい目で見ている自分がいる。敵に立ち向かう努力は評価してやりたいがこっちも仕事だ。
煙管をくわえ、襲いかかる彼らにただつっ立っていた。
***
沈黙。ただ沈黙。
殺意に満ちた団員たちはただ一点を見つめて静止する。微動だにしない。煙管のか細い煙が広がり、独特の臭いで彼らを包んで空間ごと支配していた。
ステージに腰掛けて煙管を弄ぶお菊。血を流して動かない隼と薫を眺めて深いため息をついた。
「はぁ〜······怒られる、じゃすまないな。面倒事ばかりの刑事課とは関わりたくありんせん。あーあ、警護課の仕事したい」
煙管をしまい、隼の柔らかい髪を撫でる。それでも隼はピクリともしない。
······当たり前か。
帯から携帯電話を取り出し、難しい顔で操作する。正直電子機器の扱いは苦手だ。どう使うのかが理解出来ない。
どうにか電話帳を開いてある人物に電話をかける。長めのコール音を聞いてようやく電話が繋がった。
「ああ、わっちでありんす。無事確保しんした。手錠多めで医者······うん、急いでくんなまし」
短い連絡だけで通じる。それはすごく助かるが、電話相手のテンションが異常に高い。
疲れた目を月が覗く。耳に当てた電話口からは快活な笑い声が聞こえていた。




