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少年秘密警察の日常  作者: 家宇治克
アリス狂乱茶会事件
28/109

28話 招かれざる客(お菊視点)

 主犯は双子らしき少女達か。

 周りの年齢まちまちな団員は恐らく彼女たちの息がかかっただけ。


 聞かずとも、話さずとも目で分かるのは長年培った経験だろうか。

 懐にある短刀に手をかける。わざとらしく音を立てると少女達は血のついた剣を構えて飛んでくる。座席をバネに、なんの躊躇もなく首を狙ってきた。


「やっぱりな」


 短刀で剣を弾き、足元から狙ってくる黒髪の片割れを蹴り飛ばした。

「名乗りなんし。それが『遊び』の流儀でありんしょう?」

「だったら自分から名乗るんだね!」

「ああそうか、わっちはお菊。黒髪のと白髪の、わっちは名を渡しんした」


「トウィードルダム!」

 黒髪の片割れが眉間を狙う。


「トウィードルディー!」

 白髪の片割れは足を狙う。


 だがお菊には剣が届かない。手を踏みつけ、黒髪の片割れの顎を叩く。


「長いわ。ダムとディーで覚えさせてもらいんす」


 ディーは隠しナイフで足首を切った。力が緩んだ隙に手を抜き後ろに下がった。ダムが合わせて後ろに下がる。ダムとディーはそれぞれ隠した片目をお菊に向かって開く。

 霧がかった紫色の瞳。つい見入ってしまう。だがそれは間違いだったらしい。


「うっ······?!」


 激しい頭痛と目眩。頭を押さえ、その場にうずくまった。少女達はクスクスと笑ってお菊を見下ろしている。


「何分もつかな?」

「一分ももたないんじゃない?」


 ──何の話だ。


 地面に手をついた時、何かが腕を這い上がる感覚があった。

 見ればゴキブリ。すごくゴキブリ。

 カサカサと腕を這い、服の上や中、顔にまで蔓延はびこる。払おうとしても払えないゴキブリの集団。



「······気持ち悪いね」



 気持ち悪いがリアクションはこれだけ。

 ディーが不思議そうな顔でお菊を見る。「効かないのか」とでも言いたげに剣を引いて持つ。煙管をふかし、自分の体を動き回るゴキブリをじっと見つめる。

油虫ゴキブリが出るのは普通でありんしょ?」

 ダムとディーはお菊と少し距離を開け、指先で団員たちに指示を下す。団員の一人が叫びながら斧を高く掲げて隼の体を踏みつけた。


 おーおー、上司の前で部下の首落とそうっていうのか。


 斧の重みで腕が後ろに反る。振り下ろす瞬間までにほんの少し動きが止まる。そこを狙って短刀を──




「ふ ん゛っ゛っ゛っ゛!!」




 投げた。


 風を斬って飛んだ短刀は団員の斧に直撃し、そのまま遠くへと弾き飛ばした。

 ダムは本能的に危機感を感じ取り、マントの中から針を数本引き抜く。針の先から濁った薬液が垂れる。情処課の主任が見せびらかしてきた毒の色と酷似している。毒針のようだ。ディーも同じ針を両手に持って跳躍。

 殺気を放って襲いかかる。


「何だい。加減してやってたのに······」


 煙を深く吸う。

 針が一直線に降ってくる。

 肺いっぱいに溜めた紫煙をフゥッと、針に吹きかけた。動きを止める針。お菊まで数センチの距離で全く動かなくなった。

 煙草独特の臭いがその場を漂った。


「何したんだね!」

 ダムが威嚇するように尋ねる。

 何を、と言われたって見れば分かる。

「動きを止めんした。能力の()()でありんす」

「あんたも能力者なんだ。······仲間ってことになっちゃうね」

「それは『同族』として? 『組織』として? 組織としてなら全く別物でありんしょう」

 煙管をふかしながら毒針を避けてダムとディーに近づく。二人は毒薬の入った瓶を投げつける。咄嗟に掴み取ると、二人の姿は目の前にない。

 胸に衝撃があった。見れば二本の剣が刺さっている。ダムとディーは笑う。



「「お話聞いてかない?」」



「聞きんせん。どきなんし」


 お菊は二人の腕を掴んで放り投げる。男の腕力に負けて後ろに吹き飛ばされた。お菊は刺さった剣を引き抜き、懐から薄いクッションを出してニヤッと意地悪く笑った。


「鉄板入りのクッションでありんす。ばぁぁぁぁか(笑)」


 ナイフや鎖をマントの下から引き出し、お菊に殺気を放つ。そのやる気に応じて袖から拳銃を出すと、二人は座席中を駆け回る。狙いを定めさせないつもりだろう。



 ──若いって、チョロい。



 拳銃を空高く放り投げた。ディーが拳銃を奪い、その勢いでお菊に接近する。視界の端でディーが狂気的な瞳で頭を狙ってくるのが見えた。

 ナイフが頭を捉える。高く突き上げた。

 あーあ、ここで終わるのか。

 諦めて首を掻く。ディーの腕が振り下ろされる。


「かかった」



 ──パァンッ!!



 一発の銃声。

 お菊の手には超小型拳銃が握られている。

 ディーは目を見開いて倒れた。ぐったりとして動かないディーにダムが叫ぶ。


「よくもディーを!!」


 紫色の瞳を光らせて突撃してくる。また頭痛と目眩がした。

 今度は手の平に血が広がっていた。それがかつての記憶と重なった。

 止まらない動悸と手の震え。あの日覚えた深い感情と繰り返す悪夢の根源。思い出すとシンクロして余計に辛くなる。


 ──上手いじゃないか。


 血で汚れた手の平で自分の頬を叩く。気を引き締め直し、ダムを見据える。ナイフを両手で握り、風並みのスピードで迫るダムに拳銃を向ける。即座にそれを弾かれてダムの顔は瞳に映るほどに近くなる。


「あの世でディーに詫びるんだね!」



「······悪いな」



 ダムの右腕は拳銃を弾いて体の反対側にある。力任せに振って来る前に、手刀を首に()()()()()()。ダムの体は座席に吹き飛び、バウンドして床に叩きつけられる。




「もう殺すもんか」




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