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少年秘密警察の日常  作者: 家宇治克
アリス狂乱茶会事件
25/109

25話 少秘警とお茶会(薫視点)



「おーらおらおらぁ! 逃げんじゃねぇぞ!」



 綱渡りのロープの上。薫と三月ウサギが対峙する。

 三月ウサギは尽きることのないクナイを延々と投げつけてくる。これが地上戦なら相手に返してもいいし、適当に弾くことが出来る。だが、慣れない空中戦。しかも下では相棒が敵の片割れと戦闘中だ。

 弾く先が嫌でも一箇所に定められる。


 ······頭良いな。あいつ。


 薫は鉄パイプを器用に振り回して天井へと打ち上げる。

 下を気にして戦うのはまぁ、ハンデだとしても能力を使い続けながらの戦闘は結構不利だ。分かっていても今のままでは防御に徹するしかない。


 ──でもただ防ぐのもつまんねぇよな。


「もう一本投げろ!」


 全てを天井に打ち上げた後で三月ウサギに叫ぶ。当然「はぁ?」といった表情をされ、鋭いクナイを一本投げてもらう。飛んできたそれを金属音を響かせて天井に突き刺した。

 天井にはクナイで描かれた一つの絵。若干黒いが、光沢感やリアルさは完全に再現できたと思う。

 描いたのは朝ご飯の定番──


「目玉焼きでーきたっ!」

 もちろんウインナー付き。


「自由か! ちゃんと戦えよ俺敵だぞ!!」

「なぁ目玉焼きは醤油派? ソース派?」

「今関係あるかそれ!?」


 三月ウサギは隼タイプなのか······。


 しかし妙な格好をしている。

 人がイメージする忍者の格好をしていながらネックウォーマーで鼻から下を隠している。腰に小物入れる程度の巾着袋があるだけでクナイのストックは見当たらない。歳だってきっとマッドハッターと変わりないくらいだろうに。


「背ぇ高ぇなおい」

「お前と同じくらいだろ······」


 服装を評価している場合じゃない。

 足に灯した炎をコントロールしながら三月ウサギと刃を交える。鉄パイプの重い一撃を受け流すクナイ。接近戦だというのに、微動だにせず淡々と攻撃を受け、反撃する三月ウサギ。

 バランス感覚が良いのだろうか。


「忍者って戦闘得意なのか? 足の速さや気配の消し方的に諜報向きだろ」

「確かに、本来忍者ってのは諜報が本職。けど俺は生まれた時から刃物握ってんだ。戦闘向け忍者なんだよ」

「『三月ウサギ』だったらうさ耳くらい持っとけよ!」

「気持ち悪いわ! 組織命令なんだよ!」

 ちょうど下から隼の叫び声が聞こえてきた。塩酸をかけられたらしい。隼のことだし、問題はないだろう。······だが流石に腹が立つ。


「遊んでらんねぇっぽいな」


 小さく呟き、三月ウサギに向き直す。深呼吸して気を引き締める。睨むような目で獲物を捉えた。


 やる気を感じ取った三月ウサギは両手にクナイを構える。気の抜けない空気の中で先に動いたのは薫だった。



 ──神速の斬撃──



 可能な限りのスピードで鉄パイプを振り回して相手に畳み掛けるが、流しに流されて逆に圧倒される。

 感心する一方で、負け気味の自分に腹を立てる。

 体力は減り、能力が弱まるだけ。更に炎で飛んでいる状態は足場が安定しない上に踏み込めないから力を発揮できない。力の浪費もいいところだ。


 ──仕方ねぇな。


 三月ウサギと少し離れてロープに着地。バランス感覚に自信が無いから避けたかったが、足場がないよりはマシだろう。


「何の真似だ」


 三月ウサギが険しい表情で聞いてきた。自分と同じ土俵に上がるのが気に食わないのだろか。ガムを膨らませながら返した。


「お前のマネだ」


 ロープが激しく揺れる。

 鉄パイプを、クナイを叩きつけてけたたましい音を鳴らし続ける。細かく動いて足を狙うが、三月ウサギは一回転したり、わざとロープを揺らして上手にかわす。それだけでなく、クナイを投げつけて危険な動きを封じてくる。


 綱渡り状態での戦闘は未経験だ。

 忍者との戦闘も未経験だ。

 それでも食らいつける自分がいる。

 突然三月ウサギの手が止まる。じぃっと薫を睨みつけ、納得したように鼻で笑った。


「そうか。元不良だろ」

「おう。下の奴も元不良だ。関西二大不良の一人」

「どうでもいい。お前は裏社会《こっち側》でも有名だったな。殺せるなんて嬉しいもんだな!」

「安々と命譲る気ねぇよばぁか! 耳からワサビ生やして出直して来い!」

「挑発特殊すぎんだろ!」

 三月ウサギが巾着袋を開く。

 中身は土。何の変哲もない、どこにでもある土。その土は独りでに動き出し、三月ウサギの胸の前で龍を形作る。


 こいつ······───能力者か!!

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