表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少年秘密警察の日常  作者: 家宇治克
アリス狂乱茶会事件
2/109

2話 夕暮れ時の部屋 2

 物が何一つ奪われていないことが救いなのだが、場所がわからないため助けを呼ぶことが出来ない。

 自力の脱出以外に方法はないらしい。


 頭を切り替え周りを見回す。部屋は家具も置物も無い。ドアも無い。窓は人が通れるほどには大きいが、地面までおよそ3階分。イケるな、と思ったが薫に「置いてくなよ?」と言われたのでやめた。

 そういう薫は好奇心···というかテンションに身を任せて壁を叩いてみたり、床の上を跳ねてみたりと自由に動き回る。

 部屋の探索は薫に任せ、隼は今に至るまでを思い出していた。


 事の始まりは今朝だ。

 妙な手紙が届いて、指定された場所に行ってみたが人の子一人いない。

 悪戯(いたずら)だと思い、帰ろうとした途端に·········

 ───ここから記憶が無い。

「記憶はあてにならないな」

 そういえば起きたのは日が沈み始める少し前だ。頼りにならなくて当然だな。気づけば知らないところにいるし、一日過ぎているし、今日はツイてないな······

「ホンット最悪···」

「そお? 俺楽しいけど。あ、カラス」

 相棒は楽観的だし······


「おい隼ちょっと来いよ!」


 薫が大声で叫ぶ。何かを見つけたらしくすごく嬉しそう。

 駆け寄り、薫が指差す先を見ると、ドアがあった。

 壁紙で隠していたらしく、ドアの周りには破かれた壁紙の残骸が散っていた。

 一見普通のドアと何ら変わりない。だが妙な威圧感が漂っている。

 脱出出来るかもしれない喜びを押し殺して警戒する風谷に対し、薫は何の躊躇(ちゅうちょ)もなくドアを開く。

 そして嬉々として叫んだ──



「トイレついてる!!」



 何でトイレなんだよ!


 膝から崩れ落ちた。

「何でトイレなんだよ! 他に隠すもんがあっただろ! 漏らされると困るとでも思ったのか!? どんな気遣いだよ! 何でトイレなんだよ! トイレットペーパーめっちゃ綺麗に折られてるやん!!」


 マシンガンの様に止まらないツッコミ。

 笑い転げる相棒。

「使えよ」と言わんばかりに佇むトイレ。


 カオスな空気の中で、ただただ犯人の顔を見たい衝動に駆られる。転げ回っていた薫が突然立ち上がり、真顔で「飽きた。帰ろ」と言い出す。


 ──どうやって出る気だ?


 ドアはこのトイレだけだ。

 入れない部屋に閉じ込められるという矛盾した状況で、薫は黙って奥の壁を指差した。

「こっから入ってきた。分かるか?」

 意味がわからない。示された壁を目を凝らして······

 ──妙だな、色が違う。

 壁の一部がくり抜かれたように白い。

「多分穴開けて俺ら入れた後、丁寧に埋めたんだな。窓から道具投げて、犯人も脱出したんだろ」

「なるほど···でもそれなら窓やその埋められた壁にそれなりの証拠があるだろ? ロープとか······って、まさか」

「ごめん、下手だなって思って捨てた」

「バカモノォォォォ!」

 説教しようとするのを遮るように薫が「丸腰」と言って手を出した。全てを理解し、諦めて警棒を渡す。

 薫は軽く振り回して壁に狙いを定める。

「先に行ってろ。遅くなるから」

「何する気だ」

「遊んでくる」

 薫は壁に向かって走り出し、勢いを殺すことなく跳躍、体を回転させる。



「おらよっっ!!」



 紅い炎をまとった回転蹴りが壁に突き刺さり、爆発音を伴って破壊された。煙を上げ、焦げた壁の向こうから男たちの悲鳴が聞こえてくる。

 ああ、複数犯なのか──

 隼は窓を開け、躊躇(ためら)うことなく───


 飛び降りた。


 ()()()()()、地面から強風が吹き上げ無事に着地する。辺りを確認すると、どうやら街の郊外の廃病棟のよう。


(知ってる場所でよかった)


 玄関の方に出ると、男の山が出来上がっていた。

 その辺の不良から、顔の怖い方まで十数人。それでも建物の中からは骨の砕ける音、薫の雄叫(おたけ)びと男たちの悲鳴が響く、響く、響く──

 新たな男達が山の仲間入りして恐怖のこびり付いた顔で気絶する。同情しつつもポケットから携帯電話を取り出し、慣れた早さで電話をかけた。三回目のコール音で『はぁ~い、わっちでありんす』と声がした。



「警護課の風谷ですが······」



 丁度その時、薫が男を引きずって現れ、片手で高く掲げて「大将討ち取ったりぃぃぃぃぃ!!」と満足げに叫ぶ。

 電話の向こうにも声が届いたらしく、隼と同じタイミングでため息をついた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ