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少年秘密警察の日常  作者: 家宇治克
アリス狂乱茶会事件
19/109

19話 情報処理課の助っ人 4


「先輩方、自分の課でやってくれません?」


 情報処理課──第一サイバー対策室

 用意してもらった資料を広げ、黙々と読み進める。無論、隼に音郷の声など聞こえていない。

 薫が首を横に振り、隼の隣座るのを見て黙ってココアを作り始める。


「火里先輩、背中の()()うるさいんですが」


 背を向けたままの音郷に指摘され、薫は背中から写真の入った封筒を出す。


「そっちじゃなくて、もっと()()()()


 薫は「耳がいいな」と笑って拳銃を机に置いた。音郷がカップと引き換えに拳銃を受け取る。

少秘警ウチのですね。まぁ犯罪には使えませんが······確か警護課のアイツが盗られたって言ってましたね。はぁ······注意しておきます。で、何で銃口が溶けてるんですか?」

「······わりぃ」

 音郷と薫がやり取りしている間、隼は一人黙考していた。


 資料のほとんどは窃盗と殺人。どれも有り得ない話ではない。だが公演中でも事件が発生している。

 サーカス団には何かある。それは確かだがどうやって──



「ねーぇ何が引っかかってんのォ!?」



 耳の至近距離で薫が大声を出す。驚き叫んで離れるも、時すでに遅し。

 耳鳴りがするわ鼓膜がビリビリ痛むわで音が聞こえない。

 薫は面白がり、音郷は黙ってハリセンを差し出す。

 隼の選択は決まっていた──


 ***


「······で、何が引っかかってんだよ」


 散々叩きのめされた薫の二度目の質問。

 正直答えたくはないが情報を共有しないと仕事が進まない。


「ミラーは『マッドハッター』だ」


 薫の目から笑いの色が消える。

「根拠はなんだよ」

 音郷がそっとココアを置いて席に座った。

「そっぷるたんの家に紅茶の類は無い。でもティーカップに付いてたのはダージリン。ミラーの好みの紅茶もダージリン」

 ミラーと会話した時、ふと紅茶の匂いがしたのを思い出す。

「待て待て。付いてたっつっても、匂いだけだろ。それだけじゃあ、線は薄い」

 確かにそうだ。匂いだけで犯人扱いされたらたまったもんじゃない。

 ──だが、根拠は他にもある。


「三年前の事件を持ち出した時、目の色が変わった。きっと何か関わりがあったんだろ。 一番気になったのは目撃証言だ」

 音郷を指差して「人が屋根を飛び移るのを見たら何て表現する?」と問う。

 音郷は少し動揺する。


「に、忍者みたい······とかでしょうか?」


 疑問符を浮かべて返した。

「そうだ。普通は『忍者』と表現するはずなんだ。でも『ねずみ小僧』と答えた。とっさに聞かれてそう答えられるか?」

「えー、人によるんじゃねぇの? でもまぁ、いきなりは無理だな」

「だろ? それに『ねずみ小僧』は富豪から金を巻き上げ、貧民に配る義賊だ。薫、お前『金庫が空になってる』って言ってたよな? ミラーは被害者の家から金品が盗まれてることを知っていたと考えれば?」

「なあ『チョコバナナ』と『バナナチョコ』と、どっちが正しい名称だと思う?」



「人の話を聞けっ!!」



 怒り声と共に吹き抜ける強風。

 不意をつかれた薫は抗うことが出来ずに壁に叩きつけられて落ちた。音郷は倒れた机を直し、床にこぼれたココアを拭きながら「自業自得」と呟いた。

「いでで······」と言いながら起き上がった薫は何か言いたげに隼を睨むが、黙って席に戻った。


「あの〜」


 音郷が小さく手を挙げた。

「僕、情処課ですし。基本他の課の仕事はノータッチですが、今回の事件は少しついでに聞きたいことが······」

「ん? 別に構わねぇぞ? なんかあったか?」

「今のところ、証拠品を見る限り事件に関係しているのは『マッドハッター』と『三月ウサギ』なんですよね?」


 音郷曰く、殺害方法が一つ多いらしい。


 三年前の事件で犯人達は一つの殺害方法にこだわりを持っていた。


 イモ虫は自殺に見せかけた絞殺

 白ウサギはアナフィラキシーショック

 ハートの女王は斬首


 今回は『刺殺』と『射殺』の他に、『錯乱死』が混ざっている。

「『刺殺』と『射殺』二つだけなら納得がいくんですが、『錯乱死』って何でしょう? 変死にしては異常ですし」


 言われるとそうだ。二人しかいないのに方法だけが三つある。

「おそらく、『チェシャ猫』か『アリス』のどっちかだろうな」

「どっちにせよ、要注意には変わりねぇ。刑事課アッチに戻るぞ。やることがあるんだろ?」

 心底嫌そうな顔で隼を引っ張って情報処理課を離れようとする。

「零! 今回の被害者リスト、一致する項目を調べとけ!」

「人に頼む態度がそれか!?」

「うっせーよ! 面倒なことはさっさと済ましてぇ!」


 二人が居なくなって静かになった第一サイバー対策室。音郷は「よくコンビ組めたな」とひっそり笑ってパソコンを開いた。

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