「恵まれない雨」結末
「野依さん、野依さん!」
「ん、ん?」
私が目を開けると、満天の星とアザキがいた。
「大丈夫です、か?」
「学校?え?あ?」
私は起き上がるが混乱している。
ここは校庭か。今は、夜の9時か。
「植物があなたをここまで連れてきたんですよ。ほら、屋上行きますよ。」
アザキに体を起こしてもらい、何とか自力で非常階段を階段を上がる。
「……ゆきちゃん、大丈夫?」
「連れて帰りました。一時的なものだったようで、ここに着く頃には落ち着いてました。今は保健室のベッドで眠ってます。」
「そう、よかった。」
私はほっとする。最初の目的だったゆきちゃんは無事だったんだ、よしとしよう。
「風呂、沸いてますよ。もう用意したんで、入りましょう?」
「えっ、でも。いくらゆきちゃんを連れ帰ったからって、今風呂に入るわけにはいかなーー。」
「それ見て言えます?」
アザキに指を指されて、私は自分の服を見る。
自分の服は返り血と泥だらけになっていた。この服はもう捨てるしかないだろう。
「新しい服は用意しておきましたから。肌着は自分でどうにかしてくださいね。」
「逆に私のサイズ知ってもらっても困るけど。」
私たちは屋上まで上がると、一角に簡易的な仕切りが出来ていた。
「あっ、野依さーん。お風呂沸いてますよ。タオルと着替え中に置いておきました。」
仕切りから眼鏡をかけた男が出てくる。
「只野さんにも手伝ってもらいましたよ、俺と只野さんで見張ってますから。」
「ああ、ありがと。」
私は仕切りの中に入ると、テーブルしか置いていない脱衣場に入る。ドラム缶の周辺には湯気が立ち込めている。
「……火傷しそうな勢いだな、オイ。」
そして服を脱ぎ、髪を結い上げてタオルを絞って体を拭く。
彼らには言ってないが、人間を食べるようになってからなぜか熱いお湯が苦手だ。
今回、風呂を沸かそうと思っていたのはいつも頑張ってるアザキにーーいい加減、着替えてもらうためだし。
彼は自分のことに無頓着すぎる。そろそろ新しい服でも買ってくるか、買う場所ないけど。
「……やっぱり、無理だよな。」
1度手をお湯につけるが、やはり熱い。
いや、雑草にお湯かけたら枯れそうになるのと同じか。
とりあえず、このままだと風邪引きそうだし服を着るか。
私は包装紙すら取っていない新品の服に手をつけようとした。
「あっ、野依お姉ちゃん!私も入る!」
「え、ちょっとゆきちゃん?」
なぜか仕切りの中にゆきちゃんまで入ってくる。
「私も洋服汚したから入っていいって言われたの!ほら、バスタオル持ってきたし入ろうよ。ね?」
ゆきちゃんは半ば強引に私を引っ張り、お湯に入れる。
「え、あ、ちょっと。」
じゃぽんっ!
危うくドラム缶の底に足がつきそうになる。
「……っ!」
何とかすのこの上に足を置けた。
「少しだけ熱いねー。」
なぜな、ゆきちゃんとお湯に浸かると思ったより熱くなかった。
きっと道端に生えているたんぽぽだって1回くらいお湯に浸かっても枯れないのと同じだろうーー多分。
たんぽぽにお湯かけたことないからわからないけど。
「ゆきちゃん、今日怖くなかった?」
「うーん、わかんない。覚えてないし、気がついたらベッドの上でお母さんとアザキお兄ちゃんが心配していたから。」
空を見上げると満点の星。
「ご飯も美味しいし、お風呂あったかいし、寝るところは寒くないし、野依お姉ちゃん遊んでくれるし、お日さまが見れるーーここに来てよかった。」
ゆきちゃんはうつむく。
「1か月前まで地下鉄にいたんだっけ?」
「うん、お母さんと私で地下鉄にいたの。植物は地下鉄なら入って来なかったから……本当はただの偶然だったけどね。」
ゆきちゃんたちは不足した食料を手に入れるために地下鉄を出た。そこで私に出会った。
「私ね、もう少し大きくなったらアザキお兄ちゃんみたいにずっと野依お姉ちゃんといるの。だからね、私頑張るよ。」
「そっか。」
私はゆきちゃんの頭を撫でる。
今日は色々あったけど、こういう日も悪くない。
でも。
あの、甘崎って人は結局なんだったんだろう?
男子高校生を脅してゆきちゃんを拉致らせて実験?
植物と同じようにテレパシーが使いたいと言っていたけど、そのためにあの死体の山まで作ってしまうほど残忍。
面倒なことにならないといいんだけどな。
「そうだっ、アザキ君にも風呂入ってもらわないと!」
私は風呂から飛び出す。
「え、お姉ちゃんもう上がるの?」
「うん、小学生とならアザキ君も犯罪にならないと思うし大丈夫。」
「アザキお兄ちゃんとは嫌だよ?最近ちょっと臭いし。」
「それ私も思ってた。」
「ちょっと!何言ってるんですか?!大体あなたが帰って来ないから寝る時間も風呂に入る時間もないじゃないですか!怒りますよ!」
「……アザキ君は、1回着替えたらいいと思う。」
「只野さんまでそんな冷めた目で見ないでくださいよ!わかりましたから!」
「ほら、上がったから入って。」
とりあえず、今夜は早めに寝ようかな。