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危険なピクニック

「ガチャ!」

 と、翔太は玄関の扉を開けた。

「ただいま~て、愛美のやつは旅行に行ったのか。相変わらず、行動力があるな(笑)」

「ねぇー翔太、お水くれない? 頭痛くて・・・・・・」

 あやめは、少し苦しげな様子で玄関に座り込んだ。

「あーうん、ちょっと待ってて・・・・・・すぐ持ってくるから」

「ありがとう」

 翔太は、荷物を部屋に持っていくとキッチンに水を注ぎに言った。コップに水を注ぎながら

,ふとテーブルの上を見ると、なにやら置手紙がおいてあった。

「ん、なんだ愛美からか。えぇーと、じゃー行って来ます。火には気おつけてね! それと、

浮気しないようにね(笑)って、子供じゃないんだから・・・・・・」

「翔太~早く水頂戴」

「はいはい」

「返事は一回だよ。それに遅いよ翔太、もう喉からからだよ」

「あっ、ごめん。はい、お水」

 あやめは、コップ一杯を一気に飲み干した。しばらくして落ち着くと、ソファーに座りまた思

い出した記憶の一部を話し出した。翔太も、真面目な表情になり話を聞き始めた。相変わら

ず、あやふやな所も在ったが、そんな事を踏まえても少しずつ子供への手掛かりが掴め始

めてきた。

「ということは、その海釣りと高尾山とが今回のキーワードになるわけか」

「だけど、高尾山は近くにある観光名所だけど、海釣りは何処でなのかは分からないんだよ

ね。どうしようかな?」

「それは調べてみる。ここら辺で海釣りが出来るところを探がせば分かるかもしれないから」

「じゃ、私少し休んでいいかな? ちょっと、疲れがひどくて・・・・・・」

「うん、いいよ。その間に調べておくから、休んできな」

「ありがとう、何か分かったら呼んで・・・・・・! おやすみ」

「お休み」

 あやめは、寝室へと眠りに入った。翔太は、すぐに高尾山の登山ツアーの予約と海釣りの

場所の特定に急いだ。

「ふむふむ高尾山のツアーの予約は、明後日が何とか二組開いてる。その日に予約だな、

あとは海釣りなんだけどこれが一番問題なんだよな。何処を探していいのかすら分からない

からな?そうだ、健に調べてもらうかな・・・・・・・」

 翔太は、健に電話した。

「もしもし、何方ですか?」

「さっき、会ったばかりじゃん。俺だよ俺」

「すいません、俺々詐欺に引っかかるほど年じゃないんで、では・・・・・・」

「ちょっと待て、翔太だよ翔太。兄貴だよ!」

「あーなんだ翔か、何か用?」

「あのさ、ちょっと調べてほしい事があるんだけど、今いい?」

「ごめん、今忙し・・・・・・ちょっやめ・・・・・」

 電話の向こうで何やらもめている様子だ。

「翔兄どうしたの?」

「おう、日向。一つ聞いていいか?」

「うん、なに・・・・・・」

「健今、忙しいの? もしかして、また面倒だからとか言ってないよね」

「あーうん、いっ・・・・・・」

「なに、どうしたの翔。調べたい事って? あやめさんの事についてだよね」

 健は、あからさまに日向から携帯電話を取り上げ、話をごまかした。

「そうだけど、あのさここら辺で海釣りが出来るところとか無いかな? そう言った感じの、海

釣り体験でもいいんだけど・・・・・・」

「ちょっと、待っててすぐに調べるから」

「おう、助かるわ! そうだ晩ご飯作らないと、もうそろそろ7時になっちゃうな何作ろう・・・・・

・ポークソテーでも作ろうかな? 確か、豚肉残ってたし」

 翔太、健からの連絡を待っている間に晩ご飯を作り始めた。基本的には、愛美が居ない時

は、簡単なもので済ませている。その分、空いた時間でお菓子や作った事の無い料理を作っ

ている。そんなときが、至福の時間だ。

「プルプルプル」

 翔太の携帯がなった。

「おっ着たな! もしもし、何か分かった?」

「ん~それが、分かったは分かったんだけど・・・・・・」

「なんだよ、分かったんだったら教えてよ」

「ここら辺で、海釣り体験的な奴は3つ在ったんだけど翔も見てみてよ、一様ファックスで送る

から」

「あーうん、分かった」

 健から送られてきたプリントには、3つの海釣り体験が出てきた。それも、普通の人なら行か

なそうな体験ツアー揃いだった。一つ目はカンパチの養殖体験で、二つ目は鰹の一本釣りで、

最後の一つが鮪釣り体験だった。

「おい、健・・・・・・一つとて普通の釣り体験じゃないんだけど・・・・・・」

「僕に聞かないでよ、あやめさんが行ってたんだから!」

「まぁーあいつの事だ、鮪とか鰹が沢山食べられるとかで決めたんだろうな」

「あやめさんならやりかねないね(笑)」

「ありがと、あとはあやめに聞いてみるから、バイバイ」

「いいよ、バイバイ。翔兄またね~!」

「うん、またね。さてと・・・・・・」

 翔太は電話を切ると、あやめを呼びに行った。だいぶ疲れていたから起こす気には

ならなか

ったけど、聞かないことには始まらない。そう考えていると、突然何かが落ちた音がし

た。

「なんだ? 寝室からだ。あやめ大丈夫か?」

「痛った~い」

「なんだ、あやめがベットから落ちただけか」

「なんだは無いでしょう。もう、お尻痛い」

「ごめんごめん大丈夫?」

「大丈夫、それより何か分かった翔太」

「あっそうだ、あのさこの中であやめが入った事が在りそうな所を健に探してもらったん

だけど、この中にある? 死ぬ前の記憶で出てきた海釣り体験的な奴」

「う~ん、どれも美味しそうだけどな・・・・・・」

「いや、そこじゃなくて。ある、この中に」

「どうだろう、どれも言った気がするんだけどな」

 その時、翔太はひらめいた。

「もしかして・・・・・・あやめこの中で一番好きな魚は」

「やっぱ、鮪でしょ! でも、多分鰹だと思うんだよね」

「なんで」

「確か、鮪はさすがに大変だからって、鰹の一本釣りならいけるかもって言ってた気がす

る」

「お前、とことん自由だな」

「へへ」

「じゃ、この鰹の一本釣り体験で決定だな!」

「やったー食べ放題だ。楽しみだな」

「よし、そうと決まればご飯作ってあるから食べよう」

「うん」

 そう言うと、二人は晩ご飯を食べた。翔太は、あやめを先に寝かせると、鰹の一本釣り

についてもう少し詳しく調べて、明日に備えてベットに入った。

 まだ太陽が顔を出していない朝起きると、翔太はあやめを起こして着替えさせて、自転

車の二台に乗せた。そしてここから、5キロ地点にある漁港にいざ向った。

「さすがに、8月でも太陽が出ていないと、肌寒いな・・・・・・」

「翔太~寒いよ~。なんで、こんな朝早くに起きなきゃいけないのよ」

「仕方ないだろ、漁に出るのが早いんだから。それに、ここから少しあるから早めに行か

ないといけないし」

「そうなんだ、おやすみ」

「いや、おやすみじゃなくて、まぁいいか着くまでだからな。着いたらちゃんと起こすから」

「はーい」

「またったく、しょうがないんだから」

 翔太はしばらく街中を走った。人気が無く静かな中、自転車のこぐ音が街中に響き渡っ

た。海岸近くまで来ると、向こう側に漁港が見えてきた。

「やっと、着いた! あやめ起きろ、着いたぞ」

「もう、着いたの。はぁー眠たい」

「ここら辺なはずなんだけど・・・・・・今日は無いのかな漁?」

「そんなー、せっかくここまで来たのに、どうすんのよ」

「いや、ここまで乗せてきたのは俺だから。でも、どうしよう・・・・・・」

「ねぇー、あれじゃない?」

「えっどこ」

「ほらそこよ、今明かりが点いた船だよ!」

 あやめが指差す方を見ると、見た直前に目の前の船が明かりを点くのが見えた。翔太

は自転車を止めると、明かりの点いた船のほうに向った。近くまで来ると、船のところに

何人かのおじさん達が出航の準備をしていた。その中で、一番偉そうな人に話しかけて

みた。

「あの、すいません。今から出向ですか?」

「あぁーそうだけど、なんか用かい兄ちゃんこんな早くに?」

「あの、この船に乗せてくれませんか?」

すると、おじさんは先ほどとは一変して起こり気味で話し出した。

「兄ちゃん、ふざけた事いわねぇーでくれよ。今日の予約は、無かったはずだよな高木」

 高木という男に尋ねた。

「はい、今日の体験予約はないと聞いています」

「だよな、というわけだ。体験したけりゃ、ちゃんと予約してから来てくれや、じゃあな」

 おじさんは、翔太に一言添えると、準備に戻った。そこで、翔太はおじさんを止めるため

に一生懸命頭を下げた。

「お願いします! 今日しかないんです。あやみのためなんです」

「翔太・・・・・・そこまで」

「そう言われてもな・・・・・・分かった話だけ聞いてやる。そこに座れ」

「ありがとうございます」

 翔太は、今までのことを言える範囲で訳を話した。おじさんには、頭がおかしい奴だと思

っていただろうなと思いながら話を進めた。すると、おじさんが立ち上がった。

「兄ちゃんもしかして、20年前って言ったな」

「はい、そうです。それが」

「確かに来たんだよ。20年前に、一組の夫婦がお前さんみたいに急に来て、お願いだか

らと頭を下げられて仕方なく乗せたんだ」

「ん・・・・・・それでどうなったんですか?」

「そんときは、1週間ぐらい全く釣れない日が続いてな、なのにその夫婦が来た日にはそ

の年で、一番水揚げがよかったんだよ。しかも、鰹釣りなのにマグロを釣り上げたしな」

「そんなことが・・・・・・さすがというべきか」

「分かった。その夫婦との縁がある奴なら、特別に乗らしてやる!」

「本当ですか?おじさん」

 翔太は、何も気にせずにおじさんと言った。

「おっおじ・・・おう、男に二言はねぇー! ただし、甘く見るなよ。海は怖いからな・・・・・・」

「はい、ありがとうございます」

「あと、おじさんじゃねぇー、辰五郎だ」

「はい・・・・・・!」

 そう言うと、翔太は辰五郎さんの後に着いて行き、船にへと乗り込んだ。 


 エンジンをつけると、数名を乗せた船は動き出した。翔太も海には何度か来た事があるが

、ここまできれいな海は初めてだった。海はコバルトブルーの如く輝き、鴎が近くを飛び、気

持ちい潮風が吹いていた。日差しもよく、まさに釣り日和のはずが、なにやら船員の人たち

の様子がおかしい。翔太は、辰五郎さんに何があったを聞きに言った。

「辰五郎さん、何かあったんですか? さっきから、船員の人たちが騒がしいんですけど」

 辰五郎が翔太に一言言った。

「いや、何も無かった・・・・・・」

「えっ、どういうことですか?」

 翔太は、辰五郎が何を言っているのか分からなかった。

「だから、魚の群れが全くいないんだよ。なんでだ、昨日までは普通につれてたのに・・・・・・

おめぇー疫病神か?」

「えっまさか・・・・・・はは」

苦笑いをする翔太。ゆっくりと、辰五郎さんの元を離れる。

「翔太!」

「うわっ・・・・・・なんだあやめか。なんだよ、お前まで俺を疫病神とか言うんじゃないだろうな」

「なわけないでしょ! えっなに、言ってほしいの? 疫病神疫病神」

「分かったから、おれが悪かった。それより、まさか辰五郎さんがお前の事を知っているとわ

な。正直おどろいたよ」

「確かに、私は何も覚えてないけど一つ不思議なのよね」

「なに、なんか思い出したのか?」

「いや、そうじゃなくて・・・・・・なんで、鮪じゃなくて鰹にしたのかな私?」

「お前は、食べ物の事しか頭に無いのか? それに、辰五郎さんがさっき、鰹釣りなのに鮪を

釣ったって言ってたから、鮪食べれたんじゃないの」

「そうかも・・・・・・ん?」

 あやめは急に話を止めると、西のほうを一点に見つめていた。

「どうしたあやめ・・・・・・」

「あっち・・・・・・あっちに魚の群れがいるよ翔太!」

 あやめは、一生懸命西のほうを指差す。

「なんで、分かるんだよ?」

「なんとなく、急に魚の声が聞こえた気がするの。ねぇ、辰五郎さんに知らせてきて・・・・・・急

いで翔太魚が居なくなっちゃうじゃない」

「えっあっうん、分かった。言ってくる!」

翔太は、あやめに言われたとおりにおじさんに知らせに行った。

「あの、船長どうですか?」

「駄目だ、全くいねぇーな・・・・・・昨日まで釣れてたのにな」

「あの、あっちの方に魚がいそうなんですけど」

 幽霊が言ったなんて、とてもじゃないけど言えない。おじさんは、翔太の言った方向を見ると

何かに気づいた様子で、舵をきった。他の、船員の人たちにも知らせると、急いで寮の準備を

始めた。

「信じてくれるんですか? 僕の話」

「あぁ、どうせ釣れねーなら、挑戦した方がいいだろ! あの日もこんな感じだったしな。ほら、

おめーも釣るんだろ早く準備しな。初心者だから、一番後ろのほうに座れよ」

「はい、すぐ準備します!」

 翔太は、意外な答えに驚いたが、急いで竿持って配置に座った。

「信じてくれたみたいだね。よし、釣るぞ~」

「釣るぞって、どうすんだよ? さすがに、竿もつと浮いて見えるから不味いし」

「大丈夫! いい方法があるから、楽しみに待っといて」

「ふっ不安だ」

 二人が話している間に、突然一人の船員が船長に知らせた。

「船長、鰹の群れが来ました、かなり大きな群れです」

「みんな、準備はいいな。一匹残らず釣れよ!」

「おーーー」

 皆が位置につくと、船の先端から水しぶきを出し、生きた鰯を投げ入れた。さすがに、熟練さ

んは簡単そうに次々に釣り上げている。でも、翔太は何度も竿を振るが、なかなか釣れない。

「意外と難しいな・・・・・・全く釣れねーな」

「もう、何やってんのよ! 仕方ない私が釣るから体かして」

「借りるって、まさか憑依とか言うやつ?」

「そうだよ、じゃ行くよ。それっ」

 翔太の体に入ると、あやめはいとも簡単に釣り上げた。船長は翔汰にあやめが入ったと知ら

ずに、ただ感心していた。

「よーし、いっぱい釣って、たくさん食べるぞ!」

「やるな、あんちゃん。どんどん釣れよ」

 一人の船員が言った。

「ん? あれ、急に重くなった。もしかして・・・・・・これって」

「どうした? あんちゃん手伝おうか」

「だっ大丈夫よ。位置、にの、さん、はい!」

 翔太(あやめ)のかけ声と同時に、黒き輝く巨大な鮪が海から飛び出し、漁船の宙に浮いた。

勢い欲跳ねて、魚背へと落ちてきた。重厚間のあるその鮪が漁船に落ちると、大きな水しぶき

がおきた。船乗り全員がど肝を抜かれたような顔をしていた。

「まじか、鮪釣りやがった。鰹の竿で釣りやがったぜ。しかも、黒鮪だ! とんでもねぇー大き

さだ。俺が生きてきた中で、見たこともねぇーサイズだ。おい、メジャー持って来い。後計りも!」

「はい」

 船員の誰かが、急いで取りに行った。

その間に、あやめは翔汰の体から抜けた。憑依者には、憑依していたときの記憶が残らないため、翔太には何が起きたか分からないのである。

「ふぅー、まぁまぁね。やった、これだけ大きければ、食べ放題ね。」

「ん、もういいのあやめ? ってなんですかこれは・・・・・・・・・、まさか鮪!」

「なんですかって、おめぇーが釣り上げたんじゃないか。しかしたいした腕だ。」

「えっあ、そうなんだ。あやめの奴、鰹釣りで鮪なんて釣るなよ。びっくりしたじゃん」

 あやめは満足そうに、海を眺めている。船は、そのまま鰹釣を止めてすぐさま港へと帰ってい

った。数十分たって港に着くと、船員たちは鮪を降ろし始めた。翔太とあやめも、漁船から降りて危険だからと言われて、少しはなれた所で待っていった。港の人たちが一斉に集まってきた。翔太たちも船長に呼ばれて、鮪のもとへ行った。

「どうしたんですか?」

「どうしたもこうしたもじゃねぇーよ。おめぇーが釣った黒鮪が世界記録を抜いたんだよ! 世界記録は、全長四五八センチで、重さが六八〇キロなんだ。それが、お目ぇーが釣ったのは、全長四八九センチで、体重が711キロだったんだ。」

「いや、すげぇーもんだな。俺も初めてだわ、こんな化けもん見たのは・・・・・・・・・」

「本当! 私も生まれて初めてだよ」

 港の人たちから賞賛を浴びた。

「で、どうするよあんちゃんこの鮪?」

「さすがにもって帰れなし、今日は急に乗せてもらったのもあるので、差し上げます」

 一瞬、空気が止まった。誰もが、答えるはずの無い答えだったのだから。

「本当かいあんちゃん? 聞いたか皆、差し上げるってんんで。このあんちゃんに感謝しりょ」

「おぉーーー。やったー、ありがとなあんちゃん」

 と、皆が喜んでいる中一人だけ怒っている奴がいた。そう、釣り上げた本人だ。それはそうだ、釣ったのは翔太ではなくあやめなのだから・・・・・・・・・。

「ちょっと、私の鮪よ。絶対もって帰るだから!」

「ごめんな、でもさすがにもって帰れないし。それに、お世話になったんだからそのぐらいしない

と、あとでなんか美味しいもの食べさしてあげるからさ、ね」

「じゃー、翔太の家の近くのスーパーで鮪のお刺身10人前買ってね・・・・・・・・・」

「えっ、そんなんでいいの? まぁ、あやめがそれでいいなら」

 翔太は、罪悪感がある中少し笑ってしまった。

「あの、船長僕もう帰りますね。今日はありがとうございました。」

「あーちょっと来いあんちゃん」

 翔太は船長呼ばれた。

「あやめは、ここで待ってて。はーい、今行きます」

 しばらくして、翔太は帰ってきた。右手に大きな袋を持って。なにか話している様子だったが、あやめはきにしなかった。というか、鮪と離れるのが悲しくて気にもならなかったのだ。

「じゃ、帰ろうか」

「なにその袋? なんが入ってるのよ」

「帰ってからのお楽しみ」

「なによそれーーー」

  二人は、夕日に照らされながら、家へと帰っていった。

 「お腹すいたーーー! 早くご飯たべたーい」

「ちょっと待って、もうすぐ出来るから。先にお風呂でも入ってたら」

 翔太は、優しい笑顔で言った。

「へーい、分かりましたよ」

 そう言うと、あやめは頬を膨らましながらお風呂へ入りに行った。

翔太は、スーパーで買った鮪の刺し身を冷蔵庫にしまうと、先ほどの漁で持ち帰ったビニール

袋から採れたての鰹一匹と、あやえには内緒で頼んでもらった天然クロ鮪の切り身を出した。

「よし、あやえが風呂から騰がる前に済ませちゃおうっと」

 しばらくしてあやえがお風呂から上がってきた。

「ねぇ、翔太どう?」

 あやめは、バスタオルで隠しているだけで、まだ着替えていない状態で翔太を呼んだ。

「どうって、寒くないの? 風引くよ」

 翔太は何も思うことなく、言葉を返す。

「いや、そうじゃなくでどう? まだ、ピチピチの身体よ」

「ねぇ、あやめいい年なんだから。もう、40さブフ・・・・・・・・・」

 あやめの、物を言わさずの速さで翔太に一発決めた。

「ごめん、聞こえなかった。もう一回言ってくれない?」

「いや、なんでもない。それより、ご飯しよう。お腹空いたでしょ」

 翔太は、お茶を濁すように言った。

「そうだった、早く食べようって、何にも乗ってないじゃん? まさか、まだ作ってないとか言い

わないよね。もう、お腹と背中がくっつきそうだよー死ーーー」

「もう、死んでるじゃん」

「ジロリ・・・・・・・・・」

 あやめは、鋭い目を翔太に向けた。

「大丈夫! ちゃんと作ってるよ。 それよりさ、目瞑って」

「なんで?」

「いいから早く、じゃ少し待ってて!」

 翔太は急いで、テーブルに料理を並べた。もちろん、メインの鮪の刺身盛りを真ん中に置い

た。あやめをテーブルの前に連れていった。

「あやめ、もう目を開けていいよ」

翔太の合図で目を開けた。すると、目の前に鰹の尾頭付きの刺身盛りが目に入った。そして、

そのテーブルアイランドの中で一番の輝きを見せるのがなんと言おうあやめが翔太に取り付い

て釣り上げたクロ鮪の刺身盛りだ。あやめは、目をきらめかせいすに座った。

「これって、漁で釣った鰹だよね? それに、これって私が釣った鮪ちゃんじゃん。えっ、どうし

たの、スーパーで買った奴じゃないよね」

「もちろん、正真正銘あやめが釣った鮪だよ! あの後、船長に呼ばれて持たされたんだ。鮪のお礼にって、本当は鰹も全部持ってけって言われたんだけどね。さすがに、もって帰れなかったから、一匹だけもらったんだ。鮪は、船長にこっそり頼んで少し分けてもらったんだよね」

「やったーーー食べ放題だ! ねぇ、全部食べていいの?」

 あやめは嬉しそうに翔汰に言った。

「全部って、俺にも少しくらい分けてくれよな。じゃ、食べようか」

「うん、いただきまーす!」

 あやめは、いただき言った瞬間真っ先に鮪の刺身にへと箸を運んだ。とれたての、クロ鮪は舌の大地にしみこんでいくかのようなとろけぐあい・・・・・・・・・、

「うーーーん、お・い・し・い」

「そんなに美味しい、じゃ俺もいただきます・・・・・・うわ、本当だ! 舌の上でとろける」

「ありがとうね翔汰。私もう幸せだよ」

「あやめは基本、食べ物があれば幸せでしょ(笑)」

「まぁねぇ、でも今回は特に幸せ。だって、死ぬ前に鮪なんか食べた事なかったもん」

 翔太の、いじくりもスルーできるほどの破壊力さすがは天然鮪だと翔太は思った。

「そうだ、今思ったんだけど、今回(今日)昔の記憶が戻らなかったけど、どうしてだろう?」

 あやめは、刺身を食べながら言った。

「漁自体に関しては、大事な記憶じゃなかったんゃないかな。それなら尚更良かった、一応船長にあやめと旦那さんが急に来た日のことを聞いておいて・・・・・・・・・」

「なんて言ってたの?」

「えぇーっと、まずあやめが急に来て漁をして、釣れなかった日が続いたのに急に釣れ始めて、大量だった事が一つ。そして、一番気になったのはあやめが釣っている時に、「明日は山登りに行くんだよね」と、いっていたらしいんだ。これって、高尾山のことだよね。やっぱり、次に記憶が蘇るとしたら、その高尾山ってことになる」

 翔太は、ビールを一杯飲み干した。

「そうだとしたら、さっそく明日の準備をしてねないとね!」

「よし、さっさと片付けて明日に備えよう」

「オーーー!」と、声を上げた。




「はーい、こちらに並んでください!」

 女のインストラクターが、登山客を集合させた。翔太たちも、列の最後尾に並んだ。

「たく、あやめの着替えが遅いから最後尾になっちゃった」

「だって、寝癖が酷かったから手入れするのに時間がかかったんだもん。それに、あの時 ・・・・・・翔太だって私が終わった後に、録画するの忘れたって言って、テレビ見てたでしょ! 

お互い様ですー」

「それは・・・・・・」

 朝、7時集合になっていた登山のために、目覚ましを5時に設定していた。けれど、目覚まし

が鳴ったのは6時だった。翔太が5時と6時を間違えたのもあった。

「やっべ、もう6時だ。おい、あやめ起きろ! あと、一時間しかない」

 翔太は、焦り気味に爆睡しているあやめを起こした。

「早くしてね、時間が無いから・・・・・・」

「はいはい、もう少しだから待ってて。何でこんな日に限って寝癖が酷いのよ」

 あやめも、愚痴をもらしながら髪の手入れを終わらせた。

「終わったよ翔太! って、何してるの?」

 あやめが見たのは、翔太が準備が終わっているものの、テレビを点けて見ている姿だった。ただ、待っているだけで見ているならいいが・・・・・・・・・、

「ちょっと待って、もう少しで終わるから! この番組、録画するの忘れてたんだ。よかったーー

ー気づいて、見過ごすところだったよ」

「とか何とか言って、集合の10分前まで見てたでしょ」

「それは・・・・・・ごめん」

 そうこうしている内に、登山の説明が始まった。

「はい、それでは高尾山一日登山始めます。知ってのとおり、この高尾山は千三百メートルの

高さで高度は低いですが、山の周りは広大な緑で生い茂っています。なので、遭難しないよう

にしっかりとついてきてくださいね! もし、何かあったら先ほど渡した無線機で連絡ください。

では、出発します」

「ちょっと、待ってください!」

「ん?」

 翔太と登山者たちが、呼びかけに振り返ると、一人の男がこれから登山というのに息を切ら

せながら走ってきた。よく見ると、翔太の親友の琢磨だった。

「では、最後尾の人に着いて来て下さい」

 女のインストラクターは、苦笑いで迎えた。

「よかった間に合って! せっかく予約したのに、行けなくなるかと思った」

「間に合ってないよ琢磨」

 翔太は冷たい目で琢磨に言った。

「えっあ、翔太なんでこんなとこにいんの? あっ、あやめちゃんもいるし。やっぱりデートか」

「違うよ、それよりお前は何で登山しに来たんだよ」

「いや、実はさ最近登山ブームで、可愛い女の子達が登山に来てるらしいんだよね。だから

もしかしたら、彼女出来るかと思って来たんだ」

「なるほどね、でも見たところご年配の方達ばかりだよ」

「そんな、せっかく来たのに・・・・・・・・・そうだ! あやめちゃん一緒に登らない? どうせ、着

く所は同じなんだから、行こうよ」

 諦めきれない琢磨、あやめを登山相手に誘った。可愛そうに思った翔太は、仕方なしに了承

した。あやめは、早くお昼のお弁当が楽しみでしょうがなく、行く分には誰でも良かった。

「じゃ、俺たちゆっくり行くから先に行ってていいぞ翔太!」

「いいけど、遭難だけは気お付けてよ。二人とも方向音痴なんだから」

「分かってるって」

 そう言うと、翔太は先へと進んだ。しばらくして、高尾山の景色を見ながら歩いていると、一

人のお婆さんが足を痛めながら、歩いていた。

「大丈夫ですか?」

「いやね、少し足を挫いたみたいでね。大丈夫ですよ、私なんか気にしないで、先に行ってくだ

さいな。私はゆっくり行きますから・・・・・・・・・」

 お婆さんは、痛そうな足を引きずりながら歩いていく。翔太は無視することができず、お婆さんの重そうな荷物を持ってあげて手を貸した。

「旅は道ずれ世は情けっていいますから、どうせ行く所は同じですから一緒に行きましょう」

「ありがとう、じゃお願いしようかしら」

 お婆さんと翔太は登山を再会した。登っている最中にいろいろな話をした。普段はどんな事を

しているのかとか、好きな食べ物とか平凡的な会話をしていた。

「お婆さんは、なんで登山に来ているんですか?」

 お婆さんは軽くわらいながら言った。

「恥ずかしい話、主人を亡くしてから20年経ちましてね。毎年4回、この山を登ってるの。最初に

登ったときは、主人がいきなり登山がしたいと言い出してね、大変だったのよ。」

「そうだったんですか。じゃー、思い出のやえなんですね」

「そうなのよ。まぁ、なんだかんだで結婚してから20年経って、主人が死んでからもなんとなく行きたくなって、毎年来ちゃうのよ。おかしいでしょ?」

「いやぜんぜん可笑しくないですよ! ちゃんとした理由じゃないですか」

「そう、そう言ってくれると嬉しいわ。あら、話している間に頂上に着いちゃったわね。ごめんなさ、年よりは話が長くて・・・・・・・・・」

「いえ、じゃー僕はこれで。ゆっくり休んでから降りてくださいね。一様、インストラクターの人に伝えておきますから」

「何から何まで、ありがとうね。では・・・・・・」

 そういうと、お婆さんは去っていった。翔太も、あやめたちを探しに歩き回ったが、二人の姿が見えない。

「あいつらまだ着いてないのかな? たく、しょうがないな。ん、もしかして・・・・・・・・・」

「パラパラ・・・・・・・・・ザァーーー」

「皆さん落ち着いて下さい! 焦らずに山小屋へ入ってください」

 突然大雨が降り始めた。登山客達は急いで頂上にある山小屋へ非難した。話を聞くと、突然

天気予報が外れて夕方になるまで嵐が続くらしい。登山客のほとんどが、ご年配が多くとても雨が降っている中の帰りには無理があった。それに、

「皆さん悪い知らせが一つ、今本部に連絡したところ高尾山に流れる川が氾濫して、とても降りれる状態ではありません。なので、ヘリで救助に来てもらいます。しばらく、かかりますが安心して待っていてください」

 翔太は、連絡を聞いた瞬間係りの人に向って焦りながら言った。

「あの、俺の友達が二人まだこの山小屋に着いていないんです! あいつら、後から来ると言って、多分途中で道に迷ったんだ」

「分かりました、救助隊に至急連絡します。今は、危険ですので無事を祈っていてください」

 と言って、係りの人は至急連絡をしに行った。翔太は、壁を軽く叩き座り込んだ。

「くそ、あの二人だけにするんじゃなかった。無事でいてくれ」

  その頃二人は、翔太が思っているほど大した事無い状況だった。もちろん、二人の方向音痴

力はしっかりと働いていた。

「ねぇー、本当にこっちであってるの?」

「そのはずだけどな、もしかして迷っちゃったかな」

 相変わらず、能天気な琢磨。

「もう、お腹すいたからどこかでお弁当食べようよ。ねぇ、あそこなんてどうかな? 気が横になってて座りやすそうだよ」

「そうだね、早く食べて頂上を目指そうか。でも、それにしても急に空が曇ってきた気が」

「いいから、食べよう! いただきまーす」

「おっ、相変わらず美味しそうな弁当作るな翔太の奴・・・・・・・・ん? やべ、雨が降ってきた。あやめちゃん、どこか雨宿りできるところ探そう」

 琢磨は、あやめを連れて雨宿りの出来そうなところを探した。なかなか見つからない。次第に雨も強くなってきた。すると、あやめが突然止まって言った。

「ねぇ、あそこいいんじゃない? いい感じに、洞窟みたいになってるし」

「ちょっと待って、地面がぬかるんでるからそんなに早く走れな・・・・・・・・・」

「ズルッ」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 琢磨は、足元を滑らせて高い急斜面を滑り落ちた。あやめは、急いで助けに向った。急斜面ではあったが木が生い茂っていたおかげで大した怪我にはならなかった。

「大丈夫? なんか翔太見たいなどじするんだね。でも、よかった。大した怪我じゃなくて」

「いてて、大した事無いけど、結構痛かったんだからね」

「はいはい、じゃ行こう。滑り落ちたおかげで、すぐそこだから」

「うん、いっ痛」

「どうしたの?」

「足、挫いたみたい。どうしよ、歩けそうにないや。あやめちゃんだけでも、洞窟に行っといてよ。風引いちゃうから」

 琢磨は、自分のことよりもあやめを心配した。

「もう、しょうがないな! ほら、背中に乗って、おんぶするから」

「えっでも・・・・・・・・・」

「つべこべ言わずに、早く乗って! ちゃんと、掴まっててよ」

「あっありがとう」

「お礼は、プリン20十個でいいよ」

「・・・・・・・・・えっあはい」

 洞窟へ連れて行くと,足場の良さそうなところに琢磨を降ろした。少し間沈黙の時間が続いた。

あやめは気にせずに、翔太の作った弁当を食べている。沈黙に、耐え切れなくった琢磨が、話を切れだそうとしたとき・・・・・・・・・、

「ぐぅぅぅぅぅうぅぅぅーーー」と、お腹の虫が鳴ってしまった。

「あー琢磨君お腹の虫が鳴った! お腹が空いてるなら、弁当食べればいいのに?」

「あはは、そうだね」

 琢磨は、腹ごしらえをしようと、リュックの中を探してみたけれど、弁当の姿が無い。

「どうしたの?」

「いや、弁当が入ってないないんだよね。多分、さっき滑り落ちたときに、落としたんだと思う。まぁ、いいや! どうせそんなにお腹空いてなかったし。ダイエットにもなって、丁度いいよ」

 何度もリュックの中を探す琢磨

「なーんだ、そんなことか。だったら、はいこれあげる」

 と、いつもは食意地を張っているあやめが琢磨に翔太の作った弁当をあげた。

「いいの、あやめちゃん? 翔太がせっかく作った弁当貰って」

 嬉しそうに断りを言う琢磨。

「食べ掛けでいいならだけどね!あと、今度何かご飯奢ってね」

 あやめは、抜かりなくご飯の約束をした。しばらくしてあやめと琢磨は、翔太の事についての

話になった。話してる内容は、相変わらず怖がりだと言う事や、料理が上手で美味しいなど、褒めたり貶したりの内容だった。そして、雨もだいぶ収まってきて、琢磨があやめから貰ったお弁当を食べ終わった頃、琢磨が真剣な顔になってあやめを見て一言・・・・・・・・・、

「あやめちゃん、こんな時になんだけど、俺と付き合ってくれない」

「えっ!」

 あやめは、急な事で頭が真っ白になった。が、あやめは率直に琢磨に自分の気持ちを伝えた。

「気持ちは嬉しいけど、私旦那さんいるから。それに、見た目は若いけど40歳だよ!」

 軽く濁すように、琢磨の告白を断るあやめ。

「でも・・・・・・・・・、」

 言い返そうとするが、言葉が出ない。

「それに、私あと今日入れたら3日しかこの世に居れないんだ」

「なんで?」

「幽霊ってね、基本的にはずっと消える事は無いの。でも、それは自分が死んだ場所周辺と霊力が強い場所限定なの。そこから(死んだ場所)でたら、大体一週間ぐらいで霊体が維持できなくなるらしいの。でも、稀に浮幽霊って言う幽霊になって、ふらついてるのもいるけどね」

「じゃー、あやめちゃんはその、死んだ場所から出たってことだよね? それに、なんで消えるってわかってて翔太と一緒に遊園地なんかで遊んだりしてるの?」

 琢磨は、あやめ言った事が分からないことだらけで、質問攻め状態。

「さっき言ったけど、私旦那さんがいてね。仲はすごく良かったんだけど、二十歳のときにお腹の中に二人の子供ができて。でも、私が子供を産める体じゃないらしくて、お医者さんに子供の命か私の命のどっちかしか助からないって言われたの」

 あやめが話すことを真剣に聞く琢磨。

「でも、やっぱり自分の命か子供の命かって言われたら、母親としては子供のほうを選ぶでしょ。

で、結局死んじゃってあの琢磨君たちが来た旅館に居座ってたの」

「そこで、翔太に会ったって事か! じゃー、翔太が幽霊見たって本当だったんだ」

 あらためて、驚く琢磨。

「そう・・・・・・・・・で、その頃急子供に会いくなって、探してくれる人を待ってたんだけど、やっぱり

幽霊は怖いらしく来る人は皆、わたしを見た瞬間逃げて行ったんだよね。そこで諦めかけていた時に、琢磨君たちと翔太が来て、翔太に頼んだら探してくれるって言ってくれたんだよね」

「翔太の奴、よくびびらないで、苦手な幽霊と話が出来たな」

 あやめは、思い出し笑いをした。

「まぁ、私のときはいいとして、何回かは気絶したよ。だから、最初は話にならなかったのよ」

「やっぱり! そう言うところは翔太らしいな」

「でしょでしょ。でもまだ見つからないのよね。だんだん、近づいて来てる気がするんだけどね」

 あやめは、遠いところを眺めながらしんみりと言った。

「大丈夫だよ。あいつはあんな怖がりで頼りないけど、やる時はやる奴だから。それに、そう言うことは会ったときに俺にも話してほしかったな」

 琢磨は、少し拗ねながら言った。

「ごめん、だって急にそんな事言えないじゃん。私の子供一緒にさがしてって」

「それもそうだ。だったら、今更だけど俺も手伝っていい? 少しでも、人手は在った方が見つかる確立も何パーセントか上がるでしょ!」

「本当に! 琢磨君がいいなら私は大歓迎だよ」

 先ほどの暗い顔から、明るい笑みを浮かべて言った。そして、二人は話をしながら救助を待った。そのころ、翔太は、無事救助隊に救助されて、高尾山のスタート地点の山小屋であやめたちが救助されるのを待った。さすがに、夕方の5時で薄暗く雨がひどいため、救助に参加できなかった。不安で待っている翔太を見て、登りの時に一緒だったお婆さんが話しかけてきた。

「あの、ご迷惑でなければちょっといいかしら?」

「いいですよ」

 翔太は、重い顔をあげた。

「あのね、人違いでしたらいいんですが、先ほどあやめさんって言ってませんでしたか?」

「小言で、言いましたけど、もしかしてあやめの事何か知ってるんですか?」

「あなたが言っている人だったらいいんですけど、昔ねちょうど始めての登山の時に面白い夫婦

の人たちがいたの。同じペースで歩いていたから、お話する機会があってその方が子供がお腹の中にいて、「入院する前に山に登りたい」と言っていて、よくそのお腹で登れますねって言って

話した記憶があるの。もし、遭難した人がその人だったら、大丈夫よ! すごく、元気のある人だったから。だから、元気出して」

 話を聞いて、妊娠しているのに山を登ろうとする人なんて、世界であやめぐらいだと確信した。

「ありがとうございます。気分が晴れました。やっぽり、昔から無茶な奴だったんですね」

「よかった、あなたの言っている人で」

 お婆さんは翔太が元気になり安心して迎えが来たらしく帰って行った。翔太は心なしか不安な気持ちが楽になった。今思えば、あいつが遭難ぐらいで慌てる奴じゃないなと、心の中で笑みを浮かべた。

 その後直ぐに、翔太の下に救助隊の人が来てあやめたちの無事の知らせを告げた。

「君だよね、救助を頼んだの。無事見つかりましたよ! それが、二人とも雨宿りをしながら寝ていた所を発見したそうです」

「やっぱりか!」

と、心の声がでてしまった翔太。

「やっぱり?」

と、驚き返す救助隊の人。

「あっいえなんでもないです」

とっさに翔太は言い返す。あやめらしい結果だったので、言ってしまいましたなんて言えない。しばらくして、あやめと琢磨が帰ってきた。二人とも、寝起きのせいか表情が眠そうだ。さっきまで、遭難してたとは思えない反応の薄さだ。二人の怪我はかすり傷とたいしたことはなかった。救助隊の人に注意をされて、遭難したよりも落ち込んでいたのを見て、翔太は笑った。

「二人とも、大丈夫だった? たいした怪我も無くてよかった」

  翔太は、笑いそうな表情で二人の心配をした。

「大丈夫じゃ無いわよ!なんで迎えに来なかったの?」

 怒られたばかりで機嫌が悪い。

「行きたかったんだけど、救助の人が危ないからって……これでも心配してたんだから」

「お肉……」

 小さい声でお肉と言った。

「ん? なんていったの」

「だから、お肉で許してあげるって言ってんの、わかった!」

「えっ、分かった。お肉でいいんだね」

 微笑顔で、条件を了承した。二人の会話に入れない琢磨は、不満げな顔で翔太を見ていた。正直、あやめの事で頭が一杯一杯だった翔太は、琢磨が一緒二いることを一瞬忘れていた。

「あっ、琢磨……、だっ大丈夫だったか?」

「翔太、今絶対俺の事忘れてただろ!」

 やっとのことで、会話に入れた琢磨だった。

「ごめんごめん! あやめの事で一杯一杯だったから……つい。ごめんね」

「よし、じゃー俺は、焼肉でも奢ってもらおうかな」

 あやめが了承されたので、琢磨も便乗して頼んだ。

「行こうかあやめ。そろそろ帰って晩ご飯の準備しないとだし」

「そうだね! お肉ーお肉ー」

 二人は、琢磨の話をさり気なくかわして、去っていく。

「えっスルー……? ちょ、ちょっと待ってよーーー」

 琢磨は一瞬呆然となったが置いてかれないように、二人の後に着いていった。その後、琢磨に焼肉が奢られることは無かったと言う。

 家に帰り着いた、二人はさっそく晩ご飯の準備を始めた。あやめの、注文どおりに少しお高めの神戸牛と鹿児島産の黒豚を買った。愛美にばれると、怒られるので自分の財布から出した翔太だった。

「よーし、今回は贅沢に行きますか!あやめの言ったとおりに、超高級お肉だぞ」

 テンションの高い翔太。

「やっほーい。お肉ーお肉」

 同じく先ほどまで遭難者だったとは思えないテンションの高さのあやめ。

「さぁーーー、早く食べよう! おなか空いたよーーー」

 と、さり気なく入ってくる琢磨……。

「てっ! なんでお前がここにいるの?」

 何気なくいるいる琢磨に対してのノリの良い翔太のツッコミ。

「いや、だってお肉食べたいし、俺も一応遭難者だしさ。ねっ、今回だけ特別に」

 手を合わせて、軽く上目遣いでお願いする琢磨。

「何でもいいからさ、早く食べようよ! 皆で食べた方が楽しいじゃん」

 それに対して早く食べたいあやめは、琢磨も食べる事を了承した。仕方なく、琢磨を含め三人で食事をする事になった。翔太以外の二人は、お肉にすべてを賭けているかのごとく、鍋に集中力を高めている。その中で、翔太はお婆さんから聞いた話を改めて整理する事になった。

「あのさあやめ? お前何か思い出したか、昔の事……」

「ン? あぶ△◇…kc;k。べ……」

 口の中にお肉が入っているのに話しだすあやめ。

「口を空にしてから言えよ。そんな、急に減るわけじゃないんだし。それで、今回の事で何か少しでも、昔の事を思い出せた?」

 呆れた口調で質問し直した。

「あー、なんとなく思い出したよ。私、昔一度あの山に行ったこと思うのよ」

「なんだ、あやめの記憶は曖昧だな……」

「だったら、翔太は何か摑めたの?」

「それが、お前があの山に来た時に、お前の事を見たって言うお婆さんにあったんだよ。それで、昔のお前が今と変わらず、おてんば娘だったことを聞いたんだ」

 翔太、半分ほど聞いていないが、一応は耳に入っているらしい。そして、今日会った事全て琢磨を含めて話した。ただ、山登りに来てた事と、妊娠をしていたのに登山をした事などぐらいで、その後に関する事はあまり摑めなかった。一つだけわかった事と言えば、あやまはいつになっても、あやめなんだと言う事だけだった。

「へぇー、私って昔から頑張りやさんだったんだ。なんか、段々真相が掴めそうになると、今回みたいに遠くなるんだよなー」

 少しがっかりしたのか、テーブルに顔を伏せながらしゃべるあやめ。

「なんか、大変そうだな・・・…俺もなんかあれば手伝うからさ! 元気出してあやめちゃん」

 さり気なく励ます琢磨。

「そうだね、お肉でも食べて気分直っと! ほら翔太、早く食べないと無くなるよ」

 元気を直そうとお肉を食べるあやめ。

「うん、じゃ食べようか! てっ、お肉ほとんど無いジャーーーーーん」

 結局、翔太の食べたお肉の枚数は三枚だった。


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