第1話【売れないスーパーボール】
そこは真夏の夜の神社。普段はしんと静まり返っている夜の神社も、この日から3日間はお祭りのため多くの人々でにぎわっていた。
お祭りといえば出店の数々。かき氷屋や焼きそば屋など、様々な出店で神社内が埋めつくされていた。
中でも人気だったのがワタアメ屋とタコヤキ屋のふたつ。ほかの店もそれなりに客がついていたが、前述のふたつだけは客の長蛇の列が途絶えることがなかった。
最大の理由はそのパフォーマンス。ワタアメ屋はイケメンの青年がムーンウォークなど華麗なダンスを披露しながらワタアメをつくるパフォーマンスをおこなっており、タコヤキ屋のほうは【タコヤキガールズ】という3人組みの少女たちがミニスカートの衣装で踊りをおどっていた。彼ら見たさに圧倒的多数の客がワタアメ屋とタコヤキ屋に集中することになっていた。
そんな2強に挟まれる形になっていた出店が存在していた。こちらも夏のお祭りでは定番のスーパーボール釣りである。
店主の名は丸ノ内武夫・59歳。先日、会社をリストラされてしまい、紆余曲折をへてスーパーボール釣り屋をやることを決心した。
アルバイトで働く青年の名は熊井。なんと彼は丸ノ内のかつての部下であり、丸ノ内と同じく会社をリストラされてしまったのだ。そんな丸ノ内と熊井が声を張り上げる。
「みなさーん、楽しい楽しいスーパーボール釣りだよーん」
「夏の思い出にスーパーボールはいかがっすかー?」
しかし、スーパーボール釣りに足を止める人はひとりも現れず、丸ノ内と熊井のスーパーボール釣り屋は閑古鳥状態が延々と続いていた。
それとは対照的にすぐ隣のワタアメ屋とタコヤキ屋は繁盛を極めており、丸ノ内と熊井のスーパーボール釣り屋はどこまでもみじめな立場に追いやられていった。
ところで、なぜ丸ノ内はスーパーボール釣り屋をやろうとしたのか?理由は━━
『アメリカ最大の人気スポーツであるスーパーボールが日本でも流行らないわけがない。それならいっちょ自分がブームの火付け役になってやろうじゃないか』
━━というものだった。それでいてスーパーボールも山のように売れれば生活のほうも安定する。
かくしてはじめたスーパーボール釣り屋だったのだが、丸ノ内の予想とは裏腹に客足は一向に伸びることはなかった。