9/1226
志村恭介編 古城
午後の、割と暖かい陽射しを浴びた講堂の中で、志村と岸上が隣同士に座っていた。いつものように、薄ら笑いを浮かべながら話す岸上の話を宙で聞きながら、志村は、本気で由利との結婚を考える時が来ているなと思っていた。もう、少しだ・・志村は今までに無い熱弁をこの日奮っていた。隣の岸上が目を丸くしていた。
教授会が終わり、ふいに志村は、後から声を掛けられた。
「大竹教授」
志村直属の上司だ。がっちりとした体格で、学内では№3の教授だった。
「よっ!今日の君の熱弁は良かったぞ。君がやる気さえ出してくれたら、もう次期の教授の椅子はすぐそこだ。私も大いに期待しているぞ」
そう言いながら大竹教授は先へ行った。
・・冗談じゃない・・あの出世欲の権化になんか・・。頭を下げながら、志村は逆の事を思っていた。つまり、志村への頑張れは、志村研究室の論文を大竹が自分の発表とする事に他ならない。そう思うが故に超優秀な男が今、この位置に居ると言えなくも無いが・・。




