志村恭介編 古城
「ところで?志村、ここへは何を研究しに来たんだ?西方城ならもう調べたって何も出て来んぞ」
意外にあっさり言う高村に、志村は拍子抜けをした。
「何も・・出て来ませんか?」
「ああ、確かに周到に偽装され、誰かが何の目的で隠したのか知らぬ古城だったが、ただそれだけの事。出土した品にしても、歴史上さほど重要な物も無い。学界の一部が騒いでいるだけの事で、お前程の奴が今更調べる迄も無かろう?」
志村はにこりとして答えなかった。夕食の時間になって、女将が料理を運んで来た時、上客並みの扱いには、志村達は恐縮してしまった。長居は出来ないと思った。どんな客であろうと礼儀を尽くすその作法故に、女将が素晴らし過ぎ、かえって居心地が悪くなってしまったのだ。
長居を勧める高村に、志村達は研究の為と称し、翌朝には旅館を後にした。だが、季節はもう初冬。塒を確保しなければ、研究は続けられない。その日一日は宿を探す事に明け暮れて、やっと、西方城よりさほど遠くない古寺に寝泊りする事となった。そこの和尚は斎阿覚師と言い、真言密教の一派を名乗っていた。西方城の探求と言う事で、無期限の宿泊を快く了解してくれた。




