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志村恭介編 古城
奥にある一室に通された二人に、高村は旅館の温泉に入るよう勧めた。都屋旅館の地下から、良質で豊富な湯量の温泉が湧き出た為に、この辺の温泉宿中でも超一流の旅館に生まれ変わったのだと言う。
四国での疲れを癒すように、志村も品川も大きな風呂に入っていた。そこへ高村も、裸同士で会話しようと入浴して来た。
「先輩、先輩に商才があるとは思いませんでした。それにあんな美しい女将さんと再婚されるなんて、見直しましたよ」
「はは・・こいつ。だが、旅館は女将の力量だ。俺は商売には向いていない」
志村と高村の話には加わらず、品川は奥の露天風呂へ行った。
「まあ、ゆっくりして行け。脇坂博士が発掘してくれた西方城址。バブルが弾けたこの地での温泉発見と、時代は変わっているよ。尤も、そう言う意味に於いては、俺は敗残者の方かも知れないが」
そう言う高村だったが、現生活に充分満足している様子だった。高村には、 商社での出世も、学者としての研究も、無味乾燥だった前婦との結婚生活も、もう過去のものでしか無いようだ。




