志村恭介編 古城
「何だい・・」
ベッドに腰掛けながら恭介は、煙草に火を点けた。由利が恭介の真正面に腰掛けた。
「貴方の研究を邪魔する気なんて無い・・研究に没頭している貴方が好きだから。いつも見守ってあげたいと思ってる。でも・・そのコピーは何か異様で・・恐い・・」
「そんな事あるものか・・どこまで君が読んだのか知らないが、書物の信憑性だって判らないのに・・」
「そうね・・でも恐いの」
「由利・・」
恭介は由利を強く抱きしめた。由利は短く声を上げたが、力を今度は抜いていた。
T大学での次の朝、志村恭介のライバルと言われる助教授の岸上公安が、いつものような薄ら笑いを浮かべながら、志村の研究室へノックもせずに入って来るのを、研究助手の品川太郎は気に食わなかった。小太りで、いつもそわそわしてして、他人の失敗は最大限大袈裟に怒り、上司に報告する。そのあだ名を公安から取って、コウアンと呼ばれていた。志村と並んで、次期教授の最有力候補だった。品川は少し小柄で実直な人物で、決して上手も言わないが、嘘もつかない志村を信頼し、尊敬している。自分の目指す教授像を志村に見ているのだ。ところで、品川は体に似合わず、声がでかい。