志村恭介編 古城
「その昔、わしの母親は鉱夫に襲われ自殺しました。わしゃあ、それが悲しゅうて、辛うて事件には直接の関係がない、むしろ恩人であった筈の脇坂先生を恨みました。母親がしょっちゅう先生のように立派な人になれ言うて居たのが分からなんだのです。その事が、逆に先生を憎む気持ちに摩り替わったかと思うと、恐ろしゅうなります。先生には一生掛かっても償えん事です」
「その事は、大体の所・・」
志村は、山田と脇坂のプロセス等を求めて居なかった。その言葉が山田村長には、やや性急に聞こえたのであろう、彼はいきなりこう言った。
「あの先生が、夜中に素っ裸で歩く訳の1つにあるのです、この水晶が」
「ほぅ・・すると、目的があっての散策があったという事・・?」
「そうです。先生がこれを手に入れたのは、ここより僅か一里程の銅山川の支流の小さな沢の淵です。その淵は思ったより深うて、水も冷たい。なかなか、土地の者でも潜れる所ではありません」
「その淵にこの水晶があるんですね?」
「今はもうありません。幾年前か忘れましたが、台風で大雨の後、すっかり川層も変わって、その場所は埋もれて分かりません。これが恐らく全てでしょう」




