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志村恭介編 古城
「しかし、修作は納得せなんだ。働く事しか能の無い父親と違って、母親が全てだったあいつにとって、余りにも屈辱的なその死は信じられなかったのじゃ。わしは、あいつに何度も命を狙われたわ」
「何と・・」
志村は絶句した。
「そうする事で、自分を励まして居たんじゃろう。香津子さんは日頃から、男は腕力だけじゃいけん、これからは先生のように学問で身を立てて行けるようにせにゃならん。そう言うて修作に教えこんどったからじゃ。あいつの父親も、香津子さんが死んでからと言うもの、人が変わったようになって、仕事もせんと酒ばっかり飲んどった。その持って行き場の無い気持ちをわしにぶつけて来たんじゃ。ここでの教職を、わしもこれ以上は続けて居れん事もあって、愛媛大学の講師としてこの村を離れる事が決まってからは、わしが隙を見せたら、いつでも殺してええ、そう言うて修作を夜中に素っ裸にして一緒に歩いとった」
「・・・・」
志村も品川も、言葉も無く聞き入った。




