志村恭介編 古城
「早うせい。それから、タクシーも手配せい。年寄りには山道はきついでな」
言われるままに電話して別子村に夕刻戻った3人に対して、意外や意外、出迎えは村長一人であった。そして、その顔は非常に沈痛な表情だった。
「よう、修作君、元気だったかの?」
「は、はあ。お陰さまで・・」
日に焼けた大柄で恰幅の良い村長をつかまえて、修作君とは・・面識もあったのか・・それにしても・・・志村と品川はきょとんとしていた。村長の顔にははっきりと迷惑だと描いてある。
「ま・・誠に申し訳ないのですが、本日の講演は、村の行事の為に取り止めて頂きたく」
「何と!この気まぐれなわしが、せっかく村の為に講演してやろうと言うのにか?」
脇坂は怒ったように言ったが、それほど怒っている顔には志村には見えなかった。むしろ、意地悪い光をその眼に湛えていた。
「はあ・・誠に申し訳御座いませんが、先生のご滞在中には充分な食料は届けさせますので、どうぞ、心ゆくまで。それと・・誠に申し上げにくい事では御座いますが、夜中に・その・・」
苦しそうな表情を浮かべる村長を尻目に脇坂はもう、すたすたと反対側へ歩いていた。2人は呆気に取られながら、脇坂の後をついて行く。




