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志村恭介編 古城
低い声でつぶやくと、志村は身を起こし着替え始めた。
「どこに行くの!」
由利が尋ねる後ろ向きに志村が答える。
「済まん。待っててくれとは、言えん。でも・・もし・・もし君が結婚せずに居てくれたら、その時に俺は・・」
「・・どうするの?言って、ねえ、言ってよ!」
志村はそのまま外へ飛び出した。由利のすすり泣く声が部屋に満ちた。
志村と品川が立って居る場所は、既に山頂に薄化粧を始めた、四国の高峰が連なる赤石山系であった。その中で、東赤石山の中腹にある小さな沢に、二人が居た。
「この辺が変成岩層だな。三波川変成帯の岩石がごろごろしている」
志村が言う事を黙って品川は頷いた。
「赤い・・この石は」
志村が持ち上げた石を、品川が覗くように見た。