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志村恭介編 古城
「帰って来て、その時教授の椅子どころか、助教授の椅子まで無くなっていないように祈るよ」
「ご忠告、感謝する」
後ろ向きのまま手を振りながら、志村と品川は学内より消えた。
「本当に暫く会えないのね」
ベッドの志村の腕の中で、由利が細い声で泣いた。
「済まん。でも半年間だ。待っててくれるだろう?」
「分からないわよ」
由利の言葉が間髪を入れずに戻って来たので、当然待っててくれるだろうと言う返事を貰えると思っていた志村は、驚いて半身を起こし、由利を見る。由利は横向きになり、噛み殺したような嗚咽を漏らしていた。
「・・そうか。考えて見りゃ、君と出会って、付き合い始めてもう10年。俺も、君ももうすぐ30路。俺は本当に身勝手な奴だよなあ・・」