志村恭介編 ニ尾城
香月は、その脇坂の言葉をすぐには理解出来なかったが、確かに、S工大にある動きがある事だけは確かだった。それより、脇坂が香月の研究・・特にDNA、クローンについて質問をして来た事に何か分からぬが、大きな暗雲のようなものを感じて、再会の会話は短かったが、2人はここで分かれた。香月は、この時、脇坂とはとはもう生きて会えないような気がしていた。脇坂の命の火は消えかかっているように感じたのである。
5月の連休を前にして、連日別子村の発掘現場には見物人が列を作っていた。岸上は遅々として進まぬ発掘に少し、苛立っていた。この発掘で、紅水晶を発見出来るか否かで、世界に自分の名声を轟かせる事に繋がるかも知れないのだ。しかし、山田村長は必ずしも協力的で無い上に、脇坂博士は何時の間にか姿を消し、助教授に推薦した品川を頼りの発掘は的を得ず、作業は困難を極めていた。あらゆるスタッフを配置し、現代科学を駆使しての調査発掘であった。それよりも苛立ちは、後2週間程で結婚だと言う所まで漕ぎ着けた岸田由利との結婚がご破算になった事である。
「品川君!本当にこの場所にあるんだろうねえ?」
既に発掘調査に掛かっていながら、岸上はこんな嫌味を品川に言った。品川にも確信は無い。しかし、頼みの脇坂博士はぷいと居なくなるし、山田村長は全く協力してくれないし、古文書を頼りの発掘だった。