志村恭介編 ニ尾城
数日後、別子山村の山田村長から橄欖岩が送られて来た。志村夫妻は早速光原教授を小田錦鯉センターに呼んでいた。細身の度の強い眼鏡を掛けた男だが、全身に活気が漲るような、精力的な人物で、学界では異端児と呼ばれていた。全ての分野に博識で、志村より3歳年上だが、頭抜けた学者だった。一方光原も、自分より少し年は若いが、志村の考古学者としての優秀さを誰よりも認めていて、むしろ、尊敬に近い念さえ抱いていた。
「よう、送って来たようだね。・・おや・・?いつの間にこんな綺麗な奥さんを?」
光原は現れるなり、そう言った。
「はじめまして、光原教授。志村の家内です」
由利が挨拶すると、光原も笑顔で返した。しかし、次の瞬間には、学者として鋭い視線で、橄欖岩を見詰めていた。そこへ加わったのが、ここの経営者小田晴臣だった。この池の管理を全面的に志村に任せっきりで、殆ど顔を出さず、由利にとっても2度目の顔合わせであった。その日焼けの顔をくしゃくしゃにしながら、志村達に声を掛けた。
「やあ、光原先生、お久しぶりです」
面識があったの・・?と言う顔で、由利は小田を見た。