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志村恭介編 ニ尾城
途中何度か短時間の休憩を重ねながらも、山口県の防府市に着いたのは、明朝の6時過ぎの事だった。恵二も由利も長時間のドライブで疲れていた。
小田錦鯉センターの朝は早い。恭介は既に起きて作業に取り掛かっていた。
恵二はわざと、車のドアをバタン!と閉め、自分は車のシートを寝かせて目を閉じた。由利が真直ぐ口髭を生やした恭介へ走って行った。恭介がドアの音に気付いた時には、由利は恭介の胸に飛び込んで居た。
「ゆ・・由利・・どうして・・ここへ?」
由利は恭介の胸で泣くばかりであった。
昼近くになって、恭介は由利、恵二と共に、防府市を見渡せる小高い丘に登っていた。
「今の俺は研究者では無い」
恵二が言う。
「まさか、兄貴。この養鯉場へ永久就職するんじゃないんだろ?」
「いいえ、恭介がそうするなら構わない。会社には辞表を出して来たし、結婚も断って来たから」