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志村恭介編 古城
教授会の後、頻繁に志村研究室へ出入りする者の数が増えていた。第一に大竹誠司教授、そして、同じ次期学長候補である白井充親教授、それに岸上助教授の3人であった。
やや品川が神経質になっていて、その来室する者達を心良く思って居なかった。志村の優秀さを誰よりも知っている彼にとっては、出世の為にどちらの教授へも尾を振って欲しく無かった。しかし、大学で研究を続ける身ならば避けて通れぬ道なのかも知れないが・・。
「志村先生!」
品川は最大の親しみと、敬意の念を込めて志村をそう呼ぶ。他に偉い教授が何人も居るのに品川は見向きもしない。媚を売る事も無い。勿論志村は大いにこの品川を可愛がっていたし、実直で優秀な彼を唯一この学内で信用していた。
呼び止められて、久しぶりに向かう難波のお好み焼き屋の一室で二人は話し込んだ。
「何故今更あんなテーマを発表されたんですか?先生の意図が測りかねます」
「そう睨むなよ。これは餌なんだよ」
苦笑いしながら志村は答えた。