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志村恭介編 ニ尾城
「ど・・どうすんだよ・この鯉。家には堀なんて無いし、飼えねえよ」
「黙って、この鯉を今から言う広島の待田宗堂さんに届けてくれないか。あ・・それから金と食料は持って来てくれたんだな?さあ・・お前はこの足で帰ってくれ。色々済まなかったな」
恵二はそれだけ言う恭介から、別れ際、
「ああ、そうだ!これ由利さんから」
恭介にレースで編んだ包みを渡すと、恵二は体に気をつけてな・・そう言って帰って行った。
その包みは、10年前縁日で由利に買った、おもちゃの指輪だった。恭介は噛み殺したような嗚咽を漏らしていた。
広島の待田宅へ言われた通り錦鯉を届けると、その足で恵二は疲れも忘れたように、由利の勤める帝国商事に向かった。受付で岸田係長を呼んだ。ハンサムで長身の恵二に少し見とれながら、受付嬢は尋ねた。
「アポ取ってらっしゃいますか?」
「いえ。でも急用だとお伝え下さい。志村だと言えば分かりますから」




