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志村恭介編 ニ尾城
恵二の声は泣き声に近いものだった。兄の大学からは解雇通告を受けているし、一体全体どうなっているのか理解出来ない。心労で倒れた母に付き添い、父も病院に居る。2人兄弟に取って、精神的な苦痛の日々を送っていた恵二であった。
「・・そうか・・」
恭介は短く言った。そして、家のFAXが5分後にカタカタと恭介のメモを送って来た。
深夜、恵二は、家にあるありったけの食料と金をバックに詰め込むと、病院の父母に兄の無事を伝えるメッセージを投函し、車を走らせたのだった。一昼夜掛けて恵二が車を飛ばした先は、山口県の防府市の養鯉場だった。恭介がそこで働いているのだ。一睡もせずに車を飛ばして来た恵二だったが、余りの恭介の変貌した姿に言葉が出なかった。恵二を促すと、恭介は奥にある事務所へ案内し、そこへ座らせた。
「・・いつからここへ・・?」
「2ヶ月前からだ。大学からの送金が無くなったんでな」
「それじゃ・・知ってたのか?」




