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志村恭介編 ニ尾城
それだけ言うと、由利は走り去った。恵二にはもはやどうする事も出来なかった。同時に兄に対して無性に怒りを感じていた。
「兄貴の馬鹿野郎!何で由利さんを繋ぎ止めとかねえんだよ、くそっ!」
恵二はベンチを思いっ切り蹴飛ばした。恵二にとっては由利は家族も同然、いや、それ以上の気持ちも抱いていたのだ。
又それから数週間が過ぎ、暖かい日が続き、桜の花が咲く季節がもうやって来ようとしていた時であった。
深夜の1時前に志村宅へ一本の電話が入った。丁度うとうとしかけていた恵二は飛び起き、受話器を取った。
「恵二か・・」
その声は兄、恭介であった。
「あ、兄貴か一体何してたんだ!どこに居るんだよっ!」
怒鳴る恵二に、
「済まん、電話では居場所は言えないが、元気だ。お前に頼みたい事がある」