志村恭介編 ニ尾城
「そうか!君ほどの器量良しがいつまでも独身って訳には行かないだろう。どうだね?見合いだけでもして見るかね、先方は君の事を良く知っていて是非にと言う事なんだ」
由利は深い憂いを抱えたまま、頷いた。赤城社長直々の縁談を無碍には断り切れ無かった。
しかし・・赤城に手渡された写真は、恭介と同期であり、ライバルである、岸上公安であった。由利は・・ああ・・心の中で天を仰いだ。
「この男はね、T大学のエリートで、今度学長になった大竹君の直属だし、その奥さんと家内とは、以前より深く交友関係がある。志茂田学長が任期を残して早い引退となったが、いずれこの男の時代が来るよ」
由利は、嘆息しながらも頷くしか無かった。この見合いが既に岸上によって仕組まれたものであるとは、知る由も無いが、由利が断れない程各方面に手を回していたのだった。
そして、それから数週間程経った頃、志村恵二へ一本の電話が入った。由利からだった。その沈痛な響きに只ならぬものを感じながら、恵二は全く連絡の取れない兄、恭介の消息の手掛かりか?と感じながら、由利の待つ喫茶店に向かった。しかし、由利の生気の無い顔を見て、恵二は愕然とした。




