志村恭介編 ニ尾城
・・由利・・済まん、当分帰れそうにない。愛すればこそ守りたい。自分を慕う部下だからこそ、危険な目に合わせたくない。今すぐ由利の元へ戻りたいが、この調査にはまだまだ時間が必要だ。相反する心の矛盾の中で志村は葛藤を繰り返していた。
商社の秘書室の中で、岸田由利が座っていた。恭介が由利から離れて既に5ヶ月が過ぎていた。その間一度の連絡も無いままだった。
・・・恭介の馬鹿、何で連絡もくれないの・・由利は最近元気が無く、ふさぎがちだった。
「岸田君、最近の君の事を心配している者が居てね。どうした?元気が無いじゃないか」
帝国商事のオーナー社長の赤城昇一が、その立派な口髭を擦りながら、由利に聞いた。この自慢の髭に触る時は機嫌の良い時の合図だ。だが、一度もワンマンで癇癪持ちの赤城であるが、由利の前では怒り顔をした事は無かった。仕事に男女の区別をつけない、赤城社長であるが、由利はその中にあって有能な総務係長の地位にあった。
「い、いえ、そんな事はありませんわ。社長」
「そうかな?総務部長の乱橋君が心配しててなあ。元気が無い、どこか具合でも悪いのかってね」
「どこも悪くありません」
「そうかね?なら良いんだがね。いや、今日来て貰ったのは他でも無いんだ。家内が最近T大学の大竹学長から頼まれて、実は縁談の話があるんだが。どうかね?君、特定の彼とか婚約者とかは居るのかね?」
「あ・・いえ・今の所は」




