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まつりちゃんと下僕さま

作者: 山側 森

「まつりー、帰ろ」

「うん」


ツインテールの女子がショートボブの女子に誘いをかける。

まつりと呼ばれたショートボブの彼女は控えめに、しかし嬉しそうに頷いた。毎朝コテで巻くカールも同時に揺れる。


「なんだまつり、呼びつけといて自分だけ帰るのか」

「え?」


会話に突入してきたのは目つきの悪い男子。

後ろ手に鞄を肩掛け、まつりを見下ろす。

まつりは低身長ではなく平均身長であるが、相手は頭一つ分背が高い。そして目つきが悪い、非常に悪い。


「かつきくん…帰る約束、してたっけ?」


知らない人が見たらカツアゲか脅しかはたまた無理やりこれから拉致監禁かと思われるような空気間の中、被害者側は至って気にせず、はて?と首を傾げる。


「してないしてない絶対してない」


疑問に応えたのはツインテールの女子、ハヤブサ。

ギンッとかつきを睨みつける。


「どうせまた五月蝿い女子をあしらうためだけにまつりをダシにしたんでしょっ」

「ああ?」

「ひっ…ぐ、ぐぐ」


睨みつけたはいいものの、睨み返されたら言い返せない。ハヤブサはまつりを盾にして悔しく思うしか残された道はないのだった。

そしてさっぱり分からん、と同い年の女子たちの好みに疑問を抱く。




くり返してもくり返し足りない程に目つきの悪いこの男子は口も悪い上に乱雑だが、時々優しい。

それは新学期に配布される教科書が詰まった重い段ボールを持ってくれたりだとか、届かない壁の上方に刺さる画びょうを取ってくれたりだとかそんな些細なことではあったが、それは春に花咲く女子高生にとってはギャップ萌えのかたまり。

つまりどういうことかというと、粗雑ではあるが乱暴ではないこの男は意外とおモテになるのである。



「かつきくん、はぁちゃんをいじめちゃ駄目だよ」

「いじめてねえ。帰るぞ」


言うとさっさと向きを変え、歩き出すかつき。


「しょうがないなぁ。はぁちゃん、帰るのかつきくんも一緒でいい?」


振り返り確認をとるまつりはとても控えめでかわいらしい。


「…いいよ」


いくらギャップ萌えだの何だの言っても、春に花咲かなかったハヤブサにとってはただの目と口の悪い迷惑男子でしかないわけで。

目つき悪いし、口悪いし、口悪いし、目つき悪いし…やはりさっぱり分からんと、ついでに親友の度胸にも疑問を抱く。


かつきがいくら時々優しくてもあくまでもそれは時々であり。

しかし弱小草食動物の代名詞は、肉食恐竜代表かつきに恐がる素振りを見せたことがない。ハヤブサは不思議でたまらなかった。



「まつり」

「はぁい」


いこう、と歩みを促す姿はなんともかわいらしく。

浴衣着せたい、綿あめ持たせたい、リンゴ飴買って、はふはふいいながら焼きそばを食べる姿がみたい。天使、まじ天C!二次元から三次元に降り立った女神さま!とハヤブサは遺憾なく限定的想像力を発揮する。

そして数メートル先で知らぬ女子の相手をしている男子を力いっぱい睨みつけた。



「いっしょに帰ろうよぉ」

「無理。俺まつりと帰るから」

「なんでいつもまつりちゃんばっか優先するのぉ?」

「俺、まつりの下僕だから」

「はあぁっ?!」

「えっ」

「……はて」


かつきの下僕発言に花咲く女子より早く反応したのはハヤブサだった。続いて女子、そんなこと言ったかなぁ?と最後に首を傾げているのがまつりだ。


「今の発言は忘れて!さようならっ」


いち早く反応し、いち早く回復したハヤブサはまつりと不本意ながら、心の底から不本意ながらかつきの腕をとりその場から脱出した。





「何考えてんのあんた馬鹿じゃないの馬鹿でしょ目つき悪いだけじゃなくて馬鹿丸出しでしょ何言ってんの馬鹿でしょ!」


現場から離れ校舎を出、人通りの少なくなった道でようやくハヤブサは口を開いた。

開いた瞬間淀みなく出てきた言葉の語彙の少なさに落ち込みかけたがそんなことは今どうでもいい。


「下僕って何よまつりの名誉に埃一本分でも傷つけたら容赦しないから!」

「何って、事実だし」

「何が事実だ何が!百戦しても余裕で百勝する奴が何をどうしてまつりの下僕になんのよ言ってごらんなさい!!」


はぁちゃん怒ると無敵になるよね〜なんて呑気に、にこにこしてるまつりの代わりとばかりに、ハヤブサは怒鬼と化す。


「惚れたモンが負けってのは事実だろうが」

「はあンッ?惚れたモンが負けっ………………はい?」

「だあっから、先に惚れたヤツが無条件で負けってのは事実だろうが!」


耳生きてんのかゴルラァッと大口で牙をむかれたハヤブサであるが、彼女は今全ての機能を停止していた。




「…た、確かに事実だわそれは」


ハヤブサの生きる糧である恋愛小説においては特に。

ようやく機能を再開した女子は怒りをさっぱり取り除き、今一度目の前の男子を見る。

照れたように頬を少し染め、そっぽを向く。

なんてことをこの男がするわけもなくやっぱり悪い目つきで憮然と立っている同級生。


口も悪いが時々優しい、加えて意外と純なところもあることを、全くもって花咲かないハヤブサは今この瞬間知ったのであった。






「いや、でも公開下僕発言はないわ…」

「黙れこのやろう」

「ひっ…!」

「2人は仲良しだねえ〜」



登場人物



まつり:のほほんの一言につきる。


かつき:目つきが悪いまつりラブ。時々優しいのに理由はない。女子が寄ってくるのにも理由はないと思っている。鈍感ではなく無関心。


ハヤブサ:まつり至上主義。時々まつりを二次元に存在させる恋愛小説ラバー。まつりとの時間を奪うかつきが憎い。

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