第3章:新しい日常(ルーティン)
繰り返しの日常は、ある種の麻酔だ。……少なくとも、自分の席へと向かう蓮はそう信じようとしていた。
リュックの中に、高級な保冷紙に包まれたサンドイッチや、自分では一生買えないようなブランドのアイスティーが紛れ込んでいても、もう驚きはしなかった。家に帰った時、あの湿気臭さが花の香りの洗剤にかき消されていても、それもまた、驚くことではなかった。
橘凛は、いつの間にか「日常」の一部になっていた。招かざる、だが追い出す気力すら失わせるほどに執拗な「異常」という名の日常。
蓮は机に座り、昨日の出来事を思い出していた。
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星野家に、再び他人の足音が響き渡る。 それは、仕事帰りの蓮のような重々しい響きではない。 軽やかで、それでいて……どこか騒つかせるような音。
そして、その音は決まって同じ時間にやってくる。
――カチャリ。
蓮が台所で圭の朝食を作っていると、玄関のドアが開く音がした。
「……」
確認するまでもなかった。
「……また、あんたか」
蓮は独り言のように呟いた。
「べ、別に……。あんたがまだ生きてるかどうか、誰かが確認しに来なきゃいけないでしょ」
玄関先から、凛の声が返ってきた。 彼女の両手には、食材の入った袋が下げられている。
蓮は溜め息をついた。
「……必要ないって言っただろ」
「あんたが何を言おうと、私には関係ないって言ったはずよ」
彼女は靴を脱ぎながら言い返した。
「それに……圭ちゃんが、私を待ってるんだから」
奥の部屋から、弱々しくも弾んだ声が聞こえてきた。
「凛お姉ちゃん!」
凛は瞬時に表情を緩ませ、微笑んだ。
「今行くわねー♪」
蓮は立ち尽くした。
(……いつの間に、あいつの部屋への行き方なんて覚えたんだ?)
凛は部屋に入ると、小さなテーブルの上に料理を並べた。
「ほら、今日のメニューよ」
「わあ、お魚のご飯だ!」
圭が目を輝かせて声を上げる。
「それから、温かいスープもね」
圭は弱々しくも、嬉しそうに手を叩いた。 蓮は、入り口からその光景をじっと見つめていた。
あの部屋が、以前ほど冷たくは感じられなかった。 何かが劇的に変わったわけではない。 ベッドは古いまま 壁にはひびが入ったまま。 棚には相変わらず薬が並んでいる。
けれど、今は……本物の料理の匂いが、そこを満たしていた。
凛は、許可も得ずに部屋の片付けを始めた。
「おい……それに触るな」
「これのこと?」 彼女は一つの箱を持ち上げた。
「こんなの、ただのゴミじゃない」
「ゴミじゃない」
「じゃあ、『大事なゴミ』ってことね」
蓮は眉をひそめた。
「……毎日来いなんて、言ってないだろ」
凛は一瞬、手を止めた。
「……あんたのために来てるわけじゃないわよ」
彼女は圭に視線を向けた。
「この子のために来てるの」
すると、圭がひょいと手を挙げた。
「……あと、私が凛お姉ちゃんのこと好きだからだよ!」
蓮は視線を逸らし、黙り込んだ。
「……」
そして、この変化は星野家の中だけにとどまらなかった。学校生活においても、何かが変わり始めていた。
「星野」
席に着いたばかりの蓮の思考を、凛の声が引き戻した。彼女は騒ぎ立てることもなく、ただ自然な優雅さで彼の机に歩み寄る。その洗練された佇まいは、蓮の使い古されたノートとはあまりにも対照的だった。
「ほら、これ。うちのシェフがまた張り切りすぎて、鮭のおにぎりを作りすぎちゃったの。無駄にするのは嫌だから、あんたが食べなさい」
蓮は溜め息をつき、差し出されたシルクの袋を見つめた。
「橘……。何度も言ってるだろ。俺はあんたの高級料理のゴミ箱じゃないって」
「私も何度も言ってるわ。食べ物を粗末にするのは罪だって」
彼女は腕を組み、わずかな緊張を隠すように不遜な態度で視線を逸らした。
「それに……昨日、圭ちゃんが梅のおにぎりが好きだって言ってたから、今日は彼女のためにそれを持ってきたの。あんたが持っていかないなら、また私が直接届けに行くしかないわね……。昨日みたいに」
「……どうせ来るくせに、脅して何の意味があるんだよ」
蓮の声には苛立ち(いらだち)と……ほんの少しの「からかい」が混じっていた。
「あら、そうね。じゃあ今日は行くのをやめて、圭ちゃんを一人ぼっちで悲しませようかしら。……あんたがこのお弁当を完食しない限りは、ね」
蓮は奥歯を噛み締めた。強請りだ。完璧なまでの、甘い強請り。学校でこの
「施し」
を受け入れなければ、彼女はそれを口実に放課後、圭を一人にしてしまう。そうなれば、妹を悲しませることになる。
「……それ、よこせ」
蓮はひったくるように袋を奪い取ると、低く唸った。
「……いい子ね」
凛は勝利の余韻に浸るような笑みを浮かべ、小さく呟いた。だが、友人たちが近づいてくると、その笑みは瞬時に消え去った。
蓮は弁当をリュックに押し込んだ。指先が、今は常に満たされている薬の袋に触れる。 彼女に依存している自分が嫌だった。 自分のプライドが、鮭のおにぎり一つで買えるほど安っぽいことも。 だが、昨夜の圭の笑い声を思い出す。凛と二人、部屋の床でトランプに興じていたあの声を。そう思うと、煮えくり返っていた怒りは、穴の開いた風船のように萎んでいくのだった。
しかし、教室の隅では、囁き声の質が変わり始めていた。 クラスメイトたちの目は、もはや彼をただの
「変わり者」
としては見ていない。 学園一の高嶺の花……決して手の届かないはずの少女の関心を、どういうわけか惹きつけている「不気味な特例」として、彼を注視し始めていた。
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その日の午前中は、横目で刺すような視線にさらされる、耐え難い苦痛の時間だった。蓮はうなじが熱くなるのを感じていた。凛の友人たち……いわゆる「一軍」
の女子グループが、顎で彼を指しながら、ひそひそと囁き合っている。
「ねえ、凛ちゃん……」
制服を完璧に着こなした一人の女子が、低い声で尋ねた。
「なんであんな奴にお弁当なんてあげたの? お礼も言わないし、あいつ、ほんと失礼よね」
蓮は計算ドリルに顔を伏せ、聞こえないふりをした。
「……別に」
凛は、彼女特有の氷のような仮面を被り、教室中に響くような声で答えた。
「あいつの妹が病気だって聞いてね。あんな『ろくでなし』の兄のせいで、あの子がお腹を空かせるのが可哀想だと思っただけよ。ただの『慈善』。変な勘繰りはやめてちょうだい」
凛の言葉は、蓮の頭に氷水を浴びせかけたような衝撃だった。 彼女が自分を守るために、周囲の疑いをそらすためにそう言ったことは分かっている。だが、クラス全員の前で彼女の口から出た「ろくでなし」という言葉は、抑え込んでいた彼のプライドを再び激しく燃え上がらせた。
彼は鉛筆を握りしめた。指の関節が白く浮き出るほどに。
(……慈善、か。そうだよな。あいつにとって、俺はただの『可哀想な支援対象』でしかないんだ)
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噂は教室の中だけにとどまらず、廊下にまで燃え広がっていた。
「ねえ……不気味じゃない?」
「橘さん、最近ずっとあいつと一緒にいるよな……」
「放課後、あいつの家に行ってるって噂だよ……」
「マジで? 気持ち悪い……」
「もしかして、新しい『おもちゃ』なんじゃない?」
蓮はうつむいたまま歩き続けた。 放たれる言葉の一つひとつが、石礫のように彼を打つ。 自分のことが言われるのは構わない。だが、何も知らない奴らに彼女まで自分の泥沼に引きずり込まれ、汚されるのは耐え難かった。
(……いつから、あんな馬鹿のことが気になり始めたんだよ……?)
蓮は逃げるように廊下を急いだが、出口に辿り着く前に、三人の男子生徒が立ちふさがった。 教室の最後列に陣取り、学園の支配者気取りでいる、いつもの連中だった。
「へぇ……気味の悪い奴に、パトロンがついたってわけか」
リーダー格の男が、蓮の肩をロッカーに叩きつけながら嘲り笑った。
「なあ、星野。橘さんに何をして取り入ったんだ? 孤児の身の上話で同情でも買ったのか? それとも、弱みでも握って強請ってんのかよ?」
蓮は答えなかった。視線は床に向けられていたが、呼吸は次第に荒くなっていく。あの日、凛が初めて家に来た時に包丁を握らせたあの「本能」が、今、最も見せてはいけないこの場所で目覚めようとしていた。……もはや、妹のためだけではない。凛のために。
「……喋れよ、クズが!」
男が蓮の制服の襟を掴み上げた。
「橘さんが後ろ盾にいるからって、自分が何者かになったつもりか? あんたは一生、腹を空かせた野良犬なんだよ」
そして、蓮が取り返しのつかない凶行に及ぶ、その直前――。
「……その手を離しなさい。今すぐに」
そこに立っていたのは、凛だった。だが、圭とトランプをしていた時の彼女ではない。橘家の正当なる後継者としての姿であり、その声には三人の男子生徒を凍てつかせるほどの鋭い刃が宿っていた。
「た、橘さん……っ」
三人は怯え、慌てて蓮から距離を置いた。
「一体全体、何をしているつもりかしら?」
凛は彼らを射抜くような視線で睨みつけた。蓮はただ黙ったまま、内から湧き上がる衝動を必死に抑え込んでいた。
「い、いや、俺たちはただ……星野にちょっとした質問をしてただけだよな? なあ?」
見え透いた嘘を吐く三人に、凛の怒りはさらに燃え上がった。
「卑怯な上に、嘘まで下手なのね。……自分の惨めな人生が惜しいなら、今すぐに消え失せなさい」
三人は顔を真っ青にして頷くと、脱兎のごとく反対方向へと逃げ出した。 彼らの背中を見送り、凛は小さく溜め息をついて蓮を振り返った。
「……ねえ。大丈夫? なんで言い返さなかったのよ」
蓮は目を閉じていたが、静寂が戻ったことを悟ると、ゆっくりと目を開けて彼女を見つめた。
「……ああ、大丈夫だ。やり返さなかったのは、俺が自制したからだ。……そうしなきゃ、たぶんあいつらを殴り殺してた」
蓮は凛の横を通り過ぎようとした。だが、すれ違いざま、信じられないような言葉を微かに囁いた。
「……止めてくれて、ありがとな」
それを聞いた凛は、驚きで目を見開いた。心臓が予期せず、ドクンと速く跳ねる。 何かを言い返そうと振り返った時には、もう蓮の背中は遠ざかっていた……。
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その日の放課後、凛は再び星野家を訪れた。 圭はベッドに座り、窓の外を眺めていたが、聞き慣れた足音が近づくと勢いよく顔を向けた。
「凛お姉ちゃん!」
凛は鞄を置くと、微笑みながら歩み寄った。
「こんにちは、圭ちゃん。今日は気分はどう?」
「……うん、良くなってきたよ。今日は胸の痛みもあんまりなかったし」
凛は彼女の隣に腰を下ろすと、手早く小さな櫛を取り出し、丁寧にその髪を整え始めた。
「……本当に綺麗な髪ね」
圭はくすくすと笑った。
「お兄ちゃんはいつも、ボサボサでひどいって言うんだよ?」
それを聞いた凛は、鼻を鳴らした。
「……ひどいのは、あんたのお兄ちゃんの方よ」
二人は顔を見合わせ、小さく笑い合った。 心地よい静寂が、部屋を包み込む。
すると、圭が静かに口を開いた。
「ねえ、凛お姉ちゃん……」
「なあに?」
「……お姉ちゃんは、お兄ちゃんのこと……好きなの?」
凛の動きが、凍てついたように止まった。
「は、はあああ!?」
持っていた櫛が、手から滑り落ちそうになった。
「ち、違うわ、違うの……。そんなんじゃないってば……」
しかし、圭は子供とは思えないほど真剣な眼差しで彼女を見つめた。
「お兄ちゃん、いつも疲れてて……。いつも『大丈夫』って言うけど。でも、凛お姉ちゃんが来ると……静かになるんだよ」
凛は思わず唾を飲み込んだ。
「それは……あいつが、ただの意地っ張りな大馬鹿だからよ」
圭は、いたずらっぽく微笑んだ。
「じゃあ……馬鹿だけど、好きなの?」
凛は顔を真っ赤に染め、パッと横を向いた。
「す、好きじゃないわよ。……ただ。あいつに……ただの『孤独な大馬鹿』でいてほしくないだけなんだから」
圭は嬉しそうに彼女を見つめた。
「それならよかった。私、お兄ちゃんが一人ぼっちになるのは嫌だもん。私が……」
そこで、言葉が途切れた。 凛の背中に、冷たい戦慄が走る。
「……私が、眠っている時に」
凛は櫛を強く握りしめた。
「……そんなこと、言わないで」
圭は真っ直ぐに凛を見た。
「凛お姉ちゃんが、お兄ちゃんのそばにいてくれるなら……私は、それでいいんだよ」
「……」
静寂が部屋を満たす。 凛はそっと身をかがめ、壊れ物を扱うように、優しく少女を抱きしめた。
「……約束するわ。あの大馬鹿なあんたのお兄ちゃんを……絶対に、一人にはさせない」
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その夜、蓮はいつもより遅く帰宅した。
玄関の前で足をとめる。ドアノブは冷たかったが、それを回した瞬間、部屋の中の熱気が彼を包み込んだ。それは単なる古いストーブの熱ではない。そこにある「気配」そのものが、今や彼らにとって欠かせない酸素となっている……そんな温もりだった。
圭の部屋に入った蓮は、その敷居で石のように立ち尽くした。
凛が妹を抱きしめている姿が目に飛び込んできたからだ。それは別れの抱擁ではなく、決して離さないという強い意志がこもった守護の抱擁だった。床に落ちた櫛、凛の頬に残る赤らみ、そして圭の瞳に宿る、穏やかだがどこか重みのある光。
「……ただいま」
蓮は、いつもよりずっと穏やかな声で言った。
「っ! 星野! 幽霊みたいに音もなく入ってこないでよ!」
凛はびくりとして圭を離すと、必死に冷徹な仮面を取り戻そうとした。だが、わずかに潤んだ瞳が、彼女の動揺を何よりも雄弁に物語っていた。彼女は大慌てで制服を整え、床の櫛を拾い上げた。
「も、もう帰るわよ! 圭ちゃんの髪を整えてあげてただけ。あんたのやり方じゃ、原始人みたいなんですもの」
蓮は溜め息をつき、リュックを床に置くと、部屋中を見渡した。 部屋は整えられている。 窓は閉められ、温かさが逃げないようになっている。 残ったスープも丁寧に片付けられている。 すべてが……慈しまれていた。
蓮は皮肉をぶつけることも、彼女を追い出すこともしなかった。彼は静かに歩み寄り、妹の隣に座ると、凛を真っ直ぐに見つめた。
「橘……」
「な、何よ? 明日は来るなって言うつもりなら、無駄だから。どうせ明日も来るし、それに――」
「……ありがとう」
その場を、完全な沈黙が支配した。凛は口を半開きにしたまま固まった。今日二度目の、彼からの感謝の言葉。だが、それは汚れた廊下での囁きではない。彼がこの世で最も愛するものの前で放たれた、偽りのない告白だった。
蓮は疲れ切った様子で椅子に身を預け、初めて自分の弱さを隠さなかった。
「……廊下でのことも。ここにいてくれることも……感謝してる」
彼は静かに目を閉じた。
「……あんたは家族じゃないって言ったけど。圭が、あんたを家族だと思ってるなら……。もう、抗うのはやめる」
凛は、心臓が口から飛び出しそうなほどの鼓動を感じていた。ふと圭に目をやると、彼女は寝たふりをしているだけで、その年齢には似つかわしくない悪戯っぽいウィンクを凛に送ってきた。
そして、再び蓮を見る。あの「変わり者」が、今は無防備な姿で、彼女の差し伸べた手を受け入れようとしていた。
「……当然よ、この大馬鹿」
凛はそう呟き、足早にドアへと向かった。だが、部屋を出る直前で足を止め、もう一度だけ蓮を振り返る。
「……返品は、一切受け付けないから」
そう言い捨てると、彼女は爆発しそうなほど高鳴る鼓動を抱えて、逃げるように去っていった。
残された蓮は、ただ静かに溜め息をつき、心の底から溢れ出たような、純粋な微笑を浮かべた。
(……こんな日常に、慣れるわけにはいかないのにな)
そして、生まれて初めて……。 蓮は、世界の重みが自分一人だけの肩にかかっているのではないのだと、そう感じていた。
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街の別の場所では、凛が覚束ない足取りで靴を脱ぎ捨てていた。彼女の制服からは、埃と、どこか懐かしいスープの匂いがした。
彼女はベッドに倒れ込み、天井をじっと見つめた。
「……あの、馬鹿」
丸まった彼の背中。微かに震えていた、その手。 消え入りそうなほど小さな、あの「ありがとう」の声。
彼女は枕に顔を埋めた。
(……家族なんかじゃないわよ)
それでも……こぼれ落ちる微笑みを止めることはできなかった。 なぜなら、長い年月の間で初めて、圭以外の誰かが、自分の「明日」を必要としてくれたから。
第3章:完
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皆さん、こんにちは!またお会いしましたね。作者の 零時卿 です。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます!感謝の気持ちでいっぱいです。
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さて、今回の第3章はいかがでしたか? 「最高だった!」「もっと読みたい!」「いや、もうアカウントを消せ
(笑)」などなど……皆さんの率直な感想をコメント欄で待っています!すべて目を通させていただきます。
改めて、最後まで読んでいただきありがとうございました。 第4章も全力で準備中ですので、ぜひ楽しみにしていてくださいね!
それでは、また次回の更新でお会いしましょう!




