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【書籍化】夫に離婚を切り出したら、物語の主人公の継母になりました  作者: 魚谷


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2/30

2 前世

 気を失ったフリーデは二十一年間、自分が生きてきたこの世界が、物語の中だということを思い出した。


 タイトルは『凍月のこおるつきのやいば』。

 主人公はギュスターブが連れていた子ども──皇帝の私生児、ユーリ・ソウマ・ケーニッヒ。

 彼がグリシール家に引き取られるところからはじまる物語。

 実子のいなかった先帝が崩御し、その弟、ユーリの叔父にあたる、ヴォルムスが皇位を継承した。

 ヴォルムスはユーリの存在を知り、消そうとする。


 ユーリは叔父の魔の手から逃れながら臣下を少しずつ増やしていき、最終的にヴォルムスを討ち取り、皇帝に即位する。

 臣下の一人には、ギュスターブもいる。

 しかし彼は物語の中盤、ユーリを庇って討たれる。


 では、ギュスターブの妻、フリーデはどうか……。

 物語の序盤も序盤にユーリの存在にショックを受けて出奔した彼女は、実家のある王都へ逃げる。

 父は突然戻って来た娘に驚き、呆れる。そこでフリーデは涙ながらに、事情を説明。

 するとヴォルムスに側近だった父親がすぐにそのことを報告する。

 ヴォルムスはユーリが兄の子だと確信し、甥の殺害を画策する。

 フリーデは北部までの道案内、そしてユーリを殺す手はずを整えるために利用されるだけ利用され、最終的には始末されて、証拠隠滅に谷底へ落とされてしまう。

 おまけにフリーデの死は刺客の口から語られることになる。

 つまりダイジェストで死んだことにされるのだ。

 刺客はユーリを狙い、ギュスターブに殺される。


 ――まさか……死ぬ直前まで読んでいた物語の中の登場人物、それもさっさと殺される端役に転生しちゃうとか。同情できるところはあるにしても、何の罪のない子どもを売ったフリーデに!


 転生前の人生は悲惨だった。

 大学卒業後、就職した会社が超絶ブラックだった。ほとんど休みのない過酷な労働の最中に、意識を失って、それきり。

 前世のことを思い出したとはいえ、十八年間、フリーデとして生きてきた記憶だってちゃんとある。

 だから、フリーデが離婚を決めたことは理解できる。

 むしろ、同情しまくり……。


 ノルラント侯爵家の長女に生まれたフリーデは十一歳で、当時、十五歳のギュスターブに嫁いだ。若くして隣国との領土紛争で数々の武勲を上げたギュスターブがその褒美に、と先帝に願ったのだ。

 相手は伯爵とはいえ、長い歴史を持つノルラント侯爵家に比べ、グリシール伯爵家はギュスターブの祖父の代に男爵位を得て貴族に列した新参。

 釣り合いを考えれば到底ありえない結婚だが、ギュスターブを気にいっていた皇帝は婚姻を認めた。

 明らかな格下の家との婚姻だったが、当時のフリーデは若き密かに胸を高鳴らせていた。

 それはギュスターブが、幼い頃から寝物語に聞いた英雄そのもののように思えたから。


 お姫様と英雄の結婚は、当時のフリーデの憧れだったから。

 しかしその結婚生活は思い描いたものとは全く違って、空虚そのもの。

 嫁いだのが八歳の時だから初夜を迎えられないのはしょうがないにしても、夫は一年のほとんどを戦場で過ごし、ようやく帰ってきたと思えば、またすぐ次の戦場へ。

 フリーデが必死に夫婦として過ごそうと努力をしても、言葉を交わす暇もない。


 こうして十年間という歳月が過ぎ去った。

 意図していないにもかかわらず、白い結婚になってしまった。

 使用人たちからは帝都から北部くんだりまで嫁いできたにもかかわらず、夫に袖にされる哀れな奥方と同情された。

 この状況で、離婚を考えないほうがどうかしてる。

 十年間もよく耐えたと思う。しかし前世の記憶を取り戻した今、すぐに離婚というのはためらってしまう。


 ギュスターブのことなんてどうでもいい。

 心配なのはユーリだ。

 彼が歩むであろう茨の道を思うと胸が締め付けられるし、今ここで家を出れば、ユーリを見捨てたことにもなる。

 もちろん彼は主人公。

 いくつもの試練を乗り越えつつ、傷だらけになりながらも、最終的には栄光を手にする。

 しかしその過程で多くの出会い以上の喪失と裏切りを経験し、皇位に手をかけた時には、その心は冷たく凍り付き、容赦のないリアリストになっている。

 優れた為政者だが、決して人に心を許さない。


 物語の筋書きを知るフリーデが守れば、彼の心を守ることができるかもしれない。

 どのみちギュスターブは離婚を承諾しないのだから、ユーリが立派に育つまでしっかり後見しつつ、独立するためにお金を貯めたほうがいい。


 フリーデは義理の母と妹にさんざんいじめられ、厄介払いとばかりに北部へ嫁がされてきた身なのだから、王都に戻ったところで居場所などあるはずもない。

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