第40話 都合の良い話
キョウヤたちとの作戦会議が終わり日が沈んだ頃、トライデアの魔王討伐隊の異界人4人と団長代理のミレイを会議室に呼び寄せた。
王城の中庭にはロボットによって昨日破壊されていたはずの建物が、時間が巻き戻ったかのように元通りとなっていた。
「昨日まで廃墟同然だったのにもう会議室が建て直されてるなんて、どんだけ準備良いんだよ……」
異界人によって壊れることが予定されていた会議室は職人の手によって一夜にして復旧が済んでおり、その用意の良さに思わず感嘆した。
しかし用意が良いのは俺たちも同じだ。
『異世界から帰還したい組』ことミェースタも同じくトライデアの異界人と出会ってから1日にして今後の計画を立てた。
俺たちミェースタは『お互いで異世界の脱出を目指し、全力かつ最速で協力する』と決めた同志。
その決意を今日の結果として示す。
「今回の交渉は複雑だ。全部上手くいくとは思えないが……」
それでも勝算は立てた。
これから話すのは【ミェースタが抱える問題】と【トライデアという国が抱えている問題】と【山賊たちの復讐の手助け】という3つの観点の解決策の提示だ。
それぞれが別々の価値観、問題を抱えている。
「だとしても全員を納得させてみせる!」
扉を開けると既に今日のメンバーが全員揃っていた。
トライデア側からは団長代理のミレイ、魔王討伐隊の【勇者】、【機兵】、【懐柔】、【女王】の5名。
対する俺たちミェースタからは才伍、キョウヤ、ラーちゃ、ラルミラの4名。
「女王を呼びつけておいて遅刻してくるなんていい度胸ね!敬意が足りていないわ。
謝りなさい、サイゴ!」
「ぐぐ……グワーッ!!わ、ワワ、悪かった……よ、レギナ。どうしても準備が必要でな……」
早速女王の洗礼を受けてしまった。
俺はこの会議のためにあらゆる準備をギチギチに詰め込んできた。
全員のアポを取って、山賊たちに話をつけ、調べ物をして……
そのすべてが必要だったから、5分の遅刻くらいは見逃してくれと言いたい。
しかし女王にそんな理屈は通らないのは分かっているから、大人しく頭を下げ謝罪する。
「それでサイゴさん、トライデアの異界人全員に話があるとはどういう意味ですか……?」
「ああ、そうだな団長代理さん。今日は皆にとって都合の良い話をもってきたんだ」
「都合の良い話……?面倒はよしてくださいよ……」
「安心してくれ、俺たちは面倒ごとを減らしに来たんだ」
俯いてため息をつく。そりゃ信用できないだろうな。
だけど本当に都合の良い話を2つ作ってきた。
「始めに話しておくと、俺たちの要求はシンプルだ。とにかく金がほしい、トライデアから資金を提供してほしいんだ。具体的には4人が余裕をもって未知の国に旅ができる金額、10万ムルドだ!」
ミェースタが掴んでいる帰還の手がかりは【アルマトムという国に向かった旅人】
そこに安全に向かうだけの資金の回収と情報収集がこの国での目的だ。
「結局金ですか、何度も言っていますが我が国にそんな余裕はありませんよ……第一、義理もないです」
「そうだろうな、このトライデアは現状として財政難なのは聞いている。そもそも見ず知らずの人間にいきなり大金を出せなんてのは無理なのも分かっている」
第1の解決策の提示。
「それじゃあ、その財政難をある程度俺たちが緩和できたとしたら……」
「功績を認めて、浮いた資金の一部を提供して欲しいということですか?そんな都合よく大金を手に入れるなんて金脈でも掘り当てるつもりですか?」
「ちょっと近いが金脈じゃない、領土だ。俺たちは魔獣からの【領土奪還依頼】を提案する」
「何!【依頼】か!!」
【勇者】がその単語を聞いた瞬間、目を輝かせてた。
そうだ、お前たち魔王討伐隊の異界人にも関係のある話だ。
「話を聞いているとトライデアの異界騎士団は【魔王討伐作戦】による魔獣からの領土奪還は全然出来ていなかったんだよな?」
「残念ながらその通りだ!我々勇者パーティーが魔王のいる大陸中央部に進軍すると他の同盟国に妨害されてしまうからな!」
「おかしな話だよな。異界人がパッタリ来なくなったこの期に及んで、同盟国が魔導戦争を終わらせた英雄たちの足を引っ張ってるなんて。そのせいで戦果も残せないなんてのは損失というほかない」
「何が言いたいんだ、メガネの男!エースパイロットであるこの俺が役立たずだって言いたいのかーーーっ!!」
「落ち着いてくれ、【機兵】。俺が話そうとしているのはトライデア異界騎士団にその戦果を挙げてきて欲しいという話なんだ」
『資金調達』と『人格破綻者の異界人の行動制御』の両方を兼ね備えている。
それが【領土奪還依頼】だ。
「要はトライデアの異界騎士団が魔獣から領土を奪還できれば、トライデアは資源が手に入るだろ?
その資源があれば10万ムルドどころじゃないほどの大金を用意できるはずだ」
「トライデアの異界騎士団が2年間領土を解放できなかったという話ですよね?それなのに今更領土の解放作戦を計画するなんて破綻しているようですが」
「表面上はそうだな、だけどトライデアが戦果を挙げることができなかったのは『大陸中央部に進軍しようとして、同盟国から妨害を受ける』からだ。単純な戦力不足じゃない」
ややこしいが、【魔王討伐作戦】と【魔獣からの領土奪還】は同じ意味ではない。
【魔王討伐作戦】は『大陸中央部にある魔獣の発生原因を特定し、根本から大陸全土を解放する作戦』だ。これはヴァース大陸全土の支配者を決定づける競争であり、各同盟国が足の引っ張りをする原因。
俺たちが今回提案するのは【魔獣からの領土奪還】。『魔獣が住み着いた土地から領土を取り返すこと』で、根本原因を特定するものとは違う。国としての領土拡大だ。
「大陸中央部ではなく『トライデア付近にある魔獣の住み着く土地』に進軍して、領土を手に入れる事自体には他の同盟国は妨害してこないんじゃないか?」
「まあ、確かにそうかも知れませんね。しかし、魔王討伐作戦の同盟を組んでいる中で勝手にトライデアだけが領土の拡大などすれば、反発される可能性があるのでは?」
「流石だな団長代理、そのへんの事情も分かってくれるか。だけどな、今回はトライデアの異界人には領土拡大を実行できるだけの大義名分があるんだ。【国を襲ったモリントワームという脅威の発生】がな」
「モリントワームがですか……?」
これが偶然が重なったことによる都合の良い話だ。
「今回、トライデアの異界騎士団は突如発生したモリントワームの討伐のために急遽作戦を切り上げて帰国してきた。結果としてモリントワームの討伐自体はセカンドル異界騎士団と俺たちがやったわけで、間に合わなかったんだが……」
「そうだね、モリントワームをこの目で見られなかったのは本当に残念だったよ!」
「その、国の危機のために帰国したという事実が使えるんだ。『モリントワームによる被害を受けて、魔獣の脅威を排除するために、やむを得ず領土を奪還した』ってな」
「……それならば確かに通りますね。トライデアの危機は本当でしたから」
「競争相手とはいえ、同盟国の存亡の危機だとしたら下手に妨害は出来ないものね!なかなかじゃない、サイゴ!」
どうやら女王様もご満悦で納得いただけたようだ。
「そして魔獣の領土奪還作戦に俺たちからはモリントワームを倒した英雄、【逆境】の超奇跡を持つうちのエースを貸し出す!」
「むむ!英雄だと!!」
「あはは、英雄なんて言われると恥ずかしいですね……他にも頼りになる冒険者にあてがあります。
ああ、それでも僕はまだ経験が浅いので魔獣討伐で皆さんの戦い方、是非勉強させてください!」
「フン、俺のライバルとなるルーキーというわけか!どんな相手だろうと容赦はしない!!」
トライデアの魔王討伐隊の異界人は思うように戦果をあげられなかったことを不満に思っていた。
目立ちたがりのヴェルス、キッド、レギナがこんな楽しそうな話に乗らないわけがない。
アルテも魔獣との接触する機会だからきっと協力する。
また、キョウヤの言う冒険者とは狼男を除いた山賊たち3人。
山賊たちにとって、トライデアの異界人の中にはガァルを狼男にした仇がいるのだが、『ガァル以外の山賊は復讐相手に会っていない』んだ。
だから彼らには『その目で超奇跡を直接観察できる機会を用意するから、魔獣の討伐を手伝って欲しい』として情報提供を兼ねた場をセッティングした。
山賊たちとしても、復讐相手が誰なのかを判断し、超奇跡の対策を考えられるまたとないチャンスとして、取引に応じてくれた。
つまり、この【魔獣討伐による領土解放作戦】は『トライデアからの資金調達』と『トライデア異界人が国内で発生させるトラブルの抑止』と『山賊たちへの情報提供』を兼ねた一挙全得の都合の良い話として俺たちが作り上げた。
ここまでは順調だ。
「……勝手に話を進めないでください。トライデアが魔獣討伐に行くべきだという話は分かりましたが、あなたたちに10万ムルドの資金提供という部分には賛成できません」
「というと?」
「そもそもですが、トライデアの異界騎士団は破綻者ばかりですが屈指の戦闘力は持っています。
あなたたちの提供できる戦闘能力では正直大金を出せるほどの価値があるとは思えません。
領土解放のアイディアを出してくれたことに感謝はすれど、そのアイディア料に10万ムルドというのはボッタクリのように思いますが……」
「逆境ルーキーと撃墜数勝負に水を差そうっていうのか、ミレイ!」
「違いますよ、あなたたち魔王討伐隊に理性のあるまともな異界人が引率してもらえること自体には賛成です。しかし、それだけで10万ムルドというのは高額すぎるということですよ」
ミレイの主張はごもっともだ。10万ムルドというのは日本円でざっくり1000万円。
ラーちゃを始めとした冒険者にとっては目玉が飛び出るような大金だ。
その報酬を貰うには正当な対価が必要だ。
「……ミレイの言う通りだ、確かに俺たちが魔獣討伐に少し手を貸した程度で10万ムルドをすぐに貰おうってのは俺たちにとってムシのいい話だ。
だけど俺たちは団長代理さんにもプレゼントを持ってきた。きっとあなたが、1番欲しいものだ」
「私が欲しいもの、ですか……?」
「休暇だよ、あなたが1番欲している。1週間の最高の休暇だ」
第2の解決策の提示、都合の良い話の真骨頂を見せてやる。




