第38話 狼男との交渉
俺がトライデアの異界人と接触し、情報収集をしている理由。
それは狼男の山賊、ガァルと交わした交渉にある。
──ときは少し戻り、セカンドル異界騎士団との衝突前。ガァルたちと接触したときのこと。
俺とラルミラは【セカンドル異界騎士団】への入団拒否から武力的な介入を受けた場合の保険として、ガァルたちを探し出し、接触していた。
街中をラルミラの【読心】の能力を使って山賊の一味である盗賊担当を発見し、トライデアの路地裏にあるガァルたちの隠れ家に『交渉をしたい』と伝えて案内させた。
その隠れ家は真昼にもかかわらず陽の光が殆ど当たらず、ジメジメとした薄暗い洞窟のような場所だった。
木製の小屋のような造りをしたその建物の窓はすべてカーテンで締め切っており、狼男の姿を隠し通すための外套としてしっかりと機能していた。
部屋の明かりはロウソクのみ、狼のゴワゴワとした毛並みを足元から縁取るように淡い光で照らす。
「で、わざわざ俺たちから逃げ切れたのに探してまた会いに来たってのか?サイゴ」
「探してたのはお前らも一緒だろ、狼男。お前の狼の姿はこの世界であっても明らかに目立つ。
それなのにわざわざトライデアに来たのは、俺たち異界人を探していたから。
そうじゃなきゃわざわざ俺とキョウヤの噂なんて街で流さないからな、違うか?」
そう、ガァルたちは俺たちが転移することを事前に知っていた。
そして一度は逃げた俺たちをまた捕まえることをガァルは諦めていなかった。
つまり、山賊たちは俺たち異界人にどうしてもやってほしいことがある。
それがこの話のポイントだ。
俺が交渉しに来たのは【その転移を知った経緯】と【セカンドル異界騎士団との武力衝突の保険】のため。
山賊たちの要求を聞き出して、俺たちの要求を飲ませてやる。
俺と【読心】でな。
「ははっ!何だ、そこまで分かってたのか!言ってねぇのにここまでバレるとは、キョウヤの馬鹿力よりもサイゴのほうが恐ろしいかもな!」
ガハハと大きな声を出して嬉しそうに笑う。
自分の狙いが看破されているというのに、まるで期待以上だったようなリアクションだ。
「まどろっこしい話はなしだ、俺とキョウヤにわざわざやってほしいことってのは何だ?
何故トライデアに来た?この前言っていた、復讐のためか?」
「だからそれは仲間にならないと言えねぇって──」
「……自分を狼の姿にして、仲間たちを殺したトライデア異界人への復讐、だって」
ラルミラはガァルの心を覗いた結果をボソッと呟いた。
流石に具体的な内容までビタリと言い当てられるは想定外だったのか、山賊たちもあ然としている。
「お前、どこでそれを……」
「悪いな、心を読む超奇跡だ。意味のない隠し事はナシにしよう」
「話に聞いてたが、ここまでとはな……!」
ラルミラを連れてきて正解だった。無用な探り合いをしなくて済む。
俺とキョウヤたちは邪魔をする意図はないと念入りに伝えたうえで、ガァルは俺たちに【トライデアで実行しようとしている復讐の計画】と【転移してくる異界人を知った経緯】を教えてくれた。
「そこの嬢ちゃんが言った通り、俺は元々狼男じゃない。普通のヴァース大陸の人間だった」
それは想定していた回答だ。この世界にエルフや獣人のような人間に似た別の種族は存在しない。
セカンドルの操風に聞いていた、この世界の常識の話だ。
「恐らく、超奇跡の影響だよな?」
「そうだ、俺はこんな獣の姿になったのは、トライデア異界人の実験道具にされたからだ。
俺たちが【魔王討伐作戦】で進軍しているときに俺の部隊が襲われて……俺以外が、全滅した」
「それでガァルだけはギリギリ逃げ出せたから、その異界人に復讐をしたいってわけか」
「……俺はこんな獣の姿だから国にいる家族にも会えなくなった。
俺の母国は異界人嫌いばっかりだから、穢らわしい異界人の影響を受けた人間なんて、国に入れたくないんだとさ」
ガァルは仲間との死別、家族との離別を経験した異界人の被害者だった。
形は違えど、いきなりの転移で家族と別れることになったキョウヤと、少しだけ境遇は似ているのかもしれない。
「夜の森で襲われたから、暗くて顔はよく見えなかったから個人の特定はできなかった。
それでもソイツは『自分の騎士団のモチーフになっているお気に入りの魔獣と合成した』と、言っているのが聞こえたんだ」
「つまり、その狼をモチーフにした騎士団がトライデアで、復讐しに来たってワケか……」
「そうだ、本当は俺たち4人だけでソイツのところに行くつもりだったんだが、『異界人がもうすぐ転移してくるから、その人を仲間にするといい』って途中で会った旅人にアドバイスを貰ったんだ」
だんだんと山賊たちの話の輪郭が見えてきた。
今まで不自然だった話が繋がっていく。
「……ガァルたちの事情は分かった。それでも転移直後の俺とキョウヤを何の事情も説明せずに捕まえたことは、見逃せないな」
「ガハハ!そうだった!森の中のことはすまなかった!
俺たちも異界人のことなんて何も知らなかったからよ、ちょっと脅かして奇跡の力がどんなもんか見てみようと思ってたんだよ!
それで仲間になれそうか確認しようとしたんだが、そしたらお前らがいきなり暴れ出してよ……」
「……こいつ、笑い事じゃなかったからな!!!」
これまでの山賊たちの行動にすべて合点がいった。
俺がノートを燃やしただけで、すぐ降参するくらい異様に怖がっていたのは超奇跡自体に疎かったからだ。
「ラルミラ、心を読んだ結果でガァルたちが嘘をついている箇所はあったか?」
「なかった、全部本心」
待ってました、と言わんばかりのドヤ顔ピースで答える。
「よし、それならいい。ちょっと整理させてくれ、お前らの言い分はこういう事で合ってるか?」
ノートをガァルたちに貸し出す。
【ガァルたちの復讐】
・仲間を殺し、自分を狼の姿にしたトライデアの異界人に復讐したい
・ガァルは、可能であれば狼の姿から人間に戻りたい
【サイゴとキョウヤと出会った理由】
・トライデア王国に向かう道中で【旅人】に出会い、『転移してくる異界人がいる』ということを知る
・その異界人を仲間にして、自分たちの復讐を手伝ってもらいたかった
・結果としてサイゴとキョウヤを一度は逃がしたが、トライデアで待っていればまた会えるかもも思い、潜伏していた
「……おお、よくまとまってるな!
『狼の姿から人間に戻りたい』って部分はそもそも考えたこともなかったが、確かにその姿にした張本人に聞いたらなんとかなるかもしれんな!!気づかせてくれてありがとう!サイゴ!」
「……いたっ!背中を叩くな……!」
ガハハと笑いながら俺の背中をドンドンと叩くガァルの顔は、希望に満ち溢れた表情だった。
まだ手伝うとは言ってないんだけどな。
「それでやっと本題なんだが、俺たちは『セカンドル異界騎士団との面倒ごと』に巻き込まれてるんだ。
それにその『転移を知っていた【旅人】の情報』も知りたい。
そこで、取引しないか?俺とキョウヤはお前らの復讐に直接関与は出来ないが、情報の提供くらいならしてやってもいいと思っている」
「ほー!山賊に交渉と来たか!!豪胆だな!いいぜ、俺たちもトライデアに来たものの手詰まりだったんでな!」
【才伍とガァルの契約】
・ガァルたちはサイゴ、キョウヤ、ラルミラ、ラーちゃ(以下、サイゴ一行)がセカンドル異界騎士団と武力衝突をする場合、全力で加勢をすること
・セカンドル異界騎士団との入団拒否交渉が成立した場合、サイゴ一行は【ガァルを狼男にしたと思われるトライデア異界人の情報】を提供すること
・サイゴ一行は【トライデア異界人への復讐】に武力的な協力をしない(あくまで情報提供のみを行う)
──ということで、現在、トライデアで異界人の情報を集めるにという状況に至る。
結果として、俺たちは【セカンドル異界騎士団の入団を断り】、【転移を知っていた人物の行き先】を知ることが出来た。
転移を知っていた『旅人』の人相についても聞いたが、ガァルたちは揃って『男だったか、女だったかも思い出せなかった』と言っているので、分かったのは『魔導国家アルマトムに向かった』という情報のみ。
そして今度は俺たちがトライデア異界人の情報を集めて、ガァルたちに提供するというわけだ。
ラルミラの【読心】があれば復讐相手の情報など手軽に情報を入手できると考えたんだが……
彼らは揃いも揃って天災のような人格破綻者ばかり。
しかも、たちの悪いことに魔導戦争を終わらせるレベルの英雄揃いだ。
ガァルたちに下手に情報を教え、この場で衝突を起こせばトライデアで準備を整えている俺たちに被害が及ぶ。
「やめときゃよかったっーーー!!!」
貸し与えられた王城の客室で頭を抱える。
想定が甘かった。今から俺たちが約束を反故にすればガァルたちが何をしでかすかわからない。
「……こうなったら、全員コントロールしてやる!!!」
俺の交渉、それは【トライデア異界人とのいざこざを起こさず、ガァルたちのトライデア異界人への復讐の手助けを行う】。
完全に矛盾している。
それでも、俺はキョウヤが帰還するために最速で動くと約束してしまった。
こうなったら、何だってやってやる……
正しい人は、正しい手段で助ける。その状況を作り出す。
俺はそう決意してノートに生存戦略を書き出した。




