第33話 ケースのクローズ
「サイゴさーん!!!大丈夫ですかー!!!」
ヘラクが倒れてからしばらくして、ラルミラと合流したキョウヤと山賊たちが中央通りまでやってきた。
山賊たちは傷ついたラーちゃとへラクたち異界騎士団を王城手前まで運んだ。
ヘラクはその間、ノートを胃袋から取り除かれていたが、山賊たちに囲まれている手前で抵抗する様子はまったくなかった。
王城の前で山賊たちは『自分たちは目立つから城の中には入れない』と言い残し、その場で別れた。
そこからはトライデア異界騎士団の団長代理に連絡し、彼女の【脱出】の超奇跡で【会議室】に転送してもらった。
窓が割れたままで、入り込む夜風の冷たさが肌を突き刺す。
「……ふふ、そういえばラルミラ君は【視界に入れた人間の表面上の心しか読めない】んじゃなかったかい?
それで私が【修復】したとして、【寿命のストック】を使ったかなんて分かるのかい?」
へラクには今夜の戦闘で傷ついた人たちを【修復】してもらう契約だ。
【修復の対価】として【寿命】を消費する必要があるが、それは【過去に治療した人たちから余分に奪ったストック】から使うことができる。
それをどれだけ使ったかへラク本人しかわからない。
ただし、奇跡には例外がある。
「ああ!ラルミラはな、【直接触れると心の深くまで読み取れる】んだ。
知らなかったよな?俺も聞かなきゃ分からなかった!よし、やってやれ」
ぴとっ、とへラクの首筋に触れる。
「サイゴのこと、死ぬほどぶち殺したいって」
「ありがとう、そりゃ読めなくても分かる」
「くっ!!」
ヘラクは渋々立場を受け入れ、【ラーちゃ】、【キョウヤ】、【操風】、【副隊長】、【騎士3人】の順で治療した。
【寿命のストック】を用いた【他人の修復】には時間がかかるらしく、夜明けまで続いた。
プライドの高いコイツらしい制約だな。
ヘラクは修復の間、平静は装っていたものの一言も言葉を発することはなかった。
「トライデアの団長代理さん、今日は色々あったがまあ許してやってもいいと思ってる」
「思ってる……ってことは、取引ですか?はぁ……結局面倒ごとですか」
ミレイはヘラクと共謀して俺たちを陥れた共犯者だ。
モリントワームを倒した命の恩人たちに対してやったことは普通許されるものじゃない。
だが、それが利用できる。
「ああ、俺たちもなセカンドルと協力してモリントワームを倒した、いわば英雄だ。報酬がほしい!」
「言っておきますが、お金は出せませんよ。タダでさえ問題児どもせいで税金が足りてないんですから……」
「え?いや俺たちだって報酬を貰う権利は……」
「そもそも、あなた達にはセカンドルの分と含めて、10万ムルド分を既に渡したはずですが?」
「……?いや俺たちは5千ムルドしかもらってないが」
金額がおかしい、俺とキョウヤ、ラーちゃの3人分にしては明らかに少ない。
ノートを取り出し、討伐メンバーの数を書き出す。
「俺、キョウヤ、ラーちゃ、ヘラク、フィロン、ラルミラ、騎士団4人……10人だな」
そう、ラルミラを抜いたとしてもキョウヤとラーちゃも含めた3万ムルドは貰っていないとおかしい。
「おいヘラク!!俺たちの報酬が足りないぞ!!ちょろまかしてた分、2万5千ムルドをよこせ!」
「ああ、それならもう使ってしまったよ」
「何……?まさか、あの日の宴で客全員に奢ったとき!!!コイツ!!!」
「それにいい宿だったろ?全部2人部屋で取ってたからね。悪いけど私の手元に報酬はもうないよ」
「てめぇ、やりあがったな!また苦しみたいか!!」
「……もう城で暴れないでくださいよ」
クソ、はめられていた!俺たちはこの世界のお金の価値を知らなかった!
ラーちゃみたいな一般人には高額な報酬だが、国家規模の討伐報酬としては少なすぎたんだ!
どうりでヘラクたちの羽振りがいいと思ったぜ……そりゃ人の金だからか。
「サイゴさん、実は僕も鍛冶屋で武器を修理したときに結構お金使っちゃって……」
「嘘だろ、キョウヤ……!」
残り、1000ムルド。日本円で10万円しかない。
「ゴメン!!クレぴー!相談しようと思ったんだけど時間無くてさー!一応私も持ち合わせあるからさ、それでなんとかね!」
ヴァース人のラーちゃが責任を感じたのか、頭を下げる。
「いや、多分それを合わせても全然足りない。次は【アルマトム】って国までいかないといけないからな。
この国を出て、魔獣の住む生息域を抜けたうえで、更に向こうの国で過ごせるだけのお金が必要だ」
【アルマトム】という魔導国家、これは山賊たちに聞いた【転移を事前に知っていた人物】の行き先らしい。
体験したことがないのでどれほどの道のりかは分からないが、かなり過酷な旅になりそうだ。
行った先で何があるかわからないから、できるだけお金は集めておきたかったが流石に4人分には足りない。
「へぇ、【アルマトム】ねぇ……」
「何だよ、ヘラク?言いたいことでも」
その言葉を聞いて、不気味に笑う。
「ああ、その国に行くのは気をつけたほうがいいよ!なんせ【異界人と対立している国】だからね!!」
「おい、どういうことだよ?」
「まあ、私が言えるのはここまでだ。【報酬を使った詫び】と【学びを与えてくれたお礼】さ」
「損害と釣り合ってねぇぞ!!おい!!!」
「だからもう暴れないでくださいよ、私だって徹夜してるんですから……」
俺が不当な理不尽を訴えている間、団長代理は目の下の隈をこすりながら、傷んではねた毛先を直していた。
─仮眠後の正午過ぎ、トライデア王城の入口前の大広間
ヘラクたち、セカンドルの異界騎士団は【自国での仕事が待っている】とのことでそのまま帰国することになった。
ヘラクはずっと仏頂面で俺の方を見つめていた。
クソが、文句があるのはこっちの方だぞ!
「ふふ、君たちは手がかり探しをせいぜい頑張ってくれよ。どうせ見つからないだろうけどね。
それと【セカンドル異界騎士団への情報提供】は不要だ。わざわざ君たちが私の目の前に現れても目障りだからね」
ヘラクがこれでもかと憎まれ口を叩く。
「はい、へラクさんたちも頑張ってください。僕は協力できませんが、あなたの夢は応援しています」
「言ってくれるね!キョウヤ君にもいつか分かるときが来るはずさ、私の理想が」
真剣な眼差しで見つめているキョウヤとは目を合わさず、ヘラクは赤い絨毯の外に歩いていく。
「サイゴ、キョウヤ!お前たちには迷惑かけたな。
許されることをしたとは思ってない、俺のことは恨んでくれてもいい。
それとラルミラとラーちゃさんだったよな、2人を頼む!達者でな」
フィロンは何か憑き物が落ちたような雰囲気で、心なしか少し安心しているような立ち姿だった。
「フィロンさん……」
「おけまる!!でも、今度街の人巻き込んだりしたら許さないって、ヘラクにいっておいてねー☆」
ラーちゃはあれほど痛めつけられたはずなのに、異界人を恐れること無くもう許している。
もはや経験値がどうとかより、ベテランというか、死線をくぐり抜けてきたとか、そんな風格を感じる……
ラルミラも右手でVの字を作って無言で応えた。
フィロンはいいやつだったと思う。アイツなりにずっと考えてる。
どれだけ自由な奇跡を与えられても、限られた道を選ばなきゃいけないヤツは多分この世界にはもっと多くいる。
「サイゴ殿、キョウヤ殿、ラーちゃ殿。私たちが貴方がたにしたことは全くもって許されることではございません。
杖を交えておいて、おかしな話ではあるのですがヘラク殿にも考えがあっての行動であったということは、どうか承知いただきたい……」
「ああ、いいよ。リーデッドたちがアイツに救われてるのは事実だ。それを否定する気はない。
その代わり、もしアイツがまた勝手に走り出すことがあったら止めてやってくれないか?
ヘラクが一番欲しいのは多分ヴァース人からの理解だ、お前らにしか出来ないことだと思う」
「はっ、命に換えても我々がお守りします」
心臓に手を当てる、セカンドル式の敬礼をもって俺たちに別れを告げ、セカンドル騎士団全員が街中へと消えていった。
その後、割れたガラスが放置された王城の会議室でトライデア団長代理の女性、ミレイと2人で今後の交渉を進める。
俺たちは一応の【トライデア側の詫び】として、追加のお金は出せないが【王城内の客室】にしばらく泊まらせて貰えることに。
また無理やり訴えてた追加の条件として【王城内の図書館】での調べ物もやらせてもらうことになった。
これでやっとトントンくらいか。
しかし、一番の問題である【アルマトム】に行けるだけの【資金】。
これだけはそう簡単に捻出できない財務事情があるらしい。
「……確かにこれ以上資金を出せない状況なのは分かった。
そのかわりに手っ取り早く大金を稼げる仕事はないか?例えば、冒険者業とかで特別な依頼とかを受けたりとか……」
この世界の【冒険者】とは、【国の領土外にいる魔獣を討伐する】職業のことだ。
このヴァース大陸は【国同士が隣接する国境】がなく、国同士の間には必ず【魔獣の支配領域】があるらしい。
そのせいで国家間を結ぶ交易路を歩くだけで大変な苦労であるため、その用心棒として【冒険者を雇う】ということのようだ。
魔法も超能力もあるファンタジー的な世界だが、こういうところだけやたら生々しい。
「……1つ言っておくと、ここ【トライデア】と【アルマトム】は仲の良い国ということではないですね。魔導戦争の戦勝国と敗戦国ですから、当たり前ではあるのですが」
ミレイの話によると【アルマトムに行こうとする異界人はこれまで1度も見たことがない】という。
調べてみないとわからないが、お金以外にも何か情報を準備をしなければ行けない気はする。
恐らくは、【冒険者として依頼を受けて、交易路を使ってアルマトムに行く】というような正攻法は異界人には出来ないということなのだろう。
「まあ、大金を報酬を渡せるだけの依頼があるにはありますが……」
何かを言いかけた瞬間、扉が閉まらない窓から勇ましい声が聞こえた。
「何っ!!窓が割れているではないか!!面倒ごとの気配、もしや【依頼】か!!!!」
「待て!【勇者】、ここは俺のレーダーで偵察する。侵入者だ!!」
「いや、待たぬ!!【依頼】は一度きりだからな!そこで待っていろ、【機兵】!!」
とおっ!っと壁に空いた穴から宙返りをして入ってきたのは金色の鎧を纏った、つんつん頭。
膝をついて着地した瞬間、鎧同士が衝突した金属音が響き渡り、床の木の板が割れる。
「クソっ!遅れを取った。発進しろ!!【アルゴス・Mark-Λ】!!!」
この世界で聞くはずのない、ジェット音が何故か至近距離で鳴り響き、鼓膜を揺らす。
「な、なんだこの音!!!この世界は飛行機があるのか!!」
「いえ、サイゴさん。それ以上です」
金色の男を見て、轟音を聞いたミレイは何故か目を閉じて涙を流している。
その轟音は明らかにこちらの会議室に向かって近づき、窓から差し込む日光が消えた。
ごぉおおおおおおおおおおんんんん!!!!!!!!!
しっかり仮眠していたはずだが、まだ夢でも見ているのかと思った。
しかし、頬をかすめた木の板と足元に転がる瓦礫を見て、現実であることを悟った。
「待たせたね、諸君!!エースパイロット【機兵】、只今より偵察任務に入る!!」
見上げた先には鋼鉄の巨人、装甲には血管のように張り巡らされた黄緑色のライン、右の手の甲に突き刺さる剣、左の手の甲にはひし形の光の盾、左手の大砲、腰に下げたガトリングガン、頭部の銃口、光るモノアイ。
間違いない、場違いだ。
さっきまで窓しか割れていなかった部屋は、一瞬で屋根まで壊れていた。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
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