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異世界10冊ノート ~無からノートを作り出すだけの男、流石に無双できない~  作者: ろうそく魔神
セカンドル異界騎士団

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第32話 デバッグ

 ついさっきまでお祭り騒ぎだった中央通りは、降って湧いた恐怖によって静寂が訪れた。

 静寂の中にはサイゴとヘラクの2人だけ。

 言葉を遮る騒音はもうないが、傍聴できる者もいない。

 通り抜ける風から人肌の熱は失せている。


 2人だけの対決、超奇跡(ストレンジ)実演(デモンストレーション)だ。

 お互いが身構え、激突のタイミングを図る。


 石畳を最初に叩いたのはヘラク、最効率の前傾姿勢でサイゴの懐に迫って大きく拳を振りかぶる。

 それに対して灼けて皮膚が破れた右手を突き出し、サイゴは宣言する。


「【ノートブック】!」


 ヘラクの眼前に創られたノートは視界を塞ぐ。

 だが、それを障害ともとらずにもう一方の手で弾き、予測通りの軌道で振り抜く。


「がぁああ!!」


 鉄の塊があばら骨を()()()()砕いた。

 間違いのない激痛の感覚、その瞬間は1秒も続かず終わる。

 それどころか、灼けた両手さえ痛みが引いている。


「元気になってくれたかな!」


 修復が済んだ次の瞬間に拳、脚が交互に入り乱れて、ドラムを叩くように一定のリズムで振るわれる。

 右腕を掴んで木の枝のように折り曲げる。

 レンガの壁に頭を打ち付け、リンゴのようにすり潰す。

 それでも()()は残らない。


 蓄積されるのは倒れ込んだ地面に染み付いた血と恐怖の記憶だけ。

 その力は、気絶という安全装置(リミッター)で逃げることさえ許されない。

 奇跡の力。


「気分はどうだい?実演で分かってくれたかな、私の超奇跡(ストレンジ)は」

「はは……!貴重な、体験だな。勉強になったよ、確かにお前の能力は完璧だ。

 そりゃ王国もお前を()()()()()()()()()()()だろうな」

「はぁ、これだけサービスしてまだ言うのかい?」


 ヘラクは呆れ顔で地面に伏したサイゴの襟を掴み、軽々とおもちゃのように持ち上げる。

 サイゴはその腕を両手で必死に握りしめているが、ヘラクにとっては()()()()()()()だった。


「【力を持つものには責任がある】というのは元の世界でもよく聞いただろう?私にその象徴としての椅子を用意すべきだ。

 この世界を【修復】できる権限があるのにそれを実現しないのは怠慢だろう?」

「いいね、そりゃヒーローだな。じゃあ()()()()()()()()()って証明は誰がしてくれるんだ?」

「結果だよ、私がやってきた全部が正当性を証明している」

「おいおい、その結果を判断する人間が誰かって話だぜ?話聞いてたか」


 その一言で繕っていた仏の顔から鬼の形相に入れ替わった。


「私の修復でどれだけの人間が救われたか、彼らは目を逸らしているだけだ!」

「結局周りを納得させなきゃ、評価してもらえないんじゃないか。方法が間違ってるんじゃないか?」

「ならば()()()()()()()()()で納得させてみせる!」

「その身勝手に()()()()()()()()()()って言ってるんだよ!!」


 襟から喉に持ち替えてサイゴの息の根を掴む。

 喉を握りしめる力が徐々に強くなり、脳に巡る酸素が減り、光がどんどん薄くなる。

 遊びとは違う、命のカウントダウンが始まった。


「死ぬ前に聞かせてくれ、サイゴ君。何故、君は私の超奇跡(ストレンジ)を正当に評価しない?」

「お前……『デバッグ』って知ってるか?」

「何……?」


 ああ、こいつは俺と同じだ。


「『デバッグ』だよ!俺は元々ITエンジニアだったからな、死ぬほどやってたんだ。

 お前もやったら最悪の気分になるぜ。制作したプログラムが正常に動くか隅々まで確認するんだ。

 予想外の変数で挙動が止まったりしないか、アクションゲームならキャラクターが壁抜けしないかとか、無数の条件で調べるんだ」

「何の話をしている、質問に答えろ!!」


 お互いの論理をぶつけて、皮を剥いで、最後に残ったのは感情だ。


「【超奇跡(ストレンジ)】の話だよ!!俺たちはな、森の中で1週間のうちに挙動を調べてたんだ。

 【創ったノートは譲渡でなく、貸すだけなら1日は燃えずに保つ】

 【生成するのに充分な空間が必要、範囲は1mくらい】

 【ノートのサイズや種類は調節できる】……」

「不幸自慢のつもりかい?命乞いにしても見苦しい!!」


 いや、皆が同じなんだ。だから論理で取り繕うんだ。

 方向が違うなら、俺たちは意地と矜持の衝突(プライド・バトル)をするしかないんだ!!


「話が長くて悪かった、俺は医者じゃないから探すのに時間がかかった……!」

「それが──」


【俺たちは理不尽が嫌い】だ!!!


「【メモパッド】!!!」

「どうしたと……うっ──!!」


 赤い面をしていた鬼神から一瞬で血の気が引き、お腹を抱えて膝をつき、血の混じったよだれが口から溢れ出す。


 窮屈な首輪は外れた。今までの分を取り戻すように細かく息を吸う。


「何故だ……【修復(なお)】らない!!」


 奇跡であっても出来ないことはある。それは俺の見つけた『エグいバグ』だ。

 とてもキョウヤたちには見せられない。


「『壁抜けバグ』だ。俺のノートは壁があってもスペースがあれば生成できる。

 だから思ったんだ、『人の胃袋とかに生成したらどうなるんだろう』ってな。

 流石に自分で試したことはないが……」

「胃袋……?」

「普通は胃袋ってご飯と食べると膨らむ仕組みだろ?じゃあ何も食べてないときに急に異物が入ったら、どうなると思う……?」

「ま、まさか……!」


 お前の【修復(デバッグ)】じゃ【異物(バグ)は取り除けない】んだ。

 だから、()()()()()()()()()()()()()()()!!


「ぐっ……こんな!!!」


 ヘラクは脂汗を垂らしながら何かを探すように、地面をペタペタと這いつくばる。


「もしかしてナイフをお探しか?赤ずきんみたいに腹を割いたら取り除けるってか。

 落とし物ならさっきラルミラが持っていってしまった!()()()()()()()らしいぜ?」

「クソが……!こんな()()()に!!!」


 お前は、多分最善を尽くしてた。けど、手段が誠実じゃなかった。


「俺の能力は確かに『無からノートを作り出すだけ』、お前みたいに皆を一気に救ったり、キョウヤみたいにかっこよく魔獣を両断したりみたいな、『無双は流石にできない』」


 ノート創りは、他の奇跡と比べて理不尽だ。


「けどな、『積み重ねる』ことはできる。だから俺が仲間に恵まれていることに気がついた。

 ()()()()()()()だ。()()()()()()()()!」


 結果だけじゃ、きっと皆は納得しない。


「ヘラクと出会ったことも『積み重ね』なんだ。きっと意味がある、そう思いたい。

 だから【約束】しようぜ」


 ストックから取り出した【約束ノート】で用意しておいたページを開き、地面に這いつくばるヘラクに対してノートと鉛筆を渡す。


 開いたページには【才伍とヘラクの契約】


 1.セカンドル異界騎士団がキョウヤとサイゴの帰還の手がかり探しに手出ししないこと

 2.ラルミラの退団を【ヘラクの権限】でセカンドル異界騎士団に認可させること

 3.傷ついた人間を【修復】の【寿命のストック】を使って治療すること

 暮落(クレオチ) 才伍(サイゴ)


「一応言っておくと、ノートは俺の意思で自由に出し入れできるんだ。

 お前をこれ以上傷つけたくない。降参(サイン)してもらえると助かる」


 血の気の引いた顔だが、俺を見上げる鬼神の面には憎しみと強い怒りが深く彫られている。


「お前は、どこまで……!」


 ヘラクは紙の文字を汗でにじませながら震える手でサインした。

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