第30話 想定外
騎士の風魔法と操風の超奇跡によって動きを封じ、安全を保証されたキョウヤ。
風の檻に手を伸ばすとその強風によって腕が弾き飛ばされ、外に出ることができない。
武器である斧も風にさらわれる。
騎士団たちの【綿密に用意された戦略】によって、【逆境】の力は抵抗力を失っていた。
「操風の超奇跡は俺一人だとその場に吹いている風しか操作できない。
はっきり言って弱い能力だ。
それでも、こうやって仲間の魔法と協力したら、ちょっとは凄いことができる」
「僕たちを結局どうしたいんですか!」
「お前の【逆境】の超奇跡も俺と似ている部分がある!
確かに強力な力は宿るが、キョウヤひとりだけじゃ欠陥が多い。
だけどヘラクさんや他の仲間と協力したら解消できるものだ!」
「でも僕たちは!」
「ああ、お前が家族の元に帰りたがってるのは知ってる。俺も昔は同じだったからな。
けどよ、仲間と協力して皆を助けるってのも案外悪くないもんだぜ?」
駄目だ。
フィロンさんが悪くて嫌な人なら、僕が怖がって力を出せたかもしれない。
だけどこの人は僕のことを本気で心配している!
理屈で分かっても、心のどこかで僕は少し安心している。
これじゃあ駄目なのに!
「キョウヤ!今助ける」
「ガァルさん!!」
山賊の4人だ!
サイゴさんが密かに準備してくれていた援軍だ!
あの人たちならもしかしたら──
「悪いが部外者は引っ込んでてくれ!!」
「【風球魔法】!!」
新たに2人の騎士から放たれた風は操風によって”檻”ではなく、引き離す”壁”として放出。
武装している集団をたった一発で押しのけ、民家の壁に激突させる。
「がぁっ!駄目だ、立てねぇ……」
「お前らが何者かは知らんが今はじっとしててくれ!大事な話なんだ!」
風とレンガの壁に押しつぶされ、あの狼男ですら武器を振るうどころか立ち上がることすらできない。
「僕以外の……サイゴさんやラーちゃさん、ラルミラさんはどうなるんですか……」
「……あいつらは残念だが、ヘラクさんが危険だと判断してしまった。
俺もサイゴのことは、嫌いじゃなかったよ」
ああ、僕の力のせいで、皆まで巻き込んでしまった。
僕が、追い込んで、殺される。
そんなの、僕が傷つくよりも許せない!!
「フィロンさん、僕の超奇跡は心のピンチも反映されるって言いましたよね……」
「ああ、だけどヘラクさんがいれば──」
「ごめんなさい、言ってなかったですね。僕の【逆境】は【仲間のピンチも判定される】んですよ!」
「まさか!!」
確かに僕の能力は【頼れる仲間がいると弱くなる力】だ。
でもそれは逆に【頼れる仲間が追い詰められることもピンチ】なんじゃ?
森の中でサイゴさんと一緒に【オサガオの魔獣に襲われた】のときの、違和感の正体だ!
僕が怖いのは【期待に応えられないこと】だ!!!
サイゴさんは僕を信用して、『お前ならできる』って背中を押してくれてたのに!!
それを無駄にするなんて自分が許せない!!!
今までの自分から変わらなきゃ、駄目なんだ!
「はぁああああああ!!!!」
武器はない、けどこの腕で道を開ける!サイゴさんとラーちゃさんのために!
「ぐっ、風の檻が破られる……操風組!!」
ガァルたちを向いていた騎士たちは再び僕の方に向き直し、杖を構える。
「ナイスだ、キョウヤ!」
ガァルがぼそっと何かを呟くのが聞こえた。
語りかけられた剣が輝く。
狼男は風に一瞬できた隙間をぬって立ち上がり、虚空を切り裂く。
その太刀筋は光を持ち、風の壁に亀裂を入れながら飛び、檻の扉を開けた。
「ま、魔法を切り裂いた!?」
「こんなナリでも元勇者なんでな!」
奇跡の嵐が止んだ。
「【雷球魔法】!」
杖はキョウヤに折られたままだが、魔法使い担当の手のひらが帯電し始めた。
放たれた雷は風の魔法使いを気絶させる。
「オラァ!」
木こり担当が、腕力でもう一人の風の魔法使いを叩き潰す。
「フィロンさん!今助けます!【土球魔──】」
「おっと、動いたら斬れるぜ?」
物陰に隠れていた3人目の魔法使いの首元に、盗賊担当がナイフを当てた。
「飛ばされたときに1人足りねぇと思ったら隠れてたのか。盗賊を騙そうなんて驕りがすぎるぜ」
「やれ!キョウヤ!!」
「戻れ、斧!」
この力の使い方はバァバさんの家にいたときに覚えている。
僕の手元に【自分を変える力】が戻ってきた!
「うぁああああああ!!!!!!!」
叫んで使うんだ、【逆境】は。
変えたいと願わなきゃ、応えてくれない。
これだけのピンチならフィロンさんを止めるのに、この斧は直撃させる必要はない。
ガァルさんと同じように虚空を斬るだけでいい!
「マジか……何でもアリかよぉぉぉぉ!!!」
ちぎれた風の破片を巻き込んだ衝撃波は、フィロンも制御できない暴風だった。
「ぐぉおぉ……やっぱ【逆境】すげぇな……」
「……僕が【逆境】の力を持ってるのって、やっぱり何か意味があると思うんです」
「その心は?」
「僕、元の世界だとすごくプレッシャーに弱くて、追い詰められると家族とか彼女にも当たり散らして、
高校最後の部活の団体戦も僕が大将だったんですけど、何も出来なくって。
肝心なところで全然駄目だったんです」
「それを、変える力だと……?」
「それもあると思うんですけど、多分いちばんは【僕に期待してくれてる人に応える】ために、お前が頑張れって言ってるんだと思います。
何ていうか、期待してくれてる気持ちを無駄にするなって」
「はは!!キョウヤには叶わねぇな……完敗だ」
緊張がとけたフィロンはそのまま仰向けになり、夜空をじっと見つめていた。
「超奇跡の意味、か……」
【王城から転送直後、トライデア中央通り】
転送されたラーちゃはヘラクと相対する。
しかし、そこは2人だけではない。
国王の生誕前夜祭のまっ最中であり、日が沈んでいるにも関わらず多くの市民でごった返しており、歩くのさえ難しいほどの混雑具合で賑わっていた。
「ウチらがこんな人混みに飛ぶとか、どういうつもり?」
「君たちの中で最も驚異的なのは【逆境】君ではなく、君の爆発魔法だ!
大きな岩も砕くような魔法で即死しては、【修復】どころの話じゃないからね」
「それで皆を巻き込むワケ?しんじらんない!!!」
「そのために日を改めたのは正解だったね!」
確かにウチの得意魔法は【炸裂破片魔法】、爆発する光の魔法だからこんな人混みで唱えたらゼッタイに巻き込んじゃう……
なんで翌日に会議をしたのかなって思ったら、この祭に合わせるためだったんじゃん……
「でもさ、騎士団も民間人巻き込んじゃったら責任問題ってやつでしょ!!」
「それは問題ないんだよ、ラーちゃ君!!」
不敵な笑みで出来たシワの黒い影が、最悪を予感させる。
【転送後リーデッドを倒し、王城から抜け出したサイゴとラルミラ】
ラルミラの【読心】の超奇跡を使って中央通りにいるはずのラーちゃを探す。
サイゴは炎の魔法のダメージが残り、両腕に重度の火傷を負ったまま。
人混みを腕で押しのけるたびに激痛が走るのを我慢しながらどこかにいる彼女を探す。
ヘラクは必ずラーちゃを抹殺しようとする!
そしてその戦略も準備してあるはずだ。
ラーちゃは【俺とキョウヤがこの世界で生きるための手がかり】だ!
彼女がいなくなれば【異界騎士団なしで生きる術】というロジックが崩れて、これまでの話し合いがひっくり返ることをへラクは分かっている!
祭りの人混みに転送したのはどう考えても【ラーちゃの良心】を利用したものだ。
焦りで鼓動が早くなるのを感じながら彼女を助けるため、決意する。
「絶対に俺が倒して止める……!」




