第26話 入団裁判
市場での買い物を終えて宿に戻ると、まだ俺の部屋にはまだラルミラがいた。
「あ、おかえり~」
ここが元の世界だったら住居侵入罪とか迷惑防止条例とかで警察にしょっぴいてもらうところだ。
「ここはお前の部屋じゃない、早く出てけよ……!」
「まあ落ち着いて……」
昨日の夜から夕方までずっとここで待っていたのだろうか。
妙に落ち着いているのが腹立たしい。
「ご飯は?」
「外で食べてきたが、それが?」
「え、私の分は?」
「買うわけねぇだろ!」
お腹がすいたとゴネるラルミラを椅子から引きずり降りし、買ってきたものの整理と【DDノート】の記録を進める。
「そういえば、ヘラクが呼んでたよ。皆に話したいことがあるから皆で城に行くって」
「”話したいこと”……」
ヘラクの話したいことの想像はついている。
昨日酒場で話した異界騎士団に入って欲しいという話だろう。
しかし、わざわざ”トライデアの王城”に行くというのが引っかかる。
ヘラクたちは”セカンドルの異界騎士団”、同盟国とはいえ別の国の城だ。
何か仕掛けがあるのか──
「……今更、力で交渉とかはしないと思うよ。異界人を無闇に傷つけても意味ないし」
「じゃあお前はなんで城に行くのか、知ってるのか?」
「分からない」
どうせ心読めるならヘラクの狙いを教えて欲しいものだが、肝心なところで役に立たない。
しかし始めから武力による力づくで交渉しようというわけでないのも本当だろう。
それができるとしたら昨日のようにわざわざ直接酒場で話をする必要がないからだ。
保険として武力交渉を残している可能性はなくはないが、キョウヤの”逆境”の超奇跡が発動すれば異界騎士団もタダでは済まないと考えるはずだ。
「どのみちこれ以上ここ考えても仕方ないな、行くぞラルミラ」
「ご飯は?」
「……リンゴでいいか?」
「まあ、いいでしょう」
これ以上ゴネられても面倒なので異世界の果物はどんなものかと買っておいたリンゴをラルミラに手渡す。
これは夕飯にはならない、と少し不満そうでは会ったが小さい口でムシャムシャとかぶりついている。
黙って何もしなければコイツはちょっと──
「カワイイって思った?」
前考撤回、こいつは悪魔だ。
「小悪魔的ってこと?」
「……黙れ、早く行くぞ!」
かじりかけのリンゴをもった小悪魔の手を引いて部屋の外へ出た。
****
ヘラクが率いるセカンドル異界騎士団とトライデア王城に到着した俺たちは”トライデアの異界騎士団”の”団長代理”である”ミレイ”という女性に会議室へ案内された。
円形の机に俺、キョウヤ、ラーチャの3人とセカンドル異界騎士団のヘラク、ラルミラ、フィロンが立ち並ぶ。
ミレイはヘラクの後方からじっと様子を見つめるだけで、介入する気はないというような態度を取っている。
会議の第一声はヘラクから──
「君たち、この世界で異界人が1年間生きていける割合がどのくらいか知っているかい?」
「いえ、まったく……」
「まず、この世界に転移してすぐに魔獣に襲われて命を落とすのが3割、
運良く魔獣に出会わなくても野盗に身ぐるみを剥がされるのが1割、
街についても食料を買えず飢えて死ぬのが1割
犯罪に手を染めて獄中で死を迎えるのが1割、
異界人を巡った謀略に巻き込まれて死ぬのが2割、
つまりは2割しか生き残れないと言われている。
当然だが2年、3年と生きていけるものは更に絞られている」
「……なるほど」
俺たちはこのヴァース大陸に来てすぐ魔獣に襲われたり、狼男の野盗に襲われたりして何度も命の危機を迎えている。
生存率2割というのは意外と説得力のある数字だ。
「私たちが超奇跡を持っているというのは誇張でもなんでもなく、ハンディキャップなのさ。
異界人は超奇跡ありきでやっとスタートラインに立てる」
「……そして超奇跡に恵まれないものや使い方を間違えたら呆気なく死ぬ、か」
「その通り、サイゴ君の”ノート創り”ような能力はその代表例だろうね」
ヘラクの話の方向性が見えてきた。
「とはいえそんな扱いの難しい超奇跡でも、異界人同士で補完することができればより大きな事ができる。
魔法を使えなくとも魔獣とも戦えるし、国に尽くせば住む場所や権利だって確保される。
それに我々の持っている現代の知識を活かせばこの世界の文明の発展にも繋がる!
これはヴァース大陸に放り出された我々にとって素晴らしいことじゃないか!!」
ヘラクの話す声がどんどん大きくなり、迫力が増していく。
こいつの行動は出会った最初から一貫していた。
「まどろっこしい話はナシだ!サイゴ君、キョウヤ君、君たち2人には我々”セカンドル異界騎士団”の仲間になって欲しい!!我々とこの世界を変えよう!!!!」
「……」
確かにこの主張自体は真っ当に聞こえる。
しかしこの勧誘は”異世界から元の世界への帰還”という目的とは食い違うものだ。
それ以外にも問題点はある。この勧誘を受けるわけには──
「そうですね……僕たちも騎士団に入れてください」
「え、キョウヤ!!?」
何故だ?キョウヤは元の世界に家族や彼女がいる。
それに半年後には大学受験も控えた未来ある若者のはずだ。
1番に元の世界に帰りたいと思っていたはずだ。
それが何で……
「キョウヤ、どういうことだ……?」
「サイゴさん、ヘラクさん言う通りです。僕たちは異界騎士団に入らなければいつ死んでもおかしくない」
「それでも、お前は元の世界に帰りたいんだろ!?だったら」
「異界騎士団にいながらでも元の世界に帰る手がかりは探せるじゃないですか!
その前に僕たちが死んだら意味がない。まずは自分たちの安全を確保するべきです」
「そういうことか……!」
死んだら意味がないというのは同意だ。
「キョウヤ、”異界騎士団に入りながら元の世界への帰還する手がかりを探す”ってのは難しいんじゃないか?」
「それは……どういうことですか?」
「フィロン!お前、異界人が”元の世界に帰れるかもしれない”なんて話をここに来てから聞いたことないって言ってたよな?」
「……ああ、少なくとも俺がこの世界に来てから5年間でちょっとしたヒントみたいなものすら見つかってない」
「じゃあ異界騎士団が異界人が戻る方法を探してるなんて噂とかは?」
「……それも知らないな。それっぽい素振りをしているヤツも見たことはない」
そう、彼らが所属している異界騎士団は”元の世界への帰還”に繋がる情報なんて持っていないし、探す気すら無い。
「それじゃあ……」
「ああ、異界騎士団は誰も帰還を目的にしてないんだ。
あくまで異界人による国の発展が目的、そうだよなヘラク」
「……それは間違いないよ、これまで帰還できた異界人を確認したことはない」
「で、でも異界騎士団に所属しながら探せば見つかるかも……」
「それはあまり期待できないぞ、キョウヤ。
かれこれ異界人が来てから80年経っているらしいがそれでも帰還に関する手がかりがゼロなんだ。
しかも異界騎士団は”個々の特性にあった役割を与えられる”ってことだったよな」
「そうだね、私の修復の力であれば民の治療、風を操るフィロンは連絡係や物流、読心のラルミラ君は──順当に行けば尋問だろうが、今のところあまり仕事を出来ていないね。現状マスコットだ」
「……え」
ラルミラはともかく異界騎士団は超奇跡にあった仕事を与えられる。
その流れを踏まえるとキョウヤの超奇跡は──
「ピンチになるほど強くなる、逆境の力を持つキョウヤが騎士団に入ったら仕事は戦闘になるんじゃないか?
特に今は”魔王討伐”なんて大規模な作戦が起きてるらしいし、それに直接参加しないまでも魔獣討伐はやらされるだろう。
そんなのに巻き込まれれば結局キョウヤの命が危ないし、手がかりの捜索なんてやらせてもらえないかもしれない。
そうなれば受験前の半年以内に帰還など到底難しい」
「それは、そうですが……」
異界騎士団という見るからに大規模そうな組織の一員となれば勝手な行動は制限される。
俺たちの本来の目的から大きく外れてしまうということをキョウヤには理解して欲しいが……
「それでもいいんじゃないですか?半年以内に帰還しなくても。
だってこっちの世界で半年経ったとしても元の世界と同じ時間が流れているとは──」
「それは違うな。ラルミラ!お前がこの世界に来たのが西暦何年か覚えてるか?」
「5年前、2020年……」
「俺たちが来た時は2025年だった。しっかり5年分の月日が流れている。
いきなり時間の流れ方が変わるというのは考えづらいだろう」
「……それでも、いいんじゃないですか?」
「え?」
どういうことだ?一番すぐに帰りたいと思っていたキョウヤがここまで食い下がるなんて……
全くキョウヤの考えが読めない。
「だって、別に受験くらいどうでも良くないですか?
どうせ何ヶ月もこの世界にいたら高校の出席単位も足りなくなって卒業できなくなるし、
浪人してまた受験すればいい」
「あ……」
致命的な見落としだった。
言われてみれば何ヶ月もこの世界にいて高校を卒業できなければ、どれだけ勉強を頑張って意味がない。
”キョウヤが異世界から帰る期限が半年”というのは俺の勝手な思い込みだ。
実際にはもっと期限は短かったのか。
「僕たちだって帰還の手がかりなんて無いじゃないですか。
これから探したら、それこそ何年もかかるかもしれない。
だったら確実に生き残るために異界騎士団に入るべきじゃないですか?」
「それは……」
薄々感じていたことだ。どうやってもゼロからのスタートで見立てなど無い。
そんな状態で俺たちが必死に探してもすぐに見つかる確証など無い。
「そ、それでもキョウヤが騎士団に入ったら戦闘に巻き込まれるだろ?だから──」
「それがなんですか?生活が保証されるならその分戦うくらい当たり前じゃないですか?
サイゴさんは僕の身を案じてるみたいですけど、心配しすぎじゃないんですか?
あなたは僕の保護者にでもなったつもりですか?僕の問題ですからそんなのいらないですよ」
「あ、ああ……」
キョウヤのまくし立てるような怒涛の反撃だ。
そういえば前にオサガオに襲われたあとも普段はおとなしいキョウヤが猛反撃をしたことがあった。
意外とキョウヤは爆発するタイプなのをすっかり忘れていたな……
俺は”キョウヤの目的”のために入るべきではないというスタンスで話を進めるつもりだったが、その目的自体がブレてしまうと俺が反論する方法が……
「ちょっと待って……!」
声を張り上げたのは異界騎士団であるラルミラだった。
「サイゴたちは異界騎士団に入るべきではない……」
「……どういうことだ?」
騎士団側である彼女が、何故か割って入って提案するのはへラクとは真逆の提案。
「サイゴの推論通り、異界騎士団の全員が元の世界に帰りたいと思っていないのは事実。
そして国も異界騎士団には元の世界に帰ってほしくないと思っている。
貴重な”資源”だから……」
「ラルミラ君?一体何を」
「これは皆の心を読んだ、紛れもない本音だよ。
入団したが最後、あなたたちは死ぬまで使い潰される……」
明らかにヘラクも想定外という顔だ。
「うーん、それはウチもそう思うかな。
冒険者やってて”異界人が元の世界に帰る方法”なんて話聞いたこと無いっしょ!
てか”キョウちとクレぴーが元の世界に帰る方法探す”って言うからフォローしたのはあるし☆」
「ヴァース大陸生まれのラーちゃも言う通うならその通りなんだろうな……」
異界騎士団に入ればこの世界に永住する可能性が高いという話は分かるが、結局のところラルミラは何が言いたいんだ?
「じゃあ僕たちにどうしろっていうんですか?手がかりゼロの状態で探しても──」
「私を仲間にすればいい……」
「「は?」」
会議の場がその一言で一瞬で静まり返る。
「私を仲間にしたら”読心”の力で元の世界に帰る手がかりをずっと見つけやすくなる」
「いや、お前異界騎士団だろ?お前の仲間になるってことは結局俺らが異界騎士団に入るってことだろ……」
「私が異界騎士団を抜ける」
「「……え?」」
「ラルミラ君!??」
仲間であるはずヘラクやフィロンの額にも冷や汗が流れている。
「ラルミラ、俺らに断りなくいきなり騎士団を抜けるってどういうことだ?」
「単純な話、私も元の世界に帰りたいからその手助けをするだけ」
ラルミラは淡々とその意志だけを伝える。
完全に仲間割れのようにも見える。
「理由を聞かせてもらえるかな?」
「私はこの世界に来てから生きるために仕方なく異界騎士団に入った。
だけど私の”読心”の超奇跡で心がバレるの警戒して誰も私を外には出してくれなかった。
ずっと私は騎士団の部屋に閉じ込められていた。そんな生活にもう飽きたの」
「それで解放されるために騎士団を抜けたいと?」
「うん、私は籠の中の鳥じゃない。一応元の世界にも帰りたい」
「ふぅむ、緊急事態だったから仕方なく外に出したが失敗だったかな……?」
ラルミラの事情はよく分からないがわざわざ俺たちについてくるなんて……正直やめて欲しい
「いや、俺はラルミラが欲しいなんて言ってねぇぞ?」
「ああ、我々も騎士団を抜けるのも許可した覚えはないよ」
「そもそも僕が”元の世界に帰る手がかり”を諦めれて騎士団に入れば全部解決じゃないですか……」
「ちょっと!そしたらウチが決意してバァバ置いてきたのなんだったワケ!?」
「私の要求を飲まなかったらあなたたちの死ぬほど恥ずかしい秘密をバラす……」
混迷を極めた議論はその一言でパッと静まり、全員が黙り込んだ。
まさかの”読心”を使った脅しだ。
本当にバレているかはともかく、もし本当に秘密をバラされては叶わない。
全員がそう思った。
「……ひ、ひとまず私は明日までこのトライデアにいるつもりだ。
一旦明日の夜に仕切り直しにしないか?そこまでに各自考えをまとめてきてくれ」
ヘラクの提案に全員が賛同し、その場は解散となった。




