第21話 奇策失敗
遂に現れた超巨大魔獣モリントワーム。
四方に向かってそれぞれ走り出す6人のうち俺とラルミラを捕食対象としてロックオン、大地に鞭打つように身体を叩きつけながら這い寄って向かってくる。
当然20m超えのバケモノの動きに巻き込まれたなら即死は免れない。
(多分ヘラクが持ってる『修復』の超奇跡で死んだやつは蘇生できないと考えた方がいい!!ここで死んだらマジの終わりだ!!)
「お、置いてかないで~」
俺の後方でへとへとになりながらチンタラ走っているラルミラは一度転んだようで、もう立っているのも辛そうな顔で青ざめている。
(お前はフィロンと一緒に”風”で移動する作戦だっただろ!!!)
「急に来たから、走る向きまちがえちゃった……」
ラルミラは心を読む能力はあれど戦闘要員にはならないということは事前に知っていたが──
(ここ一番でドンくさいのかよ……!)
「たすけてくれたら、お礼何でもするよ……!」
「助けたら俺も死にそうなんだが!!!」
そもそもこの作戦における”読心”の能力は魔獣に通用しないため大して重要ではない。
どうせこのまま見捨ててしまっても魔獣討伐に影響は大して出ないだろう。
それどころか一緒に巻き込まれて俺も死んでしまうリスクが──
人は助けろ。
頭の中に急に響く。
何で?俺は元の世界でそんなキャラじゃなかっただろう。
何故今こんなことを。
この異世界に来てからのことを振り返る。
俺は人の助けを受けてきた。
キョウヤは異世界に転移したとき、名前も知らない俺を命がけで山賊から守ってくれた。
ラーちゃとバァバは見ず知らずの異界人に住む場所と食べ物を分けてくれて、戦う術まで授けてくれた。
考えてみたら俺も同じように人を助けたいと思うのは当たり前のことかもしれない。
それに、ここで見捨ててしまったらあまりにも格好が悪くて、耐えられないくらい自分が嫌いになる予感がした。
人と関わろうともせず、ただ無為に過ごしていた元の世界では感じたことのない、自分の意識なのに違和感がある少し不思議な感覚だ。
(確かに俺だけ助けないってのは不公平だよな!!!)
自分に言い聞かせて震える手足を抑え、後方にいるラルミラの方を向いて駆け出す。
既にモリントワームは木々に阻まれながらも踏み潰すまであと数メートルの距離まで詰めている。時間はない。
「【魔導書】!」
現出した魔導ノートのページを切り離し、それにありったけの魔力を込める。
その瞬間、魔法陣から黒い煙が吹き出して俺とラルミラの周りを包み込む。
【暗幕魔法】
暮落 才伍が使える数少ない魔法の一つ。
闇を纏った特殊な煙幕を張り、魔獣の視界を完全に塞ぐ。
しかし、モリントワームはそれをものともせずに煙幕ごと踏み潰してしまう。
「ぐぁぁぁっ!!」
ラルミラの手を握り、抱きかかえながら近くの茂みに飛び込むことで間一髪回避。
どうやら魔獣は完全に俺たちを見失ったらしく、辺りをクルクルとしながら索敵しているようだった。
一緒に吹き飛ばされたラルミラの瞳を覗いて声を掛ける。
「おい、生きてるか……!!」
「死んでます……」
「……元気そうだな! 行くぞ」
あまりの衝撃で青ざめていたラルミラを背中に乗せ、作戦地点への移動を魔獣に見つからないようこっそり開始した。
****
標的を見失ったモリントワームは周りを見渡すようにその場をグルグル回り始めている。
その数メートル上空、長髪の男が太陽を背にしながら空中に立つ。
「やっぱり今日は風が弱いな……」
そう呟くとフィロンは手のひらに集めた風をボール状に変化させ、魔獣に向けて勢いよく発射した。
命中させるが体表から緑色の体液が少し垂れ落ちる程度で全く効いている気配がない。
「こっちだ、ウスノロ!」
バケモノに向かって大声で叫ぶ。
その場で次なる獲物を探していたモリントワームは、それまで追いかけ回していたへなちょこの人間から攻撃をけしかけたフィロンにターゲットを変更。
ズズズと身体を曲げて溜めを作り、バネのような動きで空に飛んでいる獲物に向かって飛びかかる。
「おっと危ねぇ! 」
フィロンはその飛びかかりをギリギリの距離で躱し、ワームの体表にできたうねりを波のように見立てて“風”のサーフボードで駆け下りる。
通過した波にはかまいたちで無数の傷が生まれ、ワームからさらなる血飛沫が撒き散った。
「頼んだぜ、ヘラクさん!」
「OK、任された! ふンンンンン!!!!!」
ヘラクはあらかじめ風の力で根本から叩き折っていた、自分の肩幅よりも太い大木を両腕で持ち上げる。
力み、怒張した筋肉が騎士団の制服を突き破りそうな勢いだ。
「へァァァァァァアァアアン!」
高重量のペンチプレスを降ろす時のような唸り声を上げ、痛みで動きが鈍ったワームに大木を叩きつけた。
大木は真っ二つに割れ、ワームは更なる痛みでもがくようにジタバタと砂煙を巻き上げながら暴れ回る。
それに巻き込まれないようヘラクとフィロンは空へ駆け出して避難する。
「やはり私たちの攻撃で致命傷は難しそうだね!」
彼らの攻撃は確実にダメージを与えているものの、20m越えのバケモノにとっては文字通りかすり傷にしかならない。
「悔しいが、アイツの作戦通り崖まで行きますか!へラクさん」
ワームのヘイトを集めたヘラクたちはワームを誘導しながら風による攻撃を続け、作戦行動を開始した。
****
必死に森を抜け、俺たち4人は目標地点の崖上まで辿り着いた。
実際のところは流れる川の上を吊り橋で繋げた谷であり、谷底までの高さは15mほどあった。
「それじゃあ 俺たちを崖下に下ろしてくれ!」
「おけまる! ラーちゃさん頑張っちゃうよー☆」
魔法使いのラーちゃは爆発の魔法がメインに使用しながらも、水と風の魔法も使えるかなりの実力者だ。
【水球魔法】
ラーちゃが空気中に背丈ほどの水球を3つ生成し、それぞれが才伍、キョウヤ、ラルミラの3人を飲み込んだ。
「こポポポポ……」
息を止めて姿勢を保つオレとキョウヤに対して、ラルミラは水球の中で腕を振り回して溺れそうになっている。
どこまでドンくさいんだ。
俺は水球から顔を出す。
「ラルミラと俺の水を一緒に出来るか?」
「アイアイサー!」
元気よく返事をしたラーちゃは手に持った杖を細かく振り、2つの水球がくっついた。
(俺に捕まってでいいから1回顔出して息継ぎ。大丈夫だ。)
恐らく俺のメッセージを読み取ったラルミラは俺の腕をガッシリと掴み、勢いよく水から顔を出して酸素を取り込む。
(呼吸が整ったらもう一度水の中に入ってくれ。崖下に降りるまで俺にしがみついてていい。)
コクリと頷いたラルミラは目をつぶりながら再び水球の中に入り、俺の背中にしがみつく。
その腕の小刻みな振動から彼女の不安が伝わってくる。
(命懸けの戦いってなったらそりゃ誰だって怖いよな。俺だって怖いし)
かくいう俺たちも異世界に来てから1週間。
命懸けの戦いに慣れきっているとは言えないが、少しでも安心できるように少し嘘をついても勇気づける。
(まあ、これ以上足引っ張られたらこの役立たずを見捨てるのも視野か……)
その瞬間掴んでいた腕が俺の首を強く締め付け始めた。
(しまった、余計なとこまで読み取られたか! 本当に面倒なヤツだ……!)
明確なラルミラの抗議の意思を感じる……!
水の中で味方に気道が狭められて呼吸困難はシャレにならん!!
「ヤバい!もう虫チャン来たから下ろしマース!」
ラーちゃの言う通り200mほどの距離に巨大魔獣が木々をなぎ倒しながらこちらの方に向かってきているのが見えた。
ラーちゃは急いで魔法を操作し、やや雑めに水球を谷底の岸に向かってたたき落とす。
着地と同時に水球は破裂して衝撃を吸収し、俺たちは放り出された。
「はぁ……はぁ……本当にコイツは……!」
「私がいなかったら、この作戦立てられなかったよ……!」
どうやら役立たずの部分が余程気に入らなかったらしい。
「サイゴさん! そんなことより準備お願いします!!!」
当然だがこの作戦の命運がかかっているキョウヤの顔には余裕の無さが出ている。
崖下に落とされた3人はそれぞれ距離をとり、キョウヤの戦闘に巻き込まれない位置に移動する。
「よし、【クローズ】!」
崖下の準備が完了した合図として、俺の能力で創り出したノートの切れ端を回収する。
切れ端はヘラク、フィロン、ラーちゃが所持しており、ノート本体ではなく切れ端であれば他人への譲渡は燃えることなく行える。
能力を持っている自分さえ線引がよくわからない能力だ。
この切れ端の回収によって崖の上にいる3人は配置に完了していることを知らされていることだろう。
「そろそろ来るぞ!」
崖上からくる地鳴りが徐々に大きくなり、さらなる接近に心臓の鼓動が大きくなる。
ここまでは何とか作戦通りだが、結局この作戦がキョウヤ次第であることに変わりはない。
「来た……!」
崖の上に飛行する人影が見えた。フィロンとラーちゃだ。
崖際に誘導されたモリントワームは宙に浮く獲物に向かって喰らいつこうとするも華麗に舞う彼らにはわずかに届かない。
「炸裂破片魔法!!」
身を乗り出したワームに対してラーちゃは全力の魔法を唱えた。
普通の相手であれば直撃して木っ端微塵に吹き飛ぶが、この魔獣は体表から魔法を吸収する。
そのため彼女はワーム本体ではなくその付近の崖に向かって打ち込んで炸裂させた。
崖から身体をはみ出していたワームは足場を失い、崩れた岩とともに崖下に転落していく。
「もいっちょ、炸裂破片魔法!!」
再度放たれた魔法は転がり落ちる岩を細かい砂利のようなサイズまで砕いた。
落ちている巨大な落下物はワームのみ。
そしてその落下地点に待ち構えているのはキョウヤだ。
当然このまま巨大なワームが落ちてくれば下敷きになって死んでしまう。
しかし、これは逆境の力を持つ男にとっては最大のチャンスでもあった。
斧を強く握りしめ、落下してくる一瞬に備える。
落ちる影が徐々に大きく、視界を塞ぎ、飲み込もうとしている。
迫る死の恐怖、それが大きくなるに連れて湧き上がる力も強くなる。
「うぉおおおおおおおおああああっ!!!!!!!」
それが最大になった瞬間、キョウヤは力に身を任せて斧を振り抜いた。
スガン、と打ち上げ花火が間近で弾けたような爆音。
その衝撃は離れていた俺たちにさえ届き、体ごと吹き飛ばされそうな勢いだ。
というか実際にラルミラは吹き飛んでいった。
モリントワームはその一撃によって、それこそ花火のように浮き上がる。
身体は真っ二つに切り裂けて大量の体液をそこらに撒き散らし、キョウヤから少し離れた地面に叩きつけられた。
「やった……」
命懸けの作戦がうまく行ったことに安堵し、キョウヤは力が抜けて腰を降ろした。
2つにちぎれた魔獣の身体は失血しながらもうねうねとした動きを続けてる。
「いや、なんだあれは……?」
ヤツの身体巻き上げる土ぼこりに紛れて切断面がぶくぶくと沸騰して煙が吹き出している。
頭部がある側の肉体が徐々に動きの激しさを取り戻していき、みるみる傷口が塞がっていく。
間違いない。異常な速度で再生している。
「キョウヤ!!今すぐそこから離れろ!!」
元の世界でも『身体が半分になったミミズは半分に切断されても再生して生きていける』なんて話はあったが、この速度は明らかに想像の範疇を超えていた。
体長が半分になったモリントワームはすでに元の勢いを取り戻しつつある。
そして矛先はたった今真っ二つにしてくれたキョウヤに対して迷いなく向かっている。
「そんな……」
全力の一撃を放ったキョウヤの腕はその反動でズタボロで、酷使した筋肉の裂け目から血が流れ出している。
両手の指はグチャグチャに曲がっている上に黒ずんでいて武器なんて持てないのはどう見ても明らかだ。
作戦は失敗した。キョウヤが死ぬ。
人は助けろ。
再び意識の中でこだまする。さっきよりも脳に強く焼き付くように。
「どうしたらいいんだよ……」
俺の超奇跡はノートを創るだけで、ちょっとした魔法が使えるだけ。
しかもその魔法は吸収されてしまう。
今の俺にできることはない。
そのはずなのにその意識、というよりかは心の中の声がどんどん大きく響いていく。
作戦が失敗したことによる強い罪悪感だろうか。それは俺が立ち止まることを許してはくれない。
「クソっ!何もできないくせに……」
俺はそのヒーローめいた強迫観念に背中を押され、魔獣に向けて走り出した。
「ぐぁあぁぁぁあぁっ!!!!」
ワームはロードローラーのように地面をならしながらキョウヤを轢き潰した──
そのように見えたはずだったがキョウヤはボロボロの両腕を使ってモリントワームの巨体をせき止めていた。
死の間際ギリギリで逆境の能力は極限の力を発揮しているが、最悪の状況、限界の肉体であることに変わりはない。
キョウヤの悲痛な叫びが聞こえる。
いくら超奇跡があったとしても、圧死。
俺の作戦のせいで犠牲が出る。
その恐怖から逃げるように魔獣へ向かっていく。
無謀というのは分かっているがそれでも足は止められない。
「ハッハッハッ!!!」
絶望的な状況で崖上からもう一人、男の高らかな笑い声が聞こえる。
ドンという音とともに空から現れたのは筋肉ダルマ、もとい異界騎士団のヘラクだ。
つま先から膝、腰の順で側面に倒れ込むように接地してぐるんと身体を立て直す。
崖上から15mはありそうな高さだったが、パラシュートもなしでそのまま落下している。
そんな高さから飛び降りれば無事では済まないはずだが──
「ふんっ!」
ヘラクは修復の力で関節の無いところで曲がっていた足を元通りに直した。
普通の人間が落下すれば即死してもおかしくないはずだが彼は無傷に戻っていた。
苦痛で顔を歪めることもしていない。
屈託のない笑顔を浮かべたまま迷うことなくモリントワームのもとに向かい、キョウヤの隣に並び立って同じように巨体を剛腕で押さえつける。
「あ、あなたは……」
「流石に大変そうだね!手伝ってあげようか!」
笑顔で話すやヘラクは腰にぶら下げていたナイフを取り出す。
そしてその刃を、キョウヤの腹部に突き刺した。
「君の力を見せてくれ!!」
「な、何やってんだ……!!!」
ナイフの突き刺さった場所からは流れ落ちるのはキョウヤの血。
刺す相手を間違っている。
眼の前には魔獣がいて必死に抑えているというのに、何故今そんなことを。
そんなことをしたら魔獣に潰されて──
ああ、ヤツの考えが分かった。
キョウヤを更に追い詰めたのか。逆境を最大限に高めるため、より強い力を引き出すために。
「そういうことかよ、この野郎!!!!」
「うわぁあぁあぁぁぁァァ!!!!」
キョウヤのさらなる悲鳴が辺りを包む。
涙を流し、くしゃくしゃのシワで恐怖を表している。
しかし、苦しむ姿とは裏腹に魔獣へめり込む腕がどんどん深くなっていく。
それどころか巨体をついに押し返し始めた。
「ミスター・サカイ!君に合わせるよ。限界を超えろ!」
「わぁあぁあぁぁぁあ!!なんなんだよぉぉぉぉぉぉ!!」
ヘラクとキョウヤは同時に拳を突き出した。
まるで城壁に大砲を打ち込んだような衝撃。
生き物同士がぶつかったとは思えない轟音が響き、モリントワームは生身の人間の渾身の一撃で弾き飛ばされる。
ワームは崖に激突、衝撃で崩れ落ちた岩が全身を埋め尽くした。
この世のものとは思えない壮絶な光景。
吹き飛ばしたキョウヤ自身もパンチの反動で後方に吹き飛ばされ、地に伏してる。
「あ、あぁ、ぐぅああ……」
「ナイスファイト!君の力は想像以上だ!!」
パチパチと手を叩いてキョウヤに近づいていくヘラク。
あれだけのことが起こったのに、不自然なくらい冷静だ。
「おい、早くキョウヤを治療しろ!!」
ナイフを刺された腹部から流血が止まっていない。
こいつはハナから逆境の能力を使い倒すつもりだったんだ。
修復の能力でいくらでも治療できるから。
そうだとしてもキョウヤがこれ以上苦しむ姿は見ていられない。
「分かってるさ、ちゃんとサービスしてあげるよ。それより──」
ヘラクは後方にいる瓦礫を親指で指さしてにこやかに。
「アレ、何とかできるかい?」
指さされている先には、全身が押しつぶされて身動きが取れないモリントワームがこちらに顔を向けているが様子がおかしい。
口の中が緑色に輝き出し、エネルギーのようなものが集まっている。
明らかに攻撃の予兆。
「魔力か……!?」
「充電が残ってたみたいだ!レールガンが来るぞ!」
ヘラクは怪我人を脇に抱えて走り出す。
狙いは明らかに俺たちだ。
エネルギーの収束が止まり、閃光が走った。
「うぉぉああああ!!!!」
わずかに狙いが手前に逸れて当たったビームが地面をえぐり飛ばす。
川の水が一瞬で沸騰、爆発したのを目の当たりにしてその威力が最悪であることを悟った。
魔獣が身動きできないのをいいことに油断していた。
再び口部に魔力の充填が始まる。
「他人の修復には時間が必要でね!彼を背負って走れはするが避け続けるのは難しい!!」
「本当になんなんだよぉぉぉ……!!!」
ここは谷底で、ラーちゃの魔法で悠長に崖を登っていてはアレの的になる。
頼みのキョウヤも瀕死。
弾切れを待つか?
いや、そんなところできそうな物陰はないし、あったとしても岩ごとビームで丸焦げにされるだけだ。
あるとしたらキョウヤをオトリにして──
人は助けろ。
「分かってるよ!!!!」
そう、俺は逃げられない。
妙な責任感のせいで。
キョウヤに頼りきりで、散々コキ使っておいて今更逃げるなんて許されない。
それを許したら、今後俺は俺を許せなくなる。
だけどヤツを何とかできる方法なんて──
「魔力が集まっている……?」
だとしたら、その可能性に賭けるしか無い。
2度目のチャージを開始したモリントワームに向かって駆け出す。
今度はただの無謀じゃない。
根拠のある賭けだ。負けたらどうせ死ぬだけ。
ようはヤケクソだ。
「【魔導書】!」
俺のストックから取り出した魔法の本。
これに魔力を流せば誰でも魔法を使えるが、さっきラルミラを助ける煙幕を出したときに俺自身の魔力は使い切っていてまだ回復していない。
つまり魔法を使うのは俺じゃない。
「喰らいあがれ!!!」
大きくなっていくヤツの光に向けて、魔導書を放った。
魔導書はヤツの口に向かって飛んでいく。
しかし、バスケットのゴールほどのある高さめがけて投げた紙の本は風の抵抗をモロに受けて不規則な軌道を描きながら目標から大きく離れて飛んでいく。
そもそもだが飛距離自体が足りていなかった。
そういえば、体力測定のソフトボール投げは15mくらいだった気がする。
やっぱり無謀な賭けだったかもしれない。
「これでいいのか、ノート君!!」
上空から声ととも強い風が吹く。
谷の割れ目とは逆向きで自然なものではない。
まさに奇跡によって起こった風。
「フィロン!!」
超奇跡の風に乗ったノートは魔力の塊に吸い込まれていく。
今度こそ狙い通り。
俺の能力で作ったノートは魔獣に渡すのであれば燃えることはない。
光からノートに魔力が流れ込み、虹色に輝きだす。
ヤツは体表から魔法を吸収するらしいが、内部からの魔法であれば耐えられるだろうか。
俺が賭けたのはその可能性だ。
「吹っ飛んでくれよ、イモムシ!」
祈りが届いたのか、魔力を吸収しきった魔導書が暴発を引き起こす。
火、水、風、雷、大地、光、闇。
ごちゃまぜになった魔法はどんな結果を引き起こすかは俺にも予想できなかったが、どうやら期待以上らしい。
虹色の爆発はモリントワームを肉片に変え、散り散り吹き飛ばしていく。
近くにいた俺自身も巻き込んで。
「うぉおおおおああああっっっ!!!!!!!!!!!」
視界が虹色に包まれた。




