第18話 特訓の成果
ラーちゃ家滞在7日目、キョウヤは魔動カカシ3体を前に斧を構える。
「つい前まで1体も倒せなかったのに3体も同時にやれるのか?」
「うーん、ウチも昨日まで街にいたからて見てない!」
カカシたちは同時に回転を始め、3方向に分散して飛行。
キリモミ飛行による突撃を開始する──
「よっ!!」
手に構えていた斧を大ぶりで投げ捨て、回転するうちの正面にいた1体に見事命中する。
当たり前だが武器を捨てたキョウヤは丸腰になり、その隙をついて残りの2体が左右から接近する。
逃げ場のない状況で追い詰められるも、キョウヤは逆に突撃している機体に向けて走り出した。
(マジか、死ぬぞ!?)
実際には訓練用なので死にはしないが、ぶつかればタダでは済まない。
しかしキョウヤは恐れることなく駆け抜け、左から来たカカシと激突──
「ほっ!」
するかに思われたが上体を反らし、回転する腕を紙一重の回避。
それだけではなく真上を通ったカカシの足を両手でガッシリと掴んだ。
そして掴んだカカシをそのまま振り回し──
「おりゃぁ!!!」
もう一方から飛行していたカカシにヒット、その衝撃で一気に2体が行動不能に。
しかし、最初に斧を命中させたカカシがキリモミ飛行で突撃を再開、死角から襲いかかっていた!
「戻れ、ガントラ!」
投げていたはずの斧がキョウヤの手に向かって戻り始めた。
斧とキョウヤの間にいたカカシは戻ってくる斧にぶつかり、体勢を崩す。
斧を再び手に取った瞬間、隙を見せたカカシの重心を捕らえて振り下ろす。
「よいしょ!!」
叩きつけられたカカシは地面にめり込み、機能を停止した。
「すげぇ、マジで3体同時にやったのかよ……」
「キョウちやるね~!」
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「僕の『逆境』の能力はどうやら段階的というよりか、グラデーションみたいに変化するんです。」
「えっと、どういう意味?」
「分かりやすく言うと『相手が攻撃して、自分にぶつかりそうな瞬間』は『逆境』と判定されて強くなるんです。」
「つまり、さっきの戦闘で『同時に3体のカカシを相手にする』とか『武器を捨てて丸腰になる』とか『突進攻撃にわざわざ走って向かって行く』ってのが全部『逆境』って判定されてたってのか?」
「この1週間色々試しましたが、そうみたいです。だから自分もその『逆境』に身を任せて身体を動かしてた感じです。」
瞬間的に自分の身体能力が変わるとなれば当然肉体を動かす感覚というのも変化するはずだが、わずか1週間でモノにしてしまうのは圧倒的な運動センスといえる。
「話を聞くほど反則じみたチート能力だ、それって自分で『ピンチ』を演出すればいくらでも強くなれるじゃねーか。」
「実際に自分が『ピンチ』と思える状況じゃないとダメみたいですけどね。」
更にもう1つ気になっていたことにも話題を振る。
「あとお前の投げて戻って来るガントラって斧、あれは魔法か?」
「魔法というよりかは『魔動武器』って言うらしいです。なんとバァバさん特製のモノで、名前を呼ぶと手元に戻るみたいです。」
「元はウチのバカ兄貴の武器だけど、まあキョウちが使ってくれるならOK!」
「あの山賊と兄妹だったのか……燃やした挙げ句武器も奪ってスマン、ラーちゃ!」
「事情が事情だしいいよー!てか兄貴どうだった?めちゃウザかったでしょ!!!昔からそうなんだよねー人の事情とか関係なく自分の都合押し付けてくるってか──」
異世界に転移して最初に会った木こりのデルシンキはノートの能力で丸焦げにして縄で拘束、ありったけの物資を奪った仲だったがラーちゃは快く許してくれた。
ラーちゃは今年で20歳らしいが、それにしてはあまりにも器がデカすぎる。
「まあそんなことより俺の方だが、ひとまず【魔導書】のうち、3つまで使えるようになった!」
魔導書の内容をとにかく書き写しては魔力を流し込んで魔法を発動、魔力切れになれば魔力回復の丸薬を使うことで魔法のトレーニングを行っていた。
その結果何とか魔力量が増え、8種類のうち魔法を3つ使えるようになっていたのだ。
「クレぴーの魔法、今のところしょぼいのばっかだけどねー。」
「それでも戦えなくはないし、魔導書は俺が使うだけじゃない。」
「他人に使わせるってこと?でも人に渡すとノート燃えちゃうんでしょー?」
「抜け道があるんだなーこれが!」
サイゴは自分の隠された秘密を話した──
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1週間をかけて自身の能力の研究をある程度終えた2人は元の世界への帰還を目指すため、さんざんお世話になったラーちゃの家を出ることになった。
「──ということで、ラーちゃも俺たちの旅についてきて欲しい!!!」
「無理です!ごめんなさい!」
振られた。
「異界には興味あるけどさー、バァバは置いていけない。ごめんね。」
「何言ってるんだい!!私のことを一丁前に気にしてんじゃないよ!!」
「え?でも……」
「もう大人になったんだから私があんたを世話する義理なんて無いんだよ!邪魔だから出ていきな!!」
バァバとは事前に俺と話をつけていて、この家からラーちゃも一緒に連れて行く算段になっている。
バァバの憎まれ口は愛娘を想ってのことだ。
「そしたらバァバが一人になっちゃうじゃん!」
「舐めるんじゃないよ!私は国で最も偉大な国家魔導士だった女だよ!!一人暮らしくらいどうってこと無いんだよ!!」
「バァバ……」
「それにね、才能あるアンタにはこの広い世界で魔導を極め、世界を発展させる義務があるんだよ!何のために魔導を教えたと思ってるんだい!?」
「だってぇ……」
ラーちゃは、込み上げてくる感情を抑えきれず、大粒の涙が頬を伝う。
「アンタは史上最高の魔導士になる女だ!自分の夢くらい、叶えてみせな!!!」
「う、うわぁあぁあぁぁぁ!!」
「「バァバさん~~~!!!!」」
ラーちゃの涙に釣られて全員の泣き喚く声が森じゅうに広がる。
3人になったパーティーで、ついにトライデアへ向けての旅が始まった!!




