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異世界交渉ノート ~無からノートを作り出すだけの男、流石に無双できない~  作者: ろうそく魔神
『変な力』とエンカウンター

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第1話 転移するなら、出現位置は選ばせて

 異世界に転移する直前、自分が何をしていたか思い出してみた。


 確か、いつも通り仕事をしていた気がする。

 4人いた同期が「今月末で全員転職する」ことをいきなり伝えられて引き継ぎさせられたりしていて、めちゃくちゃイライラしていたことを覚えている。


 更に思い返せば、先週の土曜にマッチングアプリで出会った女性からは初対面なのに「サイゴさんってファッションに興味無さそうですよねー」とか平気で言ってきてイラついて……いや、それは今関係ないな。


 つまりは転移した時、自分はトラックに轢かれたとか殺人鬼に刺殺されたとかそんな悲劇的なことはなかった。

 ここにあるのも、よく知る自分の肉体といつもの私服で間違いなさそうだ。


 そして、何故自分が異世界にいることを判断したかというと──


「お前ら異界人だろ?異界から持ってきた金目のもんと知識全部出して俺らの下僕になるか、ここで死ぬか選べ」


 狼男の山賊にぶっ殺される直前だからだ。


 いきなり見覚えのない森の中に飛んだかと思えば、2mくらいあるイノシシのような動物に囲まれていた。


 縄張りを荒らされたと思ったのか、そのイノシシ風の動物は自分に向かって一直線に走り出してきて、あっという間に崖際に追い詰められた。

 その瞬間茂みから現れた狼男の持つ両刃の剣がそれを引き裂く。


 理解できない光景を次々見せられて混乱していたものの、辛うじて命は助かったことは分かった。


「ほ、本当に助かりました。なんとお礼を言えばいいのやら……」

「その服とメガネ……どう見ても異界人で間違いないな」


 そう狼男が呟いた瞬間、お礼を伝えた『命の恩人』たちはそれぞれナイフや斧、杖をもち、狼男は鎧のようなもので武装していることに改めて気がつく。


「助けていただいた手前、ひとつ質問ですが……ご職業は……?」

「山賊だ」

「それは……この世界だと職業なんですか?」


 あっという間に縄で両手両足を括られ、身動きが取れなくなった俺は山賊たちの拠点に運び込まれていた。


「にしてもツイてるっすね、2人も捕まえられるなんて」


 山賊仲間のうち、ナイフを持っていた男が狼男に話しかける。


 周りを見渡すと、自分と同じように捕まっていた青年がいる。

 腕や顔にあるアザからして山賊に抵抗したのか自分よりも酷い目にあっているようだった。


「ああ、アイツの言ってたことは本当だったな。ここの森で張ってれば丸腰の奴らが来るってな。

 まあ、アイツらがアタリがハズレかはまだ判断つかねぇから本当に運が良かったのかは分からねぇけどな」


 それもそうだ、という感じで山賊たちが笑いだした。


「それじゃあ早速──」


 狼男が腰を上げて両刃の剣を持ち、喉元に剣先を向けて言う。


「お前ら異界人だろ?異界から持ってきた金目のもんと知識全部出して俺らの下僕になるか、ここで死ぬか選べ」


 現代日本で平和に生きていた自分でも理解できる、生きた殺意だった。


「ちょっと待ってください!自分を殺す前にお話させてくれませんか?」

「アンタ、どういう立場か──」

「分かっています!だからこそ、です……」


 杖を持った女の言葉をさえぎって続けた。


「自分たちはついさっきここに来たようで、正直今がどんな状況か分かっていません!」

「そりゃ、そうだろうな」

「だけどあなたたちは自分がバケモノに襲われてるところを助けてくれました。命の恩人です!

 だからこそ最大限あなたたちの役に立ちたいんです。もし自分が力になれるなら喜んで手を貸します!

 だからどうか話だけでも……」

「そうだな……3つまでなら、質問を受け付けよう」


 3つの質問。俺に許された最後のチャンス。

 脳をフル回転させて、初球を放つ。


「あなた達の言う『異界人』とは、どういう人のことで、どんな利益のある存在なんですか?」

「それは質問が2つだな。3つのうち2つで数えるぞ?」

「いや!すみません……異界人がどんなやつかだけ教えてください!」


 焦りすぎた。


「異界人ってのは、ざっくり言うとこの世界からは別世界から来たやつのことだな。少なくとも俺たちの世界より進んだ技術を持っていて、魔法とは別の変な力を持ってるらしいな」


 持っているらしい、ということはこの山賊どもが異界人を見るのも初めてなのか……?


「それで2つ目は?」

「ここから1番近い街はどっちにありますか……?」

「おめぇ逃げようとすんのはオススメしねぇぞ」


 焦りすぎた。


「向きとしてはあっちだな、この川に沿って下ると『トライデア』っていうデカい街がある。まあ、俺みたいな”はぐれ者”が行くようなとこじゃないな」

「あ、教えてくれるんだ……」

「それじゃあ、3つ目だ」


 やばい、ここまでの質問でこれから助かりそうな光景が全然思い浮かばない。


 普通に考えてこの人達の下についたら酷い目に遭いそうなことくらいは想像がつく。

 かといって刃向かえば斧やナイフや杖?で武装してる大人3人に加えて、明らか屈強そうな狼男には絶対に勝てなさそうなことも分かる。


 つまり、この最後の質問に賭けるしかない。

 こうなったらもうヤケだ。思いついたこと全部言ってやろう。


「あなたたちは自分たちに対して『知識や財産を全て差し出すこと』を要求しましたよね。自分は最初、異界人の持ってきたモノを使って莫大な利益を得る手段があるのかなと思いましたが、2つ目の質問で自分がはぐれ者で街には入れないとも言いましたよね……?」


 恐怖で震えながらも、ぐちゃぐちゃの敬語で言葉を続けた。


「街に入れないような人達が異界人のモノを売ったり、知識を有効活用してお金を得るなんてのは結構難しいんじゃないですか?」

「モノを売るのはなにも別に、街の商人である必要はないぞ」

「だとしてもです。あなたたちはいるかも分からない異界人を探してこの辺りで待ち伏せしてたわけですよね?

 別にお金が欲しいだけだったらわざわざバケモノの出る森で”アタリ”か分からない異界人を狙うよりも、街道を通る行商人を襲った方がずっと確実だと思うんです」


 自分がここに来てから聞いた言葉から、それらしい理由を推測する。


「つまりあなた達は異界人をお金儲け以外の何かの計画なんかに使おうとしているんじゃないでしょうか……?」


 狼の口角があがり、鋭い牙が煌めく。


「確かにそうだな」

「……え、それだけですか?」

「だってお前は今『自分たちを計画に使うのか』と俺に質問したよな。だから俺は『そうだ』と答えたんだが?」

「あ!!!!」


 焦りすぎた。


「質問は終わりだな」


 折角の命乞いの機会を失った自分は生き残る可能性を探すため、更なる悪あがきを続ける。


「ま、まあ、まだ気が早いんじゃないですか?お互いの名前も知らないくらいじゃあないですか……」

「盗賊の『グノー』、魔法使いの女が『ナーヤ』、木こりの『デルシンキ』、それで俺がワーウルフの『ガァル』だ。これで満足か?」

「ぐっ……」


 もう少し時間を稼げるかと思っていたが、そろそろ限界だ。


 他に取り付くシマがないか辺りを見渡すと、同じように捕まっている青年がいたことを思い出した。


「そうだ!そういえばまだ1人こいつがいるじゃないですか!こいつにも話を聞きましょうよ!」


 手足が縛られたまま、芋虫のように身体をうねらせて青年に近づく。


「おい、起きろ!このままじゃ殺されるぞ!」


 青年の肩のあたりを頭で叩き、衝撃を与えると彼の目が開いた。


「……え?殺される……?」

「やっと起きたか!そうだ、このままだと本当に殺されそうなんだ。だからお前からも何か……」

「ころされるのぉおおぉお!!???」


 ブチッ、と青年の手元から音がした。

 彼の手元にもしっかり結ばれていたはずの縄が千切れている。


「「うぉぉぉおぉおぉぉぉ!??」」


 驚いた勢いでその青年は足元の縄も引き裂いた。


「お前何なんだよ……」

「殺されると思ったら急に頭の中に……あ、あと俺剣道部だったんで!?」


 青年本人も無意識なのは確からしい。


「とりあえず縄ほどくんで逃げてください!!」

「あ、ありがとう!?」


 混迷を極める中、同じように手元で括られていた自分の縄も引き裂く。

 即座に周りを見渡し、彼は山賊の女の方に向かって走り出した。


「うぉおおおおぉぉぉぉ!?」


 山賊の女が持っていた杖を力づくで奪い、2-3mほど突き飛ばして木に衝突させた。


「ナーヤ!?」


 奪った杖を剣道の基本姿勢のように構え、残った3人の山賊たちに相対する。


「覚悟してください……こう見えて俺、三段ですから……!?」


 どのくらい凄いかは分からないが、彼がとんでもないことをしているのは分かる。


「逃げろ、って俺の足に縄ついたままじゃねぇか……」


 結局自分もすぐには逃げられないことを悟った。


「おい、こいつ殺すか?」

「ナーヤに手出したんだ、タダじゃすまねぇぞ!」


 盗賊と木こりが武器を手に取り、彼をターゲットに突撃する。


「メエエエェェェェェェエン!」


 奇声に近い叫び声を上げながら杖を目に見えない速度で振り抜き、盗賊の頭に直撃させた。

 一撃で気絶させたものの、杖は真っ二つに折れる。


「コテッ!!!」


 折れた杖の先端を敵の手首に押し付け、木こりは痛みで反射的に武器を落とす。

 丸腰になった男の頭を掴み、勢いよく投げ捨てる。


「オラァッ!?」


 放り投げられた木こりの男も木に激突し、地面に倒れ込む。


 残るのは狼男のみ。


「へぇ本当に凄いな、異界人は……死ぬ気でかかってこい!!」


 倍ほど大きい体躯で吼える怪物を前に、青年は震えながらも立ち向かう。

 駆け抜けながら武器を斧に持ち替え、高速で狼の懐に潜り込む。

 

「どぉぉぉぉぉぉぉおう!!!……あ」


 胴体の鎧の隙間に狙いを定めて全力で振り抜いたはずの斧は巨大な片腕で押さえつけられて、寸前のところで刃の動きが止まる。


「確かにパワーはあるみたいだが、俺ほどじゃあないみたいだな!!」

「うおぉぉっ?!」


 仲間のお返しとばかりに山なりに投擲される青年。

 地面に叩きつけられ、口元や手のひら、膝、体の隅々から血が零れ落ちる。

 手足が震えながらも再度斧を手に取り、立ち上がる。


「お前はガッカリさせるなよ」


 このままでは恐らく、あの青年が殺される。


「アイツが死んだら次は……」


 絶望的な状況で、自分が生き残るためにできることがないか必死に辺りを見渡す。


 足元の縄は手で解けないようガチガチに結ばれている。

 倒れている山賊たちの武器を手に取ろうにも距離があるため届かない。

 手の届く範囲に使えそうな道具もない。


 手詰まりかと諦めかけたその時、あの青年の言葉を思い出した。


『殺されると思ったら急に頭の中に……』

「何かが浮かんだのか…?」


 そもそもあの青年が戦っている時、自身の力に驚いていた。

 つまりはこの世界に来てからいきなり力を手に入れた可能性がある。


 更に、あの狼男は異界人に『変な力』があるとも言っていた。


「だったら俺にも『変な力』が……その可能性に賭けるしかない!!」


 『変な力』に意識を集中させて目を閉じる。


《■■》

 ・ノートブックを創り出す能力

 ・創り出したノートは自由に出し入れできる

 ・ノートは他人に譲渡すると焼失する


「何だこの変な力!!??」


 あまりにも変な能力だ!

 どういう意図の能力なのかすら分からない!?


「……それでも、やるしかねぇーっ!」


 こんな状況でも頼りにできるのはこの力に頼るしかない!


「おい、狼男!!!仲間が殺されたくなかったら今すぐ降伏しろ!!!」

「何言ってんだ?」


 当然の反応だ。山賊の仲間たちは俺の手の届く範囲にはおらず、俺自身も武器や道具を持っていない。


「どう見てもお前は魔法使いじゃなさそうだし、殺せる状況には見えないんだが……」

「お前、自分が言ったこと忘れてる訳じゃないよな?」

「……まさか『変な力』か?」

「そうだ!俺の力を使えば、お前らの仲間を即座に殺せるぞ!殺されたくなかったら今すぐ武器を置いて手を後ろに組み、着てる服全部脱いで有り金と食い物全部置いていけ!!!」

「大きく出たな!」


 臨戦態勢だった狼も流石に笑みがこぼれてしまった。


「お前、流石にそんな嘘で騙されるヤツはいないだろう!いくら『変な力』でもそんなこと出来るはずがない追い詰められてデマカセを言っているだけだろう!

 そもそも殺せるような力があるなら、それを俺に使えばいい話だからな!!」

「確かにそう見えるかもな、それじゃあ証拠を見せてやったら少しは納得するかな……?」


 できるだけ、派手に見えるように!


「【ノートブック】!!!」


 大声で唱えると自分の手元に新品の大学ノートが現れた。


「俺の能力は『ノートに名前を書いた者を殺害する力』なんだ。そこで寝てる男で試してやる!」


 予め足元の石で傷つけておいた、指から出る血液で『デルシンキ』の名前を走り書きで記し、狼男に見せつける。


「ハッ!苦し紛れにしてもみっともないな!」

「これから見せて()()()から覚悟しろよ!」


 俺がそう叫んだ瞬間、倒れ込んでいた木こりの背中に突如炎が上がる。


「あ、あぁぁあぁあ!?なんじゃこりゃ、アツい!!?」


 体が痺れて動けない木こりの衣服に燃え移り、全身が炎に包まれ始めた!


「デルシンキ!!!」

「今ならまだ取り消せるぜ?仲間の命が惜しかったら──」

「……降参する。だからどうかデルシンキを殺さないでくれ……」


 狼男は持っていた武器を即座に捨て、地面に膝をつけて深々と頭を下げた。

 燃えただけにしては、驚くほど早い降伏だった。


 降伏した後、山賊たちを自分たちがやられたように縄で手足を縛り、動けないよう拘束した。

 狼男の怪力であれば引き裂くこともできそうだったが、未知の能力で仲間を人質に取られている手前で抵抗する気はないようだった。


「それじゃあ宣言通り貰って行くぞ」


 山賊たちから奪った食料、着替え、武器、目に付いた雑貨を2人分のリュックに詰め込んだ。

 持ち歩ける限界まで詰めたのでかなりの重量がある。


「あ、あの……杖壊しちゃってごめんなさい……」

「謝って済むなら警察いらないよ!!」

「す、すみません……」


 身動き取れない相手にすら深々と謝罪する青年。


「お前らは警察に捕まる側だろうが……」

「何か言ったかい!?」

「イエナニモー」

「というかお前もだよメガネ!俺のばあちゃんが作ってくれた大切なセーターだったんだぞ!?それをこんなになるまで燃やしあがって、弁償しろ!!!」

「賊のくせにおばあちゃん子かよ、親不孝が……」


 コイツら捕まってる分際でなんて偉そうなんだ。

 というか、ちょっと嬉しそうじゃないか……?


「どうせお前らの能力なんて大したもんじゃねぇ、ハッタリだろ!?俺たちが足引っ張んなかったらガァルさんがブン殴って終わってたんだよ!!」

「やめねぇか、お前ら。俺たちは負けたんだ」

「ガァルさん、でもよ……」

「確かにデルシンキが燃えた時、俺があのメガネを殴るか、炎を急いで消していれば勝てたかもしれねぇ。

 それでも能力の正体が分からん以上、そう動いて助かる確証がなかった。

 俺たちは異界人を知らなかったから、可能性を考慮せざるを得なかった。油断した俺のミスだ」


 俯きつつ、尻尾は地面に向かってダランと垂れ下がる。

 2mを超えているはずの巨体だが、心なしかしょぼくれて見える。


「お前らには悪い事をしたな。申し訳ない」

「謝って済むレベルじゃなかったぞ……!」


 こちらは誘拐された上に殺されかけたのだ。

 そう易々と許せる気にはならない。


「それでダメ元のつもりではあるんだが、俺たちの仲間にならないか?」

「絶対断る!!!!!!」


 即答しかない。


「ま、まあ話ぐらいは聞いてあげてもいいんじゃないですか……折角ですし……」


 なんでこんなヤツらの話をとも思ったが、この青年は自分を救ってくれた間違いのない恩人だ。


「……正直意味はないと思うが、彼に免じて話だけは聞いてやる。それじゃあ質問。俺たちを仲間にする目的は?」

「復讐のためだ」

「具体的な業務内容は?」

「仲間になれば話す」

「報酬は?」

「メシは保証する」

「俺たちにとってのメリットは?」

「俺が仲間になる」

「話にならねぇ!!!!!!!!」


 ブラックすぎる!!


「まず第一に、俺たちはなんも分からねぇ状態でこの世界に飛ばされてんだ!

 そんな状況でいきなり誘拐してきたヤツらの話なんて信用出来るか!!

 目的が復讐で、しかも仲間にならないと業務内容は話せない?詐欺師ですらもうちょっとマシだぞ!?」

「……」


 黙り込む山賊たち。


「お前らにも事情がありそうなのは察するけどよぉ、俺たちの方がもっと鬼気迫る特殊な状況なんだわ!」

「……メガネさんの言う通り、僕たちはあなたの仲間にはなれません。ごめんなさい」


 青年も続く。


「僕もこの方と同じようにいきなり変な世界に飛ばされて困って……できるだけ早く家に帰りたいんです。

 家族も心配してるだろうし、やらなきゃいけないことも残してるんです。だから──」

「あぁ分かった!分かった!ダメ元だって言ってるだろ?そう気にすんな!

 まあそれでも、それじゃあ仮に、俺たちが元の世界に戻る手がかりを持ってるとしたら──」

「それが一番ないね!お前、自分たちが異界人のこと知らなかったせいで負けたって言ってたじゃねぇか!!!」

「あ」


 狼男の口が大きく開く。


「「「ガハハハハッ!!」」」


 あまりに不用意だったリーダーに仲間たちが思わず大声を出して笑う。


「ガァルさん、流石にダサいっす!」

「う、うるさい!!」

「本当になんなんだよこいつら……」

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