第14話 恩と仇
異世界生活が始まった俺たちはバァバとの約束通り家の家事を担当する。
広い洋館の掃除を2人で分担して終わらせたあと、食材となる魚の調達を2人で川沿いに向かう。
男2人が女性の衣類を触るわけにもいかないので、洗濯はラーちゃに任せることになった。
魚が釣れるらしい川辺を教えてもらい、俺は釣り竿、キョウヤは手づかみで30cmほどの魚を手づかみでそれぞれ捕まえることにした。
「ひとまず僕たちしばらくは泊めてもらえるみたいですね。何日くらい泊まるつもりですか?」
流れの緩やかな川の中で魚を探しながらキョウヤは話す。
「そうだな……ずっと泊まるわけにもいかないけど1ヶ月、いや3ヶ月くらいかな。しばらくに街に通って情報を集めて生活できる目処と装備は集めないとな。」
「……3ヶ月ですか。」
「まあ俺としてもできるだけ早く元の世界に帰りたいけどね。
だけど無駄に急ぐよりかは時間をかけてでも準備をするべきだと思う。」
「……そう、ですよね。」
とんでもないことが起こってる手前、キョウヤも不安でしょうがないのは確かだろう。
「僕ら、何も悪いことしてないのに何でこんな目に遭ってるんでしょうね。」
「この世界に飛ばしたやつがクソ野郎なせいだろうな。」
キョウヤの顔は暗いまま、それ以上会話することはなかった。
夕方まで魚を獲り続け、2人で合わせてイワナのような魚を4匹集めた。
目標は達成したとして、日が落ちる前に屋敷に戻った。
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「お帰りー!お魚さんどんな感じ?チョベリグ?」
キッチンでラーちゃは街で買い込んでいた食材を使ってポトフのような料理を作っているようだった。
スープから溢れ出た旨味を含む香りが、元の世界にいた頃を思い出させる。
「ああ、ひとまず魚4匹は集めたよ。」
「おけまる!」
左手で作った輪っかを頬に当てて笑顔でアピールする。
「……それじゃあ僕たちは外で焼き魚でも作ってきますね、行きましょうサイゴさん。」
「ん?あ、あぁ分かった。」
俺たちも一緒にキッチンで料理を手伝うものかと思っていたが、キョウヤの雰囲気を察して話を合わせることにした。
「いてらー☆」
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昨日と同じように作った薪にノートを使って着火、串に刺した魚を焚火に近づけて身を焦がす。
「率直に話すんですけど、この家から物資奪って逃げませんか?」
思ってもいない提案だった。
「何言ってんだ?」
「いくら魔法を使えると言っても寝込みを狙えば殺せるはずです。周りを見た感じ集落もないので暫くバレることは──」
「そういうこと言ってんじゃねぇよ!何であの人たちを襲う必要があるんだよ!?」
「だってこのままあいつらの世話になってたらいつ元の世界に帰れるんですか!!!!」
これ以上なく、鬼気迫る表情に気圧される。
「そりゃ、だから帰るためにここを拠点に情報を集めて……」
「ここを拠点に!?何ヶ月もこんなところにいるんですか!?その気になれば俺たちを殺せるような人になんの保証もなく命を預けて、無事に帰れるって言うんですか!?」
自分が目を逸らしていた可能性に言及された。
確かに俺たちは助けてもらっただけで、あの人たちをなんの根拠もなく信用していた。
「だとしても俺たちは対話してくれる人間を信じるべきだ。後ろ盾がないからこそ。」
「それじゃあ、あの山賊たちは信じなくてよかったんですか!?仲間になろうって言ったあの人達を!」
「あいつらは対話の前に暴力を選んでいた。協力できるわけがない。」
「あんたそう言って、自分に都合の良い方に理屈考えてるだけでしょう!そもそもあの約束ノートってのもおかしい!自分に都合の良い条件を書いて丸め込もうとしていた!」
「あれは条件に問題ないかって聞いたじゃねぇか!」
「そんなの、断ったら何されるか分からないのにその場で『嫌』と言えるわけ無いでしょう!」
「……あ。」
自分が良かれと思ってしてきたことが、相手を追い詰めていたことに気がついた。
「それに約束ノートで『危険と判断したら見捨てること』って言っておきながら、朝顔のバケモノに自分が襲われたときは『助けてくれ』って矛盾してるじゃないですか!」
「それは……」
まだ助かる可能性があったから、と答えるのはどう見てもおかしい。
「そもそもですね、『自分がいなきゃ異世界を生きていけない』って感じだしてますけど僕からしたらあんたが必要な理由って無いじゃないですか。ノートを創る能力なんて火起こし以上役に立ちそうにないし、メガネで背は低くて体は華奢で姿勢が悪くて絶対喧嘩は弱いし、女性と目合わせて話せてなかったし、どうせ童貞ですよね?」
「ど、童貞は関係ないだろ!!!」
話と関係のないところで図星をつかれて動揺する。
「それにですね、僕の『逆境』の能力は仲間の数でも変動します!あんたみたいなカスがいるだけでも『有利』の判定をされるから足手まといなんですよ!」
「お前、そんなこと言ってなかったじゃねぇか!」
キョウヤが『逆境』能力の情報を隠していたことに対して更にイラつきを覚える。
「元の世界には家族も友達も恋人もいないから、急いで元の世界に帰る理由もないんでしょう!?僕と違って!!!」
これまで異世界で溜まっていた不満が一気に襲いかかる。
「てめぇ、本気で言ってんのか?」
「あんたはあの女と一緒にずっとここで異世界スローライフ送ったほうが幸せなんじゃないですか!?現実じゃどうせみじめなんだから。お似合いですよ!」
こちらの人格まで軽視された物言い加え、命の恩人まで侮辱する態度に堪忍袋の緒が切れた。
勢いよく彼の襟を左手で掴み、拳を振り上げる。
「……殴らないんですか。」
「……俺がここで殴ったら、対話を放棄したことになる。」
「またそうやって自分に都合の良い理屈を。どこまでも哀れですよ、あんたは。」
掴んでいた手を離し、突き放す。
「僕、もうこんな世界にいたくないんですよ……」
泣きながら手元あった荷物を背負って庭の外の方を向く。
「どこに行くつもりだ。」
「あんたが言った通り街で情報収集。例え1人でもやりますよ。」
装備も知識もなく街に向かうのは明らかに無謀だったが、キョウヤを引き止めることができなかった。




