第12話 約束ノート
山賊たちの拠点から出発して体感5時間ほど歩いたが、未だ森を抜ける気配はない。
一刻も早く人里にたどり着きたいが、日も暮れた状態でこれ以上進むのは危険と判断して川沿いにテントを貼って野営することにした。
創り出したノートをキョウヤに”渡す”ことによってノートを燃やし、集めた枝で焚き火を設置する。
「あの人たちが言ってた魔獣っていうの、出会ったら僕たちどうなっちゃうんでしょうね。」
「俺が遭遇したのはクソでかいイノシシだったな。少なくとも俺よりでかい。」
あのときは運良く助かったが、今の2人ではとても太刀打ちできるとは思えない。
「そんな世界じゃ脱出どころか生きていけるか不安になってきますね……」
「とにかく出会わないことを祈ることしかできないな。」
先が見えない絶望的な状況にお互い何を話せばいいかわからず、沈黙の時間が流れる。
「──【ノートブック】」
能力で創り出したノートにタイトルを書き込み、1ページ目を開いた。
「【約束ノート】ですか?」
キョウヤがタイトルを読み上げる。
「ああ、これからお互い長い付き合いになりそうだし決まり事でも書いておこうかなって。折角貰った能力だし、使っていかないと。」
山賊たちから奪った羽ペンでノートに箇条書きで文章を書き込んでいく。
慣れない道具ながらも出来るだけ丁寧な文字を意識した。
「よし、書いた!読んでみて気になる所があれば言ってくれ。」
■異世界ルール
・お互いで異世界の脱出を目指し、全力かつ最速で協力する
・能力は基本他人には明かさない。明かす必要のある場合はお互いの合意
・異世界の出来事や手がかりに関して、お互い隠し事はしない
・異世界で手に入れた財産は獲得した個人のものとする
・年齢差はあるが、お互い敬語はなし
2人の間で揉め事が起こる可能性を出来るだけ排除するための約束事を羅列した。
「……そうですね、悪くないと思います。強いて言えば、敬語なしっていうのは──」
「それはまあ、お互い対等な立場にするルールだからな。形から入ったほうがいいかなって思って。」
「わ、わかりました!それじゃあこれからよろしく……サイゴ……さん。」
「まあ、10歳差だしいきなり敬語は難しいよね。それでも出来るだけ敬語はなくして欲しいかも。」
一度上下関係ができてしまうと言いなりの状態から抜け出せなくなる可能性があった。
今後お互いに意見を出し合って協力していく以上、出来るだけ不要な壁は取り除いておきたい。
「あ、大事なルール書き忘れてた!」
・どちらかが命の危機で、助け出せないと判断したら迷わず見捨てること
「……これは」
残酷に見えるルールだが、ちゃんとその約束の必要性も理解しているようだ。
「約束に問題なかったら、これにサインしてくれ。異世界じゃ形式上のやり取りだけど意外と大事なんだ。」
「わかりました、これで大丈夫です。」
お互い合意の証としてサイゴとキョウヤのサインが連なった。
「よし、それじゃあ今日はもう遅いし、交互に見張りしながら寝るか!
もし魔獣が出て襲われたら、迷わず見捨てでも逃げること!」
毛布を被り、2時間おきに交代することを確認してキョウヤから眠りについた。
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「うわぁぁぁあぁあああぁぁぁ!!!!助けてくれえぇぇぇぇ!!!!!!」
「サイゴさん!?どうなってるんですか?」
ちょうど日が登り始めた頃、キョウヤを起こそうとして立ち上がったところ
足首が植物のツタで右足にグルグル巻きにされていることに気づき、
グンと足を空中に持ち上げられ、宙吊りとなった。
頭に血が上る気持ち悪さを我慢してツタの伸びていた方向を追った先を見ると
”朝顔の顔をもち、ツタで人間の手足を象る植物"が
"左右の根っこを交互に引き抜きながら歩いてきた”のだ。
「うわぁぁぁぁ!【ノートブック】!!!お前にやるよ!!!」
ノートを朝顔めがけて"譲渡"するも、ノートは発火せずにポトリと落ちる。
「なんで燃えねぇんだぁぁぁあぁ!!!」
今一度自分の能力を思い出す。
《■■》
・ノートブックを創り出す能力
・創り出したノートは自由に出し入れできる
・ノートは他人に譲渡すると焼失する
(まさか、魔獣は他人に含まれねぇのか!?)
右足から胴体、腕、喉元までツタが伸び体の自由が徐々に奪われていく。
まだ動く口を使い、キョウヤのほうを覗いて大声で叫ぶ。
「すまん!俺の力じゃ無理だ!!!キョウヤ助けてくれ!!!!!!」
「昨日の約束じゃ『見捨てでも逃げること』って……」
「多分頑張ればまだ助かるだろ!!!!まだ死にたくない!!!!!」
昨日の今日でダサすぎるとは思うが背に腹はかえられない。
「わ、わかりました!!!」
リュックからナイフを取り出して植物の足から伸びるツタを斬りつけるが、
太く頑丈で巻きつけられた茎は傷がつくだけで切断には至らない。
「おい、後ろ!!!」
キョウヤの背後から伸びたツタがナイフを持つ手に絡まり強く締め付ける。
「あああぁあぁっ!!!」
「キョウヤ!!!!」
(異世界に来て、生き残ったと思ったらたった一日で死ぬのか・・・?)
2人の体は殆どが拘束され、まともな身動きが取れない。
喉に巻き付いたツタが徐々に力を強め、文字通り息の根をとめにかかる。
「か……あぁっ…」
思コウがぼやけてノウがしろく、メのまえがザラメがかかったみたいなノイズでうめつくされてカオがまっかになっていく。
(オワッタ)
「炸裂破片魔法」
カァァァンと何かが弾けるような音とともに朝顔の花弁が舞う。
それまでガッチリを押さえつけていたツタから一気に力が抜け、地面に叩き落とされた。
「あんたら何でこんなとこいるワケ?てか、もしかして異界人!!?」
指揮棒ほどの長さの杖を持った金髪の褐色少女が地に伏した男の顔を見て言う。
(まさか、こいつも異界人目当てか・・・?)
「マジ?こんなところに来るなんてきーてないんですけど!!立ち話も何だし、ウチくる?」
最初のときとは違い、その目に悪意はこもっていないようだった。




