一本道
全身が、逢いたがっている
だれか好きなひとがいると
子どものころから、こうだ
いつまでつづくのかと呆れられてる
夏も終わりの色に変わり
秋の音色を奏ではじめている
トンボたちが空中に止まり
どんな法則があるのか
まるでわからない飛びかたをしている
それを
子どものころから探している
山道を駆け抜けてたあのころも
夢中になってトンボを追いかけ日も暮れ
ふとみあげると
潤んだ満月からなにか聴こえた気がした
そのときもそうだった
全身が、あのひとに、逢いたがっていた
夜道は灯りもなく満月の光だけが
あしもとを照らしてくれたのだろうが
よく憶えていない
ただそこで感じたあのひとのやさしさを
全身が、追い求めたのだけは憶えている
月光にばかり照らされた道ばたには
みえないだけで無数の演奏家たちがいて
止むことなく胸に染み入る歌声を
終わりのない時間の中で
歌いつづけてくれていた
まるでララバイの歌声かなにかのようで
疲れを癒すやさしさで
そのさきにある小さな町への一本道を
満月は、照らし
歌声に、溺れ
ただ、全身が逢いたがってるのは
おそらくたえまない幻の
あのひとへの郷愁なんだろう
そんな寂しさを、いまもまだ
手離せないのはただ
なにも憶えてないけど
とびっきりの弱さの極みなんだろうな