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『最後の肖像』第7話ーモノローグ
(タクシーを降り、施設の自動ドアに向かって歩きながら、朔郎の心の中で、一つの、悲痛なまでの決意が、形を結ぶ)
(そうだ……俺は、母さんを捨てたんだ)
(あの日のタクシーの中で、俺は、確かに、息子であることをやめた。
自分の夢のために、自分の弱さのために、一番、守らなければならない人間から、目を背けた。
俺が今、着ているこのジャケットも、俺がこれから手にする栄光も、全て、母さんの犠牲の上に成り立っている、汚れた戦利品だ)
(……だが、だからこそ、意味があるんだ)
(この受賞は、ただの自己満足じゃない。
これは、俺が、もう一度、母さんの「息子」に戻るための、儀式なんだ。
俺の正しさを、そして、母さんの人生の正しさを、証明するための、たった一つの方法なんだ)
(見てろよ、母さん)
(あんたの息子は、あんたが信じた通り、ちゃんと、すごい人間になったんだ。
俺が、それを、今から、証明してやる。
あんたの人生は、決して、無駄じゃなかったって、俺が、この手で、完成させてやるんだ)




