ぼうけんしちゃダメ? ~やまのぼりでのひとまく~
小学生のミキオくんとソヨカちゃんは、遠足で山のぼりをしていました。
公式企画『冬の童話祭2025』参加作品です。
別の小説『ランコ推参! ~キャンプ場での一幕~』等の登場人物がでますが、前作を知らなくてもお楽しみいただけます。
「あたし、つかれたー」
青空の下、山道の中ほどでシホちゃんがよわよわしく言った。
「ぼくもー。もう歩きたくないー」
ドウスケもにたような声で言って、ベンチにすわりこむ。ため息をつきながらリュックを足元においた。
「だらしないなぁ、まだ半分ものぼってないのに」
オレがわらいながら言うと、ドウスケはいやそうに顔を上げた。
「ミキオもソヨカちゃんも、へいきそうだよね」
「オレとソヨカちゃんは、この山はなんどかのぼってるからな」
今日は日曜日。オレたちの小学校の遠足で山のぼりをしている。
山道のとちゅう、ひろばになっている場所で一息することになった。
ここはすずしい風がふいていて、とても気持ちがいい。
オレもソヨカちゃんも、町内会のイベントでこの山にきている。
そんなに高い山じゃないし、坂道もおだやかで歩きやすいはずなんだけど。
「すわらないの?」
シホちゃんがソヨカちゃんに聞いた。
「うん。あたしはだいじょうぶ。町内会で山のぼりにくわしいお姉さんがいるの。その人に教えてもらったんだけど、山のぼりで一息するときは、すわらないほうがらくなんだって。リュックもおろさないほうがいいみたい」
オレは町内会のランコちゃんがわらってる顔をおもいうかべた。大学生のランコちゃんは、いろいろなことを教えてくれるんだ。
オレもランコちゃんに教わった通り、リュックをせおったままで立っている。
「ふたりともずっとすわっていると、あとがしんどいよ。出発まで、すこしおさんぽしようよ」
ソヨカちゃんがベンチにすわっているふたりに言った。シホちゃんもドウスケも、しぶしぶという顔で立ち上がり、リュックをかかえる。
その時、シホちゃんがふしぎそうに声をあげた。
「あれ? こんなところにだれかのリュックがあるよ」
ベンチのかげに、うさぎみたいな絵がついた小さいリュックが置いてあった。女の子が使いそうなものだ。
「だれかのわすれものかな? もちぬしはいなさそうだけど」
このひろばにオレたちがきたとき、ほかの人はいなかった。
ドウスケがリュックをしらべた。
「名前が書いてあるよ。オオイシ、ヒマリ……」
「このリュック、新品でよごれてないし。おいてからあんまり時間がたってないと思う。もちぬしの女の子がこまっているよね。みんなでさがしにいこうよ」
シホちゃんが言った。でもなぁ……。
「ミキオくん。こういう時って、ランコさんならどうするかな?」
「ぼうけんするな、って言いそうだね」
『こういうときは冒険しないで冷静に行動する』と教わった。
みんなで手分けして、もちぬしをさがしたとする。でも、山道をのぼったのか、それともくだったのかもわからない。
それで、ぼくらがまいごになったり、ケガをしてもたいへんなんだ。こういう時は……。
「まず、先生に相談だな。オレとドウスケで、先生をよんでくる。ソヨカちゃんとシホちゃんはここで待ってて、もちぬしがさがしにくるかもしれないし」
「うん、わかった。おねがいね、ミキオくん、ドウスケくん」
ソヨカちゃんのこえを後に、オレとドウスケは先生をさがしにかけ出した。
でも、ひろばのどこを見ても先生はいない。
「ミキオ、先生どこに行ったんだろう?」
ドウスケが言った。
「だれかに聞いてみよう!」
近くで休んでいたクラスメートに聞くと、「先生ならトイレに行ったみたいだよ」と教えてくれた。
「トイレってどこだっけ?」
「オレ知ってる。広場から少し登ったところにわき道があって、その先に小さいトイレがあるんだ」
オレたちはトイレへ向かった。少し坂道を上った先に木でできたトイレが見えた。その前に先生が立っていた。
「先生!」
ミキオとドウスケは息を切らしながら先生にかけより、落とし物のことを話した。
「広場のベンチのそばで、小さなリュックを見つけたんです。名前はオオイシ ヒマリちゃんって書いてありました。」
先生はおどろいたようすだ。
「それはたいへんね。お父さんやお母さんがさがしているかもしれないわ。いっしょにもどりましょう」
その時、トイレから小さな女の子とお父さんが出てきた。
「ヒーちゃん、ちょっといそごう。ママたちは先にのぼっているよ」
「パパ、ヒマのリュックはどこ?」
お父さんはふしぎそうに答えた。
「え? ヒーちゃんのにもつは、ママが持ってるんじゃないの?」
先生がすぐに声をかけた。
「あの、ヒマリちゃんのリュックですか? 実は、広場で見つけたんです」
お父さんは目を丸くして、「そうなんですか! ありがとうございます!」
と深々と頭を下げた。
オレは「リュックを持ってきます!」と言い、ドウスケといっしょに広場へと走った。
ベンチのところにもどると、ソヨカちゃんとシホちゃんがリュックを大事そうにかかえ待っていた。
「持ち主が見つかったよ!」とオレがつたえると、二人ともホッとした顔をした。
「じゃあ、とどけに行こう!」
とソヨカが言い、リュックを手に持って先生とヒマリちゃんたちのもとへ向かった。
リュックをとどけるのはソヨカちゃんとシホちゃんにまかせた。
おおぜいで行ったらヒマリちゃんがこわがるかもね。
で、ぶじにリュックはもちぬしにわたされた。
ヒマリちゃんはリュックを受け取ると、大きなえがおで「ありがとう!」とお礼を言ったらしい。
オレたちはいい気分で遠足をつづけることができたんだ。
* * *
数日後、オレとソヨカちゃんはランコちゃんに会った。
「ミキオくんにソヨカちゃん、遠足はどうだった?」
「うん、あのね、ちょっとした事件があったんだ!」
オレは広場で見つけた小さなリュックのことを伝えた。
「ランコちゃんが『こういうときは冒険しないで冷静に行動する』って言ってたよね。それで先生に相談して、ちゃんと解決できたよ!」
ランコちゃんはうれしそうにうなずいた。
「それはすばらしいね。ミキオくんもソヨカちゃんも、みんなで協力して、みんなが安心できる方法をえらべたんだ」
ソヨカちゃんもうんうんとうなずいている。
「ランコさん、ヒマリちゃんってかわいい子だったよ。たまたまトイレにいたからよかったね。そうじゃないと、先生に相談してもすぐにとどけけられなかった」
「ま、それでも先生に言うのが正解だよ。携帯電話を持ってるだろうから、山の管理人やふもとの駐車場に電話することもできるんだ。ふたりとも、よくがんばったね」
そういってランコちゃんはわらった。