創刊号:ネタバレ禁止! (1)
それはある平凡な日の出来事だった。程よく天気が良く、日差しが暖かい日にごろごろしていたときのこと。
「この本、面白いんだけど、連載してないんだよね。」
朝焼いておいたクッキーをひとつつまみながら本棚をめくっていた。 退屈な日常の中で、姉に読めと言われたロマンス小説は、いつの間にか私の唯一の活力源になっていた。だから、このような気だるい午後には、姉と一緒にロマンス小説を読むことが多い。
特に「友達は辞めます」は、私が本当に好きな本だった。
モコモコした雰囲気が好きというか、作家さんがいつまで連載するのかわからないけど。
何度も読み返した本をめくって、好きなシーンを探しながら読んだ。ああ、やっぱりこのシーン。本当に良かった。
「こんなに面白いのに連載しないなんて.......。どんなに面白い本でも、人に忘れられたら人気は下がるよね。 そうだよね、お姉ちゃん?」
「……そうだね。」
隣で一緒に本を読んでいたお姉ちゃんが、急に首をすくめた。
どこか具合でも悪いのか?
なんとなく不穏な空気が漂っていたので、私は慎重にお姉さんに近づいた。
「どうしたの、お姉ちゃん、大丈夫?」
「…知ってる……」
「え?」
「知ってるんだよ!!!」
そして姉は突然部屋を飛び出していった。一人取り残された私は、ぼんやりと目を瞬かせた。
「なんだろう?」
* * *
戸惑いを残したまま姉を追いかけてたどり着いたのは、広々としたテラスのある2階の書斎だった。
姉はテラスの手すりに寄りかかりながら立っていた。吹く風に赤い髪が舞い散る。今にも消えそうなかすかな残像がー。
「いや、リラ、変なナレーション入れないでよ!」
「私、死なないから!」と首を振り向いた姉が叫んだ。よかった。いつものお姉ちゃんと変わらない。心の中で安心した私は、ゆっくりと足を運び、テラスに入った。
「お姉ちゃん、どうしたの、私が何か悪いことしたの?」
「……いや、全部私のせいよ。」
沈んだ声で答えた姉は首を横に振った。まだ理解できない顔で姉を見ると、姉は手すりを掴んだまま大きく息を吸い込んだ。
「読者の皆さん! 私は罪人です! 逃げた作家を許してください!」
「何言ってるの、そんなことお姉ちゃんが謝る必要はない から。」
私がさっきの作家の話をしたからだろうか。姉の背中をポンポン叩きながら、1階の庭で木を手入れしているチャールズおじさんに手を振って挨拶した。チャールズおじさんは「うちのロッジアのお嬢さん、声が大きいですね!」と感心しているところだった。
「私が、私があの本を書いたロゼ…….。作家だからね…… でも、1年以上連載してないし、 悪口を食らうのは当たり前だし、どうしようもない。 ……それでも書けないのをどうしようもないじゃないですか。無理矢理書くわけにはいかないじゃないですか。」
べらべらと喋る姉が落ち着くまで背中を撫でてあげた。
うーん。ざっくり言ってしまえばー。
お姉ちゃんは実はローゼ作家とは知り合いであり、そんなお姉ちゃんの前で嫌な話をしたことで気分を害したのだろう。
「いいのよ、いいのよ、お姉ちゃんは心が弱いんだね。」
「しくしく……。」
私の慰めに、泣き声混じりの嘆きは次第に収まっていく。私はポケットにしまっておいたハンカチを姉に渡した。フン、ハンカチに鼻をかんだ姉は、ようやくいつものように戻ってきて、素敵な笑顔を見せた。
「まさかお姉ちゃんがあの伝説の作家ローゼさんと知り合いだとは思わなかったわ。」
「あら、伝説の作家なんて、そんなこと言われたら恥ずかしいわよ……」
姉は恥ずかしそうに頭を掻いた。ふと思いつき、私は手を叩きながら感嘆した。
「うわー、うわー。じゃあ、お姉ちゃん、ローゼ作家に実際に会ったことあるんだ?」
「私がそのローゼ作家である。」
「お姉ちゃんも知ってるでしょ? 私がローゼ作家さんのファンなんだよ! もしかしてサインもらえるかな?
「……」
急に表情を引き締めた姉は、書斎にそそくさと入っていき、紙とペンを持って再びテラスに戻ってきた。そして、紙に何かをペタペタと書く。ものすごく真剣な顔だった。
「ほら。これでいいでしょ?」
「え?」
姉が手渡したのはほかでもなくサインだった。
「いやいや、お姉ちゃんのサインじゃなくて、ローゼ作家さんのサインが欲しいの。」
私はお姉ちゃんが渡してくれたサインをもう一度見つめた。
『リラ・ブリーゼへ 、作家ローゼから。』
「え? いや、お姉ちゃん、なんでローゼ作家さんのサインを……」
「そうだ。私が、あの『生徒会長さん、やめてください!』を書いた作家ロゼなんです。」
普通のお姉ちゃんが、実は伝説の恋愛小説作家だった……?
「えええー?!」
はじめまして。
初めて書く作品ですが、楽しく読んでいただけたらと思います。(笑)
『剣術部のマネージャーさん』は、かわいいヒロインリラがアカデミーに入学して広げられるラブコメディです。
かっこいい剣術部員たちとの出会い、とドキドキするストーリーを楽しみにしてください!
それでは、楽しいお話でお目にかかりましょう。