表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/18

花、散りゆくように【7】

何故こんな事になったのか。

目の前のリクィドの姿に、エニスは驚く事すら忘れ、放心した様に立ち尽くしていた。


この場にいるという事は、幻花を取りに来たのだろうか。

だがあのリクィドが、花を()()取りに来るとは思えない。


間違いなく、幻花を必要とする理由があるはずだが、一見したところ、リクィドに体調の変化は見られない。


リクィドがアンハマ島に来た理由を考えようとするが、焦りや不安や驚きで、頭が上手く働かないのだ。


何故リクィドがここにいるのか?という驚き。

そしてもし、幻花を取りに来ているのなら、リクィドと奪い合う事になる。という不安。


それらの焦りがエニスを動揺させ、冷静さを奪っていた。


何よりも、この今の姿では、誰よりも会いたくなかった、かつての想い人である。

こんな化け物の様な姿を見られたくはなかった。


だがこのまま素直に幻花を渡す訳にもいかない。

リクィドの姿を見る限り、幻花が必要な様には見えない。

至って健康そうな身体だ。


今のエニスには何よりも羨ましく、何よりも眩しく見える。


(リクィドに幻花が必要には見えない。ギルドの依頼……?)


冒険者はそれぞれがギルドに属しており、ギルドからの依頼で動く事も多い。


危険な場所に用がある際に、一般人が腕のたつ冒険者に代わりに行くようギルドに頼んだり、または個人的にボディーガードを頼んだりする例は多くある。


今回のリクィドがそれではないか。


(だったら……絶対渡さない)


さすがに最初にリクィドを見た時は、リクィドの身体を心配したが、幻花を必要としているのは、リクィドではないようだ。


(別に戦って勝つ必要はないんだから…、先に幻花を手に入れればいいのよ。落ち着いて……)


そう自分に言い聞かせていると、リクィドはエニスに敵対心がない事に気付いたのか、警戒を解いた。


「お前も幻花を探しに来たのか?」


「……」


見知らぬ…しかも正体不明の相手に、平気で話し掛ける屈託のなさは相変わらずだ。


だがエニスとしては、正体がバレてしまうような事は避けたい。

話しかけて来るリクィドを無視すると、無言のまま背中を向けた。


本当は久し振りに会えた事、久し振りに声が聞けた事が嬉しくてたまらないのに、言葉すら交わせない事が酷く悲しい。


エニスはリクィドに背中を向けたまま、ぼんやりと自分の身体を見下ろした。


(……こんな醜い姿…リクィドにだけは、見られたくなかったのに…)


リクィド本人はエニスに気付いてはいないが、死臭のような嫌な臭いには気付いているだろう。


このまま気付かれずに幻花を手に入れ、健康な頃の自分で会いたい。


その一心で、リクィドの傍へ行きたい気持ちを抑えた時、東の空が赤く染まっているのが見えた。


「……」


夜が明け始めているのだ。

いつの間に、そんなに時間が経っていたのか。


この場所に来てから、時間の感覚が曖昧になっている事に気付く。


だが時間の経過を考えている場合ではない、幻花を見付けられるのは今しかないのだ。


直ぐに辺りを探さなければと、視線を動かした時、エニスは見慣れないモノを見付けて、目を凝らした。


辺りを照らし始めた朝日が、ある一ヶ所に集中している様に見える。


まだ薄暗い中、天から一筋の光が射し込む様に、空と大地を繋ぐ光があった。


その光の中心に、何の特徴もない、だが美しすぎる花がある。


確証があった訳ではない。

確信があった訳でもない。


だがエニスは、無意識に懐から拳銃を二丁、取り出していた。


そして意識しないまま、銃口をリクィドに向ける。


(私の…花……)


二丁の拳銃は、エニスが扱う唯一の武器である。


大して腕力もないエニスにとって、モンスターと戦うには武器が必要だからだ。


だがこの使い慣れた拳銃を、人間に向けたのは初めてだ。

しかも知っている相手に銃口を向けるなど、有り得ない。


だが花を見た時、誰にも渡したくないという気持ちが脳を支配し、気が付けば、身近にいたリクィドに銃口を向けていたのだ。


そしてリクィドが花に視線を向けようとした瞬間、エニスは本能的に引き金を引いていた。


ガウンガウンと、高い音でありながらも、腹に響く音が辺りに響き渡る。


引き金を引いた時、まだリクィドは、完全にはこちらを振り返っていなかった。


なのに、リクィドはエニスの攻撃など最初から分かっていた様に、発砲された弾丸を避けている。


エニスをみる目に、さっきまでとは違う光が宿っていた。

先ほどの攻撃で、エニスを敵だと認識したらしい。


(何してるの私は…!リクィドに向けて発砲するなんて!!)


自分が自分じゃなかった感覚とでも言うのだろうか。


あの花を見た瞬間。

花を手に入れる為に、他ならぬリクィドに対して、明確な殺意が芽生えた。


自分の命を救おうとする、本能的で反射的な行動だったのかも知れないが、激しい自己嫌悪に陥ってしまう。


生きる為の本能とは言え、共に戦い、背を預けられる程に信頼した仲間を殺そうとするなど、有り得ない。


だが既にさいは投げられてしまった。

リクィドの自分に向ける気当たりが、どんどん強くなっていく。


殺気は全くないものの、強すぎる気当たりを直接受け、エニスはまたしても本能的に、銃口をリクィドに向けていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ