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イケおじ冒険者は北へ行く。【1】

身体が凍る。

息が凍る。

全てが凍る。


見渡せば辺りは真っ白で、朦朧もうろうとした頭では、その白が雪だと気付くのに時間が掛かる。


…何故私は、こんな極寒の地にいるのか。

それは時間を少しさかのぼる。



♢♢♢♢♢♢



アー・カディア聖王国せいおうこくのリナウェア(がい)

ここは私にとっての職場、冒険者ギルドがある街だ。


セントラルのメインストリートを通り過ぎ、薄暗い路地裏を入ると、メインストリートとは違う、怪しい賑わいを見せる通りに出る。


私の目的地は、小さな酒場がのきつらねる細い通りにあった。


いつものように、その中の一つであるギルドの酒場、通称【路地裏の黒猫亭】で仕事を探していると、パーティーを組まずにソロで活動している私を、たまに冒険に誘ってくるグサヴィエ・コウエンが声をかけてきた。


「おー!!ジーナじゃねーか!!」


見上げるほどの大きな体躯たいくと、顔から身体中まで、いたる所が傷だらけの、…まぁ気のいいオッサンである。


因ちなみにオッサンというと、俺はまだギリギリ30代だ!と怒る。

…私からすれば十分オッサンだ。

と言うか、絶対に40代後半だと私は思ってる。


グサヴィエの職業は戦士で、重装じゅうそうよろいを身に付けており、背中には背丈せたけほどの大剣たいけんを背負っている。


結構、精悍せいかんな顔つきで、イケおじと言っても良いかも知れない。

若い頃はさぞモテたであろう。


「グサヴィエ隊長…」


グサヴィエも私と同じでパーティは組まず、一人では困難な仕事をする時だけ誰かに声をかけ、即席のパーティを組むスタンスである。


お互い似てるスタイルのせいか、いつの間にか一緒に仕事をする事が増えていた。


若い頃は名の知れたSランク冒険者で、その頃はパーティも組んでいたらしいが、当時の仲間たちは皆んな、冒険者を引退しているらしい。


冒険者にはAからEまでランクがあり、そのランクによって受けられる依頼や報酬が変わる。


そしてこのランク付けをしているのは、世界冒険者ギルド連盟と呼ばれる組織。

ランクは冒険者達の活躍や貢献に応じてギルドの評議会の議員が決め、ランクに準じたカードが配られる。


因みにこのカードは冒険者にとっての身分証にもなったりするスグレモノ。

私も最低ランクのEではあるが、冒険者カードを持っている。


「仕事を探してるのか?」


「そう、隊長も?」


「隊長はよせっていってんだろ、俺はもうパーティは組んでないんだからな」


ガハハ!と豪快ごうかいに笑ったグサヴィエは、私に一枚の紙を突き付けてきた。


「…?ゾアルスブリズ雪山…雪の華?」


どうやら仕事の依頼書のようだ。


「一緒にどうだ?見ろ、報酬!200万ギャラーだぞ!」


「って事は取り分100万ギャラー…」


悪くない…。

いや、普通の花束が1,000ギャラーで買える事を考えると、花を採ってくるだけで200万ギャラーなら、詐欺と思えるくらいに破格の報酬だ。

問題は…。


「でも…ゾアルスブリズ雪山って、北のアーケトアにある…?危険度の高い所じゃなかった?って言うか、危険指定区域じゃない?」


「だから一人じゃ無理だと思って声をかけたんだよ」


この世界には、四女神よんめがみと呼ばれる四人の創造神そうぞうしんがいて、それぞれが北、南、東、西を守っている。


北の大地を守る女神シトラリクヴェは、自由奔放じゆうほんぽうで、人間の男と恋に落ち、女神である事をやめたという。


そのせいで、北の大地は人が住める土地ではなくなり、いつの間にか死の大地と化かしている。


しかしそんな北の大陸にも、少なからず人間は暮らしているものだ。


その国の名はアーケトア。

一年中が冬と言われる、北の大陸最果てに存在する国である。

草木も滅多に育たず、生き物もほとんどいない、死の大地だ。


そしてその地を治めているのは、見目麗みめうるわしい黒髪の美丈夫びじょうぶという噂だが、虐殺王ぎゃくさつおうと呼ばれている、拳銃を扱う男だ。


銃火器じゅうかき類は、北の大陸特有(とくゆう)の武器であり、北の人間以外は見た事すらないくらい、野蛮やばんな武器と言われている。


相手と間近まぢか対峙たいじする事もなく、遠くからでも、命を奪う事が出来る武器。

この銃を使っている事も、アーケトアの王が虐殺王と呼ばれる理由の一つでもあった。


どう考えても恐ろしい場所だ。

噂のイケメン王には会ってみたいが、命と引き換えてまで見たいかと言われると別にそうでもない。

ただの興味本位だ。


普段の私ならどんなに報酬が良くても、絶対に北の地には足を踏み入れない。


だけど、二人なら大丈夫だろ?と言ってくるグサヴィエに、私は頷いてしまったのだ。



♢♢♢♢♢♢



そして今に至る。

思い出した様に身体を見下ろせば、凍りついた指先の感覚がない。


「…ヤバいかも」


少し前に、モンスターと戦った時の傷も塞ふさがっていなかったが、極寒の中、幸運にも血がき出す事はなく、また痛みもない。


それでもぽつりと声を漏らすと、前を歩いていたグサヴィエが振り返った。


「ジーナ?大丈夫か?」


「大丈夫じゃない、…こんな場所に国があるとか信じられないな。その人達って人間なの?こんなの絶対人間の暮らす土地じゃない…」


ぼんやりとした頭で、考えるより先にぶつぶつと文句を言うと、グサヴィエは安心した様に前を向き直った。


「…アーケトアはここよりもさらに北に行った最果ての国だ。もっと過酷だぞ」


「…何でそんな過酷な所に住んでるんだろうね…。あぁ、あったかい飲み物が欲しい…」


「荷物の中にポットがあるぞ、さっき倒したモンスターから取った血が入れてある」


「はぁ?血ィ?そんなの飲みたくないよ」


「何言ってる、雪山で遭遇する、食べられるモンスターは貴重だぞ。特にさっきのモンスターの血肉は滋養強壮に良いし、身体も温まる」


「…肉なら火を通せば食べられるけど、生肉と血はさすがにいらない」


相変わらず無骨というか、何と言うか…。

私はグサヴィエみたいに、岩と見間違える巨漢じゃないのよ、女の子なの。


モンスターの生肉とか血とか、食べさせようとするあたりは、相変わらずの門外漢らしい。


「だったら口より足を動かせ。このままじゃ凍死だぞ」


「このままじゃっていうか、もう凍死しそう」


「まったく根性がないな。そもそも、あんな格下モンスター相手に手こずり過ぎだ」


「…さすが。半分以上が野性の人は言う事が違うわね」


「誰が野性だ」


呆れた様に肩をすくめるグサヴィエにそう言うと、私は辺りを見回す。


見えるのは白だけだ。

今どの辺りにいるのか。


山の中腹付近で遭遇したホワイトアウトのせいで、現在地が分かりにくいが、一応、目的地である花の生息地には近づいているはずだ。

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