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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

BL

いただきます

作者: 相沢ごはん

pixivにも同様の文章を投稿しております。


(ゆるふわ設定なので、細かいことは気にせずふんわり読んでいただけると助かります)

「兄ちゃんの名前は陸人っていうんだ。おれが海で、兄ちゃんが陸。かっこいいだろ。それでね、あのね。うちの兄ちゃん、ひきこもりなんだ」

 部屋の外から弟の拓海の無邪気な声が聞こえてきて、椅子の上で膝を抱えてぼんやりしていた俺は、驚いて椅子から落ちそうになってしまった。拓海の言葉は、「うちの父ちゃん、パイロットなんだ!」と友だちに自慢する子どものような響きを持っていた。兄のひきこもりを自慢してどうするんだ、と俺は静かに笑う。

「そうなんだ」

 と興味がなさそうに返事をしたのは、知らない声だった。拓海が学校の友だちでも連れてきているのだろう。

「そっち、兄ちゃんの部屋だから開けないでね」

「わかった」

 そんな会話を最後に、扉の閉まる音が聞こえた。ふたりは隣の拓海の部屋へ入ったようだ。

 俺は無意識に力の入っていた身体を、だらりと弛緩させる。さっきまで観ていた料理動画の続きでも観ようかとも思ったが、そんな気にもなれず、俺はノートパソコンを閉じた。そろそろ夕飯の買い物に行かなくては、などと思いながら、だらだらとベッドに横になり、隣の部屋から聞こえる声に耳をすませてみるが、はっきりと聞こえるのは笑い声だけで、話し声はぼそぼそとしか聞き取れなかった。ごろり、と寝返りを打ち、俺は目を閉じる。

 拓海は俺のことをひきこもりだと言うが、俺自身は少し違うと思っている。別に家や部屋から出ないわけではないからだ。用事があったら出かけるし、洗濯もそうじも、料理だってする。拓海の弁当をつくっているのも俺だ。食事も、ちゃんと拓海といっしょに食卓を囲んでいる。食卓で食事をしないのは、俺ではなく母親のほうだ。スーパーへ行くこともあるし、本屋へ行くこともある。図書館へ本を借りに行くことだってあるし、返しにも行く。散歩だってするし、映画だって観る。この前なんて、母親の確定申告を手伝った。そんなふうに言うと、

「じゃあ、兄ちゃんみたいなのはニートていうのかな? それとも家事手伝い?」

 と無邪気に尋ねられ、俺は黙ってしまった。それは間違いない。俺は家事手伝いという名のニートだ。高校を卒業したものの、大学受験に全滅し、就職活動すらせず、バイトもしていないのでフリーターですらない。進学の意欲もない現在、勉強もしていないので、浪人生とも呼べない。紛うことなきニート様である。しかし、うちの家計にはわりと余裕があるらしく、そんなぐうたらな俺にも両親はなにも言わない。

 母親は漫画を生業にしており、ずっと離れの仕事部屋にアシスタントと共にこもって、休む間もなく漫画を描いている。どちらかというと、俺よりも母のほうがひきこもりっぽい。別にお金に困っているわけではないのだから、仕事を減らすか引退するかすればいいのに、どうやら母はそのジャンルでは異例と言われるくらいの結構な売れっ子らしく、休養はよくても引退はままならないという。そもそも、母親本人に引退の意志がないらしいので、彼女は漫画の仕事が好きなのだろう。そういう話を、家に出入りしている担当編集者とアシスタントのひとたちから先日聞いたばかりだ。好きなことを仕事にできるなんて、幸せの極みだな、と働いていない俺は思う。

 父親は外資系の企業の役員をしており、一年のほとんどを海外で過ごしている。少女漫画家と外資系エリートの両親がどこで知り合ったのか、俺はずっと不思議に思っていたのだが、なんのことはない。聞けば、友人の紹介という平凡な、しかし素晴らしい出会いだった。持つべきものは友人である。

 まあ、そういう家庭環境だったものだから、物心ついた頃から、自然と俺が家事全般を担当するようになり、幼かった拓海の面倒も大半は俺が見ていた。しかし、現在では拓海も高校生になったし、自分のことはだいたい自分でしてくれるようになった。俺が、そろそろ休みたいなあと思ったとしても仕方がないんじゃないかと思う。などと自分を甘やかして、このていたらく。だが、自覚はあっても、やはりニートと呼ばれるのは抵抗がある。家事手伝いと呼ばれても、なんだか嘘くさい空気感が俺にはある。明るく染めていた髪の毛が伸びてしまい、プリンのような頭になったせいかもしれない。俺は別に、働いたら負けだ、なんて思っているわけではない。少し休みたいだけなのだ。休んだら働くつもりなのだ。だもので、

「やっぱ、ひきこもりでいいや」

 ニートや家事手伝いと呼ばれるよりも、ひきこもりと呼ばれたほうが、個人的にしっくりくるような気がして、俺は拓海になんとなくそう言った。

 そんなことを思い出していると、カチャ、と部屋の扉が開く音がした。

「拓海?」

 目を閉じたまま、俺は声をかける。

「友だちは? もう帰ったのか?」

「いえ、帰ってません。すみません」

 その返事は、明らかに拓海の声ではなく、俺はベッドの上でむくりと起き上がり、扉のところに立っている人物を見た。

 黒い学生服に、黒い縁の眼鏡、そしてまっすぐで短い黒髪。肌の色が白いので、この空間で彼だけがモノトーンに見える。

「え、どうしたの? 拓海の友だちだよね? 拓海は?」

 予想外の闖入者に戸惑いながら尋ねると、

「拓海は、いまトイレに……」

 モノトーンの彼はそう言った。

「あ、そう」

 それ以上なにも言えず、俺はただ、彼を見ていた。

「あっ、開けちゃだめって言ったじゃん」

 拓海の声が聞こえ、彼は慌てて俺の部屋の扉を閉めた。

 なんだったんだ、いったい。


 そろそろ本当に夕飯の買い物にいかなくては、と玄関に下りると、件の彼が帰るところだった。

「兄ちゃん、買い物?」

 拓海がでかい図体でまとわりついてきて言う。

「うん」

「今日の夕飯、なに?」

「なにがいい?」

「ハンバーグ!」

「ん、了解」

 俺たちの会話を黙って聞いていたモノトーンの彼が、

「お兄さんが料理をつくるんですか?」

 と、驚いたように尋ねてきた。

「兄ちゃんのごはんは、超うまいんだ。おれの弁当も兄ちゃんがつくってるんだよ」

 拓海が、まるで自分のことのように胸を張って言うので、なんだか照れくさくなってしまう。

「俺スーパー行くし、そこまでいっしょに行こうか。ええと……」

 名前を呼ぼうとして、そもそも名前を知らないな、と少し躊躇っていると、

「尾根政臣です」

 と彼は言った。

「じゃあ、政臣くん。そこまでいっしょに行こう」

 そう提案すると、政臣くんはおずおずとうなずいた。

「ずるい。だったらおれも行く」

 拓海は急いでスニーカーを履いた。三人で玄関を出る。

「そういえば、さっき、俺になんか用だったの?」

 歩きながら、政臣くんに尋ねると、政臣くんは言いにくそうに口ごもったあと、

「ひきこもりのひとの部屋って、どんなのか見てみたくて……」

 と呟くように言って、気まずそうにうつむいてしまった。

「なるほど」

 妙に納得して、俺は笑う。

「政臣は、兄ちゃんの部屋が汚部屋だと思ったんだよね? おしっこの入ったペットボトルとかあると思ったんでしょ?」

 拓海が言って、政臣くんをつつくものだから、俺はさらに笑ってしまう。

「でも、お兄さんの部屋はきちんと整頓されていて、すごくきれいでした。拓海の部屋よりも全然」

 政臣くんは笑った。眼鏡の奥の目が、思ったよりも優しいんだな、と思う。笑った顔は、たいそうかわらしい。通常時のモノトーンな印象とのギャップがすごい。俺が女の子だったら、思わずキュン死にしてしまうかもしれないくらいの笑顔だ。なんだ、こいつ。こんな色鮮やかな最終兵器を隠してやがったのか。

「ていうか、お兄さん、全然ひきこもりじゃないじゃないですか」

 政臣くんが、そう言って笑うので、政臣くんの笑顔から目が離せなくなってしまった。


 スーパーの前で政臣くんと別れ、拓海と食材を選びながら、

「政臣くんは学校でモテるだろう」

 と、なんとなく言うと、

「なに言ってんの、兄ちゃん。うちは男子校だよ。モテたら大変だよ」

 と返ってきた。そういえばそうだった。いや、でも、あれは男子高でも関係ないだろう。そう思ったが、その思想は危険だと瞬時に判断し、俺は口をつぐむ。

「ええと、にんじんにんじん。にんじんのグラッセ」

 ごまかすように口ずさむと、

「にんじんきらい。いらないよ」

 拓海が言う。昔から、好き嫌いの多いやつだ。

「食べなきゃ大きくなれないぞ」

「おれ、もう高校一年生だよ。大きくなったよ」

「そうだっけ?」

 俺の言葉に、拓海はくちびるをとがらせる。



 日曜日の朝、政臣くんが家に遊びに来た。そして、なぜか政臣くんはいま俺の部屋にいる。拓海もいっしょだ。

「政臣は、兄ちゃんと遊びたいんだって」

 拓海が言った。

「いいけど。遊ぶって、なにして遊ぶの?」

「お兄さん。僕に料理を教えてください」

 政臣くんは床に手をついて、思い詰めたような表情で言った。なんで、いちいちそんなに深刻そうなんだろう、と思いながら、

「いいよ」

 承諾すると、

「あっさりですね」

 と驚かれてしまう。

「時間だけは腐るほどあるからね、俺」

「お願いします!」

 政臣くんは、ほぼシャウトして、勢いよく頭を下げ、額を床にをごつんとぶつけてしまっていた。

 キッチンにおりて、カレーの材料を用意する。子どもが初めて作る料理といったら、カレーである。ということで、自動的に、本日の昼食はカレーだ。

 政臣くんは、自分で用意していた黒いエプロンを身につけている。なぜか拓海も俺のエプロンをつけている。

「おまえは別にエプロンしなくていいだろ」

「政臣だけずるい。おれも兄ちゃんに料理教えてもらう」

「おまえ、いままで料理したがったことなんてなかったじゃんか」

 呆れながら、政臣くんに野菜を洗わせる。

「米のとぎかたはわかる?」

 尋ねると、政臣くんは自信満々にうなずいた。

「お米だけはとげます」

「なら、米は拓海がとげ。カレーも大事だが、米も大事だ。炊き忘れたら号泣もんだぞ」

 拓海は素直に、俺の言うとおりに米を量り、ボウルで米をとぐ。洗剤で米をとぐひとがいると聞くが、拓海がそういうひとではなかったことに、俺はほっとする。

「とぐ時の力加減がわかんない」

 という拓海に、

「そんなの、テキトーでいいんだよ」

 と言うと、拓海は目をまんまるにして俺を見た。

「兄ちゃんは、いつもそんな感じで料理してたの?」

「料理なんて、適度に手ぇ抜いてテキトーにやってなきゃ、毎日続けらんないよ」

 俺の言葉に、へえ、と感心したような声をもらしたのは政臣くんだ。

「テキトー」

 政臣くんは、しみじみと言ってうなずいた。心に刻みつけるような、その呟きに、

「そんな言葉、しみじみ覚えなくていいよ」

 俺は思わず笑ってしまう。

 野菜を全部洗い終わった政臣くんに、

「これで皮を剥こう」

 とピーラーを手渡す。

「料理番組とかでは、よく包丁で皮を剥いてるけど、慣れないうちはこっちのが断然らくちんだ」

「なるほど。テキトーですね。テキトー」

 政臣くんは呪文のようにそう唱えながら、ぎこちなくじゃがいもの皮を剥いていく。

「指、気をつけて。芽はちゃんと取ってね。ピーラーの角の穴でぐりっとくり抜けば簡単だから」

「はい」

 こくこくとうなずく政臣くんは、自分の手の中のじゃがいもの世話でいっぱいいっぱいな様子だ。

 拓海はというと、炊飯器のスイッチを入れた後は、ただただ無言でにんじんを見つめている。

「拓海、カレーのにんじんは食べられるだろ。はい、剥いて」

 予備のピーラーを手渡すと、拓海はやはり無言で受け取り、素直に皮を剥き始めた。拓海は、急に元気がなくなったみたいだ。しかし、素直に言うことを聞くところを見ると、拗ねているわけでもなさそうだ。いったい、どうしたんだろう。そう思いながら、俺はたまねぎの皮を剥く。目がシパシパするのはいやだから、切るのはふたりにやらせよう、などと思いながら。

 肉は、すでに一口大に切ってある鶏肉を冷凍していたので、それを使った。

「切ってあるのも売ってるけど、ちょっと高いから、豚でも牛でも、好きな肉を自分で切って冷凍しておくといいよ」

 政臣くんは素直にうなずく。

 具材が用意できたら、あとは炒めて煮るだけだ。料理でいちばん面倒くさいのは、具材を切る作業だと俺は思っているので、あとはらくちんだ。

 できあがったカレーを、皿によそう。野菜の形は少しいびつだったが、ちゃんとおいしそうだ。大きな失敗の起こりえない素晴らしい料理。それがカレーだ。

「こうやって、できあがった料理を皿に盛りつける瞬間が、いちばん好きなんだ」

 俺は言う。

「おいしくできるとうれしいだろ?」

 ふたりに言うと、政臣くんはにっこりと色鮮やかに笑ってうなずき、俺をキュン死にさせかけた。拓海のほうは泣きそうな顔で、こくこくとうなずいている。

「拓海。おまえ、さっきからどうしたんだよ」

 さすがに心配になって尋ねると、

「兄ちゃん、料理するのいやだったのかと思って」

 拓海は言った。

「テキトーにやってるって。テキトーにやらなきゃ、毎日続けられないって。だから、本当は、毎日料理するのいやだったのかもと思って。おれがいるから、仕方なく料理してたのかと思って。それなのに、おれ、いままで全然手伝いとかしなくて、だから……」

 拓海はうつむいて、ぼそぼそと言う。俺の何気ない言葉で、拓海がそんなことを感じていたとは思わなかった。

「たしかに、面倒くさいこともある」

 俺は考え考え口を開く。

「ひとりだったら、しんどかったかもしんない。だけど、俺の作った料理を、おまえがおいしそうに食べてくれると、俺はうれしいんだよ。面倒くさいってのがチャラになるくらいには。だから、今日まで毎日、料理を続けられたんだ」

 拓海は、ぱちぱちとまばたきをし、それから泣きそうな顔で笑った。

「政臣くんも、そういう感じで料理するといいよ」

 政臣くんは、きょとんと俺を見る。

「食べてくれるひとの、おいしいって顔を想像して料理すると、きっとおいしくできるよ」

 政臣くんは、眼鏡の奥の目をキラキラさせて、ぶんぶんと首を縦に激しく動かした。うなずいているのだろう。

 それから、三人で食卓を囲み、

「いただきます」

 と声をそろえて、カレーを食べた。

「カレーって言うより、カレーライスって言うほうがおいしそうだよな」

「じゃあ僕、今度からカレーライスって言います」

「おれも!」

 と、そんな他愛もない話をしながら。政臣くんも拓海も、おいしいおいしいと言って、笑っていた。それは、とっても幸せな景色だった。



 それから、毎週日曜日に政臣くんは家に遊びに来るようになった。カレーやシチューはひととおりつくり、今日はサラダをつくっている。野菜とハムを切って、市販のドレッシングをかけるだけの簡単サラダだ。近所のパン屋でバターロールを買ったので、それといっしょに昼食にするつもりだ。

「サラダは、カレーやシチューの時に添えて出すといいよ。野菜も食べないとね」

「はい」

 きゅうりを切りながら、政臣くんが返事をする。拓海は、料理をつくる気は既に全くないらしく、ただ政臣くんの隣に立って手元を覗き込んでいる。この間の、しおらしかったおまえはどこに行ったんだ。

「拓海。政臣くんの邪魔すんなよ」

「してないよ。してないよね、ね、政臣」

「うん」

 政臣くんは拓海に笑いかける。眼鏡の奥の目が、やさしく細められる。それから、また手元のきゅうりに視線を落とし、薄さを同じにしようと奮闘している。薄さなんて、少々薄くても厚くてもいいのだが、政臣くんは根が真面目なのだろう。きっちりと大きさをそろえて切りたがる。

「そんなにきっちりしなくてもいいんだよ」

「はい」

 返事はするものの、やはり手元はきっちりしている。

 俺は、冷凍していた昨晩の残りのオニオンスープを湯煎であたため直す。政臣くんがそれをじっと見ているのに気づき、

「スープは、また今度教えるね。簡単だよ」

 と言うと、

「はい」

 政臣くんは、かわいい顔でうれしそうに笑う。俺の中のなにかが、確実にキュン死にした。

 政臣くんのお母さんが入院しているらしいと拓海に聞いたのは、昨日のことだった。夕飯を食べながら、拓海は言った。

「政臣のおかあさん、入院してるみたい。いま、家にお父さんとふたりなんだって」

「ああ、それで」

 それで料理をつくれるようになりたかったのか。

「お母さん、病気かなにか?」

 それは、政臣くん心配だろうなあ、と思いながら尋ねると、

「ううん。妊娠してるんだって。政臣には、きょうだいができるんだ」

 と意外な答えが返ってきた。

「え。それはそれは。ずいぶん年の離れたきょうだいだな」

「うん。でも、政臣とおかあさんは血が繋がってないんだよ。政臣を産んだお母さんは、政臣が小学生のころ亡くなってて、いままでずっと家政婦さんが来てくれてたんだって。その家政婦さんと政臣のお父さんが一昨年結婚して、家政婦さんは政臣のおかあさんになったんだ。それでいま、妊娠して入院してるんだって。赤ちゃんが予定よりもずっと早く出てきちゃいそうだから、危ないんだって。それで早めに入院しなくちゃいけなくなったんだって」

「なるほど」

 俺はうなずいた。よそのご家庭にも、いろいろある。


 政臣くんは、今度はハムをきっちり同じ大きさに切っている。真剣になりすぎて体温が上がっているのか、眼鏡が少し曇っている。

 政臣くんは、誰のおいしい顔を思い浮かべているのだろう。お父さん? おかあさん? それとも、生まれてくるきょうだいだろうか? 政臣くんのきょうだいが、元気に生まれてきて、早くみんなで食卓を囲めるようになればいい、と思う。

 政臣くんのつくったサラダは、ほぼ同じ大きさにちぎられたレタスと、きっちりと丁寧に切りそろえられたきゅうりとハムのおかげで、俺がつくるものよりも数倍きれいな出来映えだった。皿に盛りつけ、プチトマトをふたつずつ添える。

「ドレッシングはお好みでね」

 市販のドレッシングを三本ほどテーブルに出し、あたためたオニオンスープをスープ皿によそう。トースターで少し焼いておいたバターロールを出して、三人で食卓を囲んだ。

「いただきます」

 声をそろえると、なんだかうれしい。

「妹ができるんです」

 政臣くんが言った。

「早く大きくなって、いっしょに料理ができるといいです」

 そう言って、政臣くんはうれしそうに笑う。

「そうだね。ちゃんと料理教えておかないと、おれみたいに手伝わない子になっちゃうよ」

 拓海がそんなことを言うので、俺は思わず笑ってしまう。

「そうか。俺が料理を教えなかったのがわるかったのか」

「そうだよ」

 拓海は言って、笑った。

「まあ、拓海も俺がいなくなったら自然と自分でするようになるだろ」

 何気なく言うと、

「え」

 と拓海が固まってしまった。

「どうした?」

「兄ちゃん、いなくなるの?」

「すぐにじゃないよ。当分は家にいるけどさ、いつまでもってわけにもいかないだろ。働くようになったら、職場によっては家から通えないかもしれないし」

「いやだ!」

 拓海は叫ぶように言った。

「兄ちゃん、働かないで! ずっとひきこもりでいてよ!」

「うーん」

 難しいことを言う。政臣くんのほうをちらりと見ると、あからさまに寂しそうな顔をしていたので、こっちもか! と驚く。

「もう少し先のことだよ。しばらくは家にいるから」

 安心させるように言うのだが、納得していないのか、ふたりとも無言でサラダのきゅうりをぽりぽりとをかじっている。

 そんなふうに寂しがられると、働く気が起きなくなっていまうではないか。これは、あぶない。あぶないぞ。



「り、り、り、陸人さん!」

 意を決したように名前を呼ばれ、驚いた。

「うん?」

 振り返ると、政臣くんがたまねぎを持って俺を見ている。今日は、オニオンスープをつくるのだ。正確には、オニオンスープというほどでもないなにかなのだけど。

「たまねぎは、どんなふうに切りますか?」

「うん。まず、縦に半分に切って。それで、あとは繊維にそって薄く切って」

「はい」

 政臣くんはうなずいて、たまねぎの皮を剥き始めた。しかし、俺のほうにちらちらと視線を向けてくるのが気になる。

「どうしたの?」

 尋ねると、

「あの、ええと」

 と口ごもる。

「お兄さんのこと、陸人さんって呼んでもいいですか?」

 改めて尋ねられ、

「あ、はい。いいですよ」

 思わず敬語で答えてしまった。

「あの。僕、陸人さんともっと仲良くなりたい。です」

 顔を真っ赤にして言われる。急にどうしたんだろう、政臣くんは。そう思いながら、俺もつられて赤くなってしまう。

「うん。仲良くしようね」

 と、うなずくと、政臣くんはうれしそうに笑った。キュン死に。

「兄ちゃん、おれとも」

 政臣くんにくっついていた拓海が言う。

「おまえとは、もうずっと仲良くしてるだろ」

「うん、そっか」

 拓海は元気よく言い、にかっと笑った。

 政臣くんは涙を流しながら、ゆっくりと丁寧に、たまねぎを薄く切る。眼鏡はガードとしては弱いらしい。拓海は、たまねぎの被害を恐れたのか、食卓のほうへ避難していた。

「政臣くん」

 俺は、顔を上げた政臣くんの眼鏡を外してやり、濡れタオルで涙を拭ってやる。眼鏡を外した政臣くんの顔は、なんだか少し、なにかが足りないような気がする。眼鏡込みで政臣くんの顔は完成しているのだろう。まじまじと見ていると、目をそらされた。いけない。気をわるくさせただろうか。

「代わろうか?」

 目がつらそうなので言うと、政臣くんはふるふると首を横に振る。

「自分でやらないと」

「そっか」

 おれはうなずいて、鍋に水をためる。それに政臣くんの切ったたまねぎを入れ、コンロの火を点ける。

「根野菜は水から、葉野菜はお湯から、ね。でも、あんまり気にしなくていいよ。要はやわらかくなればいいんだから」

 俺はまたテキトーなことを言う。政臣くんは相変わらず素直にうなずいている。

「鍋が沸騰するまでにキャベツを切って、沸騰したら入れようか」

「はい」

「野菜は、お好みで増やせばいいよ。にんじんとか、じゃがいもとか、ブロッコリーとかね」

「はい」

「ベーコンかウインナーも入れてもおいしいよ」

「はい」

 言いながら、俺はウインナーを出して、一口大に斜めに切っていく。

 その隣で、政臣くんは、キャベツをざくざくと刻む。俺が、特に指示を出さず、「テキトーでいい」と言ったので、素直にテキトーにやっているのだろう。沸騰した鍋に、キャベツとウインナーを入れると、今度は味付けだ。

「味付けは、これね。固形コンソメ。粒状でもいいよ」

「どのくらい入れますか?」

「テキトー。ひとつ入れて味みて、足りないと思ったらもうひとつ入れて。そんな感じ。最後は塩こしょうで味を調えて」

「はい」


 完成したオニオンスープは、キャベツを入れたせいでどちらかというと野菜スープ寄りになってしまったが、野菜のやわらかさは絶妙だった。

「おいしくできたね」

 そう言って、政臣くんの髪の毛をぐしゃぐしゃとやると、

「陸人さんのおかげです」

 政臣くんは顔を赤らめて恥ずかしそうに微笑んだ。本日二度目のキュン死にだ。

「いただきます」

 三人で食卓を囲む。ごはんと野菜スープという、なんだかちぐはぐな食事だったが、妙においしかった。

「つくれる料理が、どんどん増えていくね、政臣」

 拓海は、自分のことのようにうれしそうにしている。こいつの、こういうところは素晴らしいと常々思う。

「うん」

 うなずいて、政臣くんも、うれしそうににっこり笑う。

「陸人さんの好きな食べものは、なんですか?」

 と尋ねられ、

「うーん。味噌汁かな」

 少し悩んで、そう答える。味噌汁は、初めてつくれるようになった料理だ。だからかもしれない。俺は、自分以外の誰かのつくった味噌汁というものが好きだ。

「おれはハンバーグ」

 拓海が言うので、

「知ってるよ」

 俺は笑う。

「政臣くんの好きな食べものは?」

 お返しのように尋ねると、

「カレーライスです」

 政臣くんは、にっこり笑ってそう言った。



 日曜日の朝、いつものように政臣くんがやって来た。今日は拓海が出かけているので、ふたりだけだ。他の友だちと遊びに行ったらしい。

「今日は、味噌汁と肉じゃがと焼き魚をつくります」

「はい」

 一度に一品だけでなく、同時に数品できるようになればいいのだが、慣れないうちは、やはりひとつひとつつくっていくしかない。

「まず、肉じゃが」

 野菜を洗って切るところまでは、カレーと同じだ。

「水はカレーより少なめ。だしパックを入れて沸騰させる」

「はい」

「市販のでもいいし、お茶パックだけ買って来て、かつおぶしや煮干しを砕いて入れて、自分でつくってもいい」

「はい」

 政臣くんはこくこくとうなずく。

「沸騰したら、砂糖とみりんと醤油でテキトーに味付け。足りないなあと思ったら、めんつゆ入れてもいいし。味見しながらやっていこう」

「はい」

 あとは、だしパックを上げて、具材がやわらかくなるまで弱火で煮るだけだ。

「それから、味噌汁。味噌汁にも、だしパックを使う」

 鍋に水を入れ、だしパックを投入して沸騰させる。

「その間に具を切ろう。具はなんでもいいよ。政臣くんはなにが好き?」

 尋ねると、

「陸人さんは?」

 と反対に訊き返された。

「俺は、大根と豆腐かな」

「じゃあ、大根とお豆腐のお味噌汁をつくりたいです」

 政臣くんは、にっこりと笑って言う。

「了解」

 キュン死にしながら、俺は言った。

 大根は薄く切れと指令を出したので、政臣くんは丁寧に大根を刻んでいる。

「テキトーでいいんだよ」

 と言っても、「はい」と返事をするだけで、丁寧に丁寧に包丁を動かしている。

 刻んだ大根を沸騰した鍋に投入し、柔らかくなるのを待つ。大根がやわらかくなったら、だしパックを鍋から上げて、味噌を溶かしていく。

「味を見ながらね。味噌を入れた後は、沸騰しないように気をつけて」

「どうしてですか?」

 尋ねられ、どうしてだったかな、と一瞬考えてしまう。

「風味が飛んじゃうから」

 と言った後、「たぶん」と付け加えると、政臣くんは、

「テキトーですね」

 と笑った。俺も、ごまかすようにへらりと笑う。

「豆腐は、味噌を溶かした後に入ようね。てのひらで切ると、鍋に入れる時に簡単だよ。こわいかもしれないけど、包丁を横に引かなきゃ大丈夫だから」

「はい」

 政臣くんは、豆腐をてのひらにのせたまま、じっと固まっている。

「俺がやろうか?」

「いえ。自分でやります」

 政臣くんは、おそるおそる包丁を動かす。

「大丈夫。上手、上手」

 俺が言うと、政臣くんはほっと息を吐いて、肩の力を抜いた。豆腐を投入した味噌汁は、一旦火を止める。食べる時にあたため直せばいい。

「魚は、切り身を買うと焼くだけでいいから、簡単だよ。今日は、鮭の切り身。グリルを使うと洗うのが面倒だから、フライパンで焼くといい。魚を焼く用のアルミホイルがあるから、それで焼くと皮がくっつかないよ」

「はい」

 焼き魚は、こまめに監視していないと、ふとした瞬間に焦げてしまっていることがある。そう言うと、政臣くんは神経質なくらい、鮭の裏表を確認していた。そんなことをしていたら、そもそも火が通らないんじゃないかと思うくらい。

 なんとか、鮭がいい具合に焼き上がり、肉じゃがと味噌汁を器によそった政臣くんは、にこにことそれらを眺めている。その様子は、とってもかわいい。おいしそうにできたから、うれしいのだろう。


「いただきます」

 ふたりで手を合わせ、声を合わせる。拓海がいないので、少し寂しい気もするが、政臣くんとふたりでごはんを食べるというのも、なかなか楽しいかもしれない。

「あの。陸人さん、おいしいですか?」

 政臣くんが、味噌汁を飲んでいる俺の顔をじっと見て、おそるおそるというように尋ねる。

「うん。すごくおいしい」

 俺の言葉に、政臣くんは色鮮やかに笑った。実際、政臣くんのつくった味噌汁は、おいしかった。たぶんこれから先、政臣くんは俺よりも、もっとずっと料理が上手になるだろうな、と思う。

「陸人さんの、おいしいって顔を思い浮かべながらつくったんです」

 ふいに、政臣くんが言った。

「あ、そうなの。うれしいな」

 俺が言うと、政臣くんは顔を真っ赤にして笑った。俺も笑う。政臣くんに、そんなふうに思ってもらえたのが、うれしかった。


 政臣くんが食器の片付けをしてくれると言うので、その言葉に甘え、俺はリビングのソファでオレンジページを読んでいた。料理のなにが面倒くさいって、具材を切ることと後片付けだ。誰かがやってくれるなら、思いきりそれに甘えたい。

 食器を洗い終わった政臣くんがやって来て、俺の隣にちょこんと座る。拓海ほどではないにしろ、政臣くんも俺と同じくらいにはでかいので「ちょこん」という表現は変かもしれないが、政臣くんの座り方は、まさしく「ちょこん」なのだった。

「片付け、ありがとね」

「いえ、いいんです」

 政臣くんは首をぷるぷると振る。

「り、陸人さん。あの、ええと……」

「うん。なに?」

 政臣くんは、しばらくもごもご言っていたが、急に俺の右手を取り、そのささくれた指に静かに口づけて、言った。

「好きです」

「え」

 オレンジページが、俺の膝から床に滑り落ちる。

「僕、陸人さんのことが、好きです」

「え、なんで?」

 急なことだったので、動転した俺は思わず訊いてしまう。

「な、なんで!? なんでって……」

 理由を訊かれるとは思っていなかったのか、政臣くんは慌てたように視線を泳がせ、言った。

「陸人さん、やさしいし、陸人さんといるとドキドキします。ほめてもらえると、すごくすごくうれしいです。だから、僕は陸人さんのことが好きなんだと思います」

「気の迷いではなくて?」

 そう尋ねると、政臣くんは、とんでもなく悲しそうな顔をした。

「ごめん。うそ」

 思わず謝ってしまう。

「でも、勘違いかもしれないでしょ? 政臣くん、男子校だし、なんていうか、その、そういう、ね、恋愛とかに慣れてないっていうか。俺を好きって、そういう好きじゃないけど、そういう好きだって勘違いしてるのかもしれないじゃない。まだ若いのに、ここで道を誤るのもどうかと思うんだけど」

「でも、僕は……」

 政臣くんは、きゅっと眉根を寄せ、うつむいてしまう。しまった。政臣くん、泣きそうだ。

「あー、ごめん。ごめんね。どうしよう」

 どうしよう。どうすればいいんだろう。政臣くんは、きっと勘違いをしている。俺への親愛の情を、恋愛感情だと思い込んでいるのだろう。

「ええと、じゃあ、キス、とか、してみる?」

 言ってみた。少しでも躊躇うようなら、きっと勘違いだと気づいてくれるだろうと思って。

「え?」

 政臣くんは、戸惑ったように俺を見る。やっぱり、キスには躊躇いがあるのだろう。政臣くん、きっと初めてだし。

「あ。いやならいいんだよ」

「ぜっ、全然っ! 全然いやじゃないです! したいです!」

 政臣くんがこちらに身を乗り出してきたので、俺は思わず身を退いてしまう。

「え、したいの? 別にいっかって感じじゃなくて、積極的に?」

「し、したいです。積極的に……」

 言いながら、政臣くんは真っ赤になった。そして、

「ずっと、したいと思ってました」

 と呟くように言うのだ。これは、政臣くんは本当に本気かもしれない。自分から言い出してしまった手前、後には退けない。ここで、やっぱうそでした、なんて、政臣くんを傷つけるに決まっている。できることなら、政臣くんを傷つけたくはない。そう思い、俺は腹をくくる。

「眼鏡、どうする? はずす?」

 眼鏡をかけている政臣くんは、とってもかわいいけれど、キスをするなら眼鏡は邪魔かもしれない。

「え、あ、どうしよう」

 少し考えるそぶりを見せ、政臣くんは、

「陸人さんの顔見たいんで、そのままでいいです」

 などと言う。そんなことを言われ、今度は俺のほうが赤くなる。

「顔見たいって、政臣くん、目、閉じないの?」

「せっかくなんで、開けときます」

「いや、でもそれ、なんか恥ずかしいんだけど」

 ごちゃごちゃ言っていると、

「ごめんなさい。します」

 政臣くんが言い、俺は反射的に目を閉じていた。ところで、俺が政臣くんにキスをするんじゃなくて、政臣くんが俺にキスをするんだね。そんなことを考えながら、政臣くんの唇のやわらかい感触を確かめていると、ぬるり、と唇をこじ開けて舌が侵入してくる。

「ちょ、ちょ、ちょっと、まま待って待って待って!」

 思わず、政臣くんの身体を押して距離を取ってしまった。

「いきなりそんな、濃厚な」

「あ、あ、ごめんなさい」

 言葉だけはしおらしいものの、政臣くんの表情は、狙った獲物を仕留めようとしている鷹そのもので、俺はなんだか怯んでしまう。

「あの……もういっかい、してもいいですか?」

 潤んだ目、それでいて強い眼差しで見つめられ、

「な、え、も?」

 なぜだか否と言えない。俺は口をぱくぱくさせながら、意味のない音を羅列し、

「い、い、いいよ」

 いつの間にか、うなずいてしまっていた。

 目を閉じるよりも先に、政臣くんの顔が素早く至近距離に迫ってきて、唇が重なる。

 あれ。目が合ってる。どうしよう。政臣くん、本当に目開けてるんだけど。羞恥に耐えられなくなり、俺はぎゅっと目を閉じる。頭の芯がぼんやりと痺れ、どこか、なにかにつかまっていないと、この世界から切り離されてしまうのではないかという錯覚に陥ってしまい、俺の手は、政臣くんのエプロンの胸元を、ぎゅうぎゅうと強く握っていた。

 高校を卒業してニートになってから、女の子と知り合う機会なんて全くなかったものだから、ここしばらく、キスもセックスもしていない。だからか知らないけれど、政臣くんとのキスは、とんでもなく気持ちがよかった。

 唇が離れ、

「陸人さん、めちゃくちゃかわいい……」

 思わず、という感じで政臣くんからこぼれた言葉に、俺の顔は、これでもかというほど熱くなってしまった。

 母の描く漫画の主人公は、こんな感じなのだろうか。



 あれから、なにか変わったかというと、政臣くんのスキンシップが過多になった。ベタベタさわってくるというわけではないのだが、さりげなく、いつの間にか、腕や腰や背中に政臣くんの手がまわっているのだ。はっきり言って、落ち着かない。

「政臣くん」

「あ。ごめんなさい」

 政臣くんは、俺の腰からぱっと手を離し、豚の生姜焼きの下ごしらえを再開する。

「醤油とすりおろした生姜と酒を混ぜたものに豚肉をしばらく漬けておいて、下味を付ける。ぶっつけ本番で豚肉を焼きながら味付けしてもいいけど、まあこっちのほうが慌てなくていいから」

「はい」

「生姜は、すりおろしたやつを瓶で売ってるから、それを使うとらくちんだよ。好みで砂糖を入れる家もあるみたい」

「はい」

 素直に返事をしながらも、政臣くんの手は、今度は俺の腕にふれ、撫でさするように動く。

「政臣くん」

「ご、ごめんなさい。なんか、我慢できなくて」

 その言葉に、この子はそんなに俺のことが好きなのか、と驚いてしまう。我慢するというのは、人間の基本だと俺は思う。それができないなんて、相当じゃないか。ああ、そうだ。拓海の目がないのも原因のひとつかもしれない。今日は、拓海は寝坊していて、まだ起きてきていない。政臣くんはきっと、ふたりきりだと自制心が利かないタイプだ。

「妹ちゃんは、いつ生まれるの?」

 政臣くんの気をそらせようと、俺は尋ねる。

「いつ出てきちゃうかわからない状態なんですが、一応、来週が予定日ってことになってます」

 答えた政臣くんの手元は、真面目に豚肉に下味を付けていて安心する。

「そっか。心配だね」

 言いながら、俺は付け合わせをなににしようかと考える。調理するのが面倒くさいので、キャベツの千切りでいいかと、野菜室からキャベツを出してきて刻む。そうしているうちに、政臣くんのほうの作業が終わったようだ。

「豚肉を漬けてる間に、味噌汁をつくろうか」

「はい」

 政臣くんはうなずき、

「陸人さん」

 と俺を呼ぶ。

「うん?」

「あの。キスしてもいいですか?」

「え、なんで?」

 唐突に言われ、俺は驚いて少し身を退いてしまう。

「したいんです」

 そう言われましても。じりじりと後退していると、背中が食器棚に突き当たる。逃げ場がない。政臣くんの背は俺と同じくらいなので、顔を近づけられたら、あとは簡単に事が運んでしまう。

「ごめんなさい。します」

 腰に腕をまわされ、心臓が縮んだような心地がした。思わずぎゅっと目をつむる。まあいいか。いやじゃないし、気持ちいいし、まあいいか。そう開き直って、抵抗すらしなかった。その時、

「あれ」

 微かな笑いを含んだ拓海の声が耳に入る。俺は慌てて、政臣くんの身体を押し戻す。

「おはよーう」

 パジャマで頭に寝癖をつけたまま、拓海は言った。

「おはよう」

 俺と政臣くんも言う。

「びっくりした。ふたりとも、超仲良くなってるじゃん」

 拓海は無邪気に笑いながら言った。政臣くんのほうをちらりと見る。政臣くんは、にっこり笑って、うん、と小さくうなずいていた。うわうわうわ、肯定しちゃってるし。

 違うんだ、と言おうとして、でも、そんなことを言うと政臣くんが傷つくんじゃないかと思うと、言葉が出てこない。結果、俺は酸欠の金魚のように、口をぱくぱくさせるしかない。

「政臣くん、味噌汁つくってて。具は好きにしていいからね。俺、ちょっとソファで休んでる。豚肉焼く段階になったら呼んでね」

「はい。大丈夫ですか?」

「うん。平気」

 俺はリビングのソファで膝を抱え、恐竜のたまごのようにまるくなる。なにも考えない。キッチンからは、政臣くんと拓海の楽しげな声が聞こえてくる。ちょっと混ざりたいと思う。いやいや、なにも考えないぞ。


「味噌汁できました。お肉、焼きます」

 政臣くんが呼びにきた。膝にうずめていた顔を上げると、政臣くんが俺を見下ろしている。黒い髪の毛、黒い縁の眼鏡、白い肌、白いシャツ、黒いエプロン。モノトーン。眼鏡の奥の目だけ、きらきらしている。政臣くんの目は、きれいだ。

 両手を差し出すと、政臣くんが握ってくれる。そのまま手を引かれ、俺は立ち上がる。

「フライパンで、裏表焼く。少し焼き目がつくくらい。でも、焦がしちゃだめだよ」

「はい」

 俺の言葉に、政臣くんはうなずいた。

 生姜焼きもできあがり、味噌汁の鍋を確認すると、大根と豆腐が入っていたので、胸の奥がくすぐったくなる。大根と豆腐の味噌汁は以前つくったのだから、今度は自分の好きな具でつくればいいのに。たぶん政臣くんは、俺の好きなものをつくろうとしてくれているのだ。

 俺は、大事に「いただきます」を言う。


 三人でごはんを食べ終わり、食後のお茶を飲んでいるところに、携帯電話の着信音が鳴った。初期設定のままのそっけない電子音は、政臣くんの携帯だ。

「あ。お父さんからです」

 言って、政臣くんは通話ボタンを押す。うん、とか、はい、とか短くうなずいて、政臣くんは通話を切る。

「赤ちゃんが、出てきそうって」

 政臣くんは、震える声で言った。

「病院から連絡があったみたいです。どうしよう。こんなに早く。どうしよう。お父さんは先に病院へ行ってるって、いま……」

 おろおろと携帯を撫でている政臣くんの顔は真っ青だ。

「行こう」

 拓海がきっぱりと言った。その声で、俺にもスイッチが入る。

「うん、行こう。拓海、母さんの車のキー持って来て」

「兄ちゃんが運転すんの?」

「他に誰がするんだよ」

 微妙に不安そうな顔をする拓海に、大丈夫だ、と言ったものの、自信はない。運転免許は持っているが完全にペーパードライバーなのだ。

「大丈夫」

 俺は、もう一度言う。自分に言い聞かせるように。そして、政臣くんを安心させるために。

 母の車の後部座席に政臣くんを押し込む。

「おかあさんが死んじゃったらどうしよう、赤ちゃんが死んじゃったらどうしよう……」

 政臣くんは両手をぎゅっと握り、ぶつぶつと呟いている。察するに、かなり危険な状態ではあるらしい。きっと、すごくこわいだろうと思う。政臣くんを産んだお母さんは亡くなったと聞いた。もし、いまのおかあさんまで亡くなってしまったら、政臣くんは、母親を二度も失うことになる。こわい。そんなこと、あってはいけない。俺は、思わずハンドルをぎゅっと握る。拓海は、なにも言わず政臣くんの隣に座り、政臣くんの手首を掴んでいた。

「行くぞ」

 エンジンをかける。

「シートベルトしてね」

 言って、俺はアクセルを踏んだ。


 政臣くんに言われた総合病院に到着し、政臣くんの後について、産婦人科の分娩室に向かう。政臣くんのお父さんが待っていた。ちらりと聞こえた、政臣くんとお父さんの会話によると、深刻な状態はとりあえず脱したらしい。安心する。

 廊下の待ち合いのソファに座り、俺と拓海は放心したようにじっとしていた。政臣くんは、お父さんと共に、出産に立ち会っている。俺たちは所在がない。

「キスするほど仲良くなるって、どういう感じ?」

 拓海が唐突に訊いた。どういう感じ? 俺は、その質問に、どう答えたらいいのかわからない。

「政臣くんは、俺のことが好きらしい。キスをしたいと思うくらいに」

「おれも兄ちゃんが好きだけど」

「おまえ、俺とディープキスできる?」

「うーん、さすがにディープなのは無理かな」

「俺も無理だ。でも、政臣くんとはできちゃうんだ。不思議だな」

「じゃあ、それでいいんじゃない。兄ちゃんにとって、政臣が特別だってだけでしょ。それだけのことだよ。不思議でもなんでもないじゃない」

 拓海は言う。まさか弟に諭される日がくるとは思ってもみなかった。

「そうか。そうだな」

 俺はゆっくりとうなずく。


 しばらくすると、ほやあほやあ、と赤ん坊の声がきこえてきた。よかった。政臣くんの妹は無事生まれたようだ。続けて、政臣くんとお父さんの、「はじめまして!」といううれしそうな声がきこえてきたものだから、俺と拓海は顔を見合わせて、笑ってしまう。あの様子だと、母体も無事のようだ。本当によかった。

 俺は、拓海を促して病院を出る。家族の邪魔をしてはいけない。

「ところで、おまえ、パジャマじゃないか」

 拓海の姿を見て、俺は笑う。

「我に返ったらすごく恥ずかしいよ。病院内だったからかろうじて目立ってなかったけど、早く車に乗っちゃおう」

「起きてすぐ着替えないから、そういうことになるんだぞ」

「もう、いいじゃん。今日はいいじゃん」

「そうだな」

 晴れやかな気持ちで、俺たちは笑う。



 月曜日、午後三時。俺は三人分の紅茶とホットケーキをトレイにのせ、離れの母の仕事部屋へと向かった。

「陸人でーす」

 名のりながらドアを頭突きでノックすると、アシスタントの田丸さんが開けてくれる。

「りっくんひさしぶり。てか、なにこれ。うそ。超うれしい」

 田丸さんは挨拶もそこそこに、俺からトレイを奪い取る。久々の獲物を見つけた肉食の獣のようだ。

「いま、忙しい?」

 尋ねると、

「ううん、大丈夫。もうちょっとで修羅場だけど」

 と返事があった。それはつまり忙しいのではないかと思っていると、

「締め切りギリギリで忙しくならないように、いまがんばってるのよ」

 田丸さんはにんまりと笑う。目の下のクマがこわい。

「先生、めーちゃん。休憩しましょう!」

 田丸さんが、母ともうひとりのアシスタントを呼ぶ。ふたりはぼんやりと顔を上げ、作業を中断し、のっそりとホットケーキに集まってきた。しゃべることで頭と体力をつかいたくないのだろうか、無言がこわい。

「陸人。今日はなにか頼みごと?」

 母が、ホットケーキをもぐもぐとやりながら、ぼそりと言う。

「うん」

 さすが母親だ。一発でばれてしまった。俺はうなずいて、

「母さんの漫画、読みたいから貸して」

 と単刀直入に言った。

「どうして?」

 母は怪訝そうな顔で俺を見る。

「精神衛生上、あ、これは私の精神衛生上ね。私の漫画を子どもには見せたくないんだけど」

 母の言葉はもっともで、机の上の作業途中の漫画原稿には、鉛筆描きの見目麗しい青年たちが必要以上に絡み合っている。母が描いている漫画は、そういうジャンルのものが大多数だ。地上波ではないものの、アニメにもなったと聞いている。しかし、母は昔から、自分の描いているものを俺や拓海に見られるのを極端にいやがるため、俺たちはその内容を漠然としか知らない。つまり、母が描いているのはボーイズラブと呼ばれる漫画だ、ということしか知らないのだ。

「平気だよ。俺もう子どもじゃないし」

 何気なく言うと、

「むふ」

 と、めーちゃんの口から含み笑いがもれる。めーちゃんのこの唐突な笑いはいつものことなので、それを無視して、俺は頭を下げる。

「母さんのじゃなくても、母さんの同業者の漫画でもいいんだ。小説でもいいし。何冊か貸してくれたらありがたい」

「つまり、陸人は男の子同士が恋愛している物語を読みたいのね?」

 母は確認するように、そう尋ねてくる。

「……うん」

 とんでもなく居心地が悪かったが、やはり俺は素直にうなずく。田丸さんとめーちゃんは、黙ってことの成りゆきを見守ることにしたようだ。俺と母を交互にちらちら見ながら、ホットケーキを頬張っている。

「えー、どうしても? どうしても読みたいの? 母親としてのお願いになっちゃうけど、息子には、私の漫画よりもワンピースやスラムダンクを読んでいてほしいな」

 母は渋っているようで、なかなか漫画を貸してくれる様子がない。気持ちはわかるが、ワンピースやスラムダンクではだめなのだ。俺が読みたいのは、男性同士が恋愛をする上で、どういうふうに悩んで結ばれるのかという、それが知りたいのだ。

「お願い」

 何年かぶりに母親にするおねだりが、ボーイズラブ漫画を貸してくれ、だなんて。一瞬情けなく思うが、いまは藁にも縋りたい思いなのだ。

 渋って渋って渋った挙げ句、母は数冊の漫画を貸してくれた。どの漫画の表紙にも、男の子が密着した絵が描かれている。母の絵をまともに見たのは、もしかすると初めてかもしれない。

「母さん、絵が上手だね」

 と言うと、母は、

「そんなこと、久しぶりに言われたなあ」

 と声を上げて笑った。


 貸してもらった漫画を、自室に戻って熟読する。母が選んだのは、純愛系のものばかりだった。

 そういえば、と読みながら思う。母は、俺がこういう漫画を読みたいという理由を全く聞かなかった。気が回らなかったのか、あえて聞かなかったのか。どちらなのかはわからないが、たぶん、後者だったのだと思う。漫画の内容が、ノンケの男の子がいままで友人だと思っていた男の子に告白され、悩んだり、傷つけたり傷つけられたりしながらハッピーエンドを迎えるというものがほとんどだったからだ。見事に主人公にシンクロしてしまう。母親の勘で、俺のこういうところを見抜かれたのかと思うと、そんなことはないだろうと思いつつも、母親という存在が急におそろしくなった。

 漫画は、素直におもしろかった。人気漫画家だと言われているだけはある。心理描写が緻密で、俺は登場人物に感情移入し、泣いてしまったりもした。性描写のある場面では、普通に勃起した。なんとまあ、母は、とんでもない漫画を描いてくれたものだ。

 思い切り漫画を楽しんだ後の、心地よい気怠さの中で、俺はふと我に返る。当初の目的を思い出したのだ。

 俺は、政臣くんに、ちゃんと告白しようとしていた。政臣くんの存在が、俺の中で特別なのだとわかったいま、きっとそうするべきなのだと思う。しかし、男の子に告白するというのは初めてのことなので、その参考になればと、母から漫画を借りたのだ。しかし、参考になったかどうかと言われれば、微妙なところだ。こんなにうまくいくものだろうか、と思う。それでも、ひとつわかったのは、自分の気持ちを、誠心誠意、素直に相手に伝えなければいけないということだ。

「でも、それって、いちばん難しくて勇気のいることなんじゃないか?」

 俺は、漫画を片手に途方に暮れる。



 日曜日、俺は昨日の晩から煮込んでおいたカレーに火を通していた。今日は料理教室は休んで、政臣くんの好きなカレーライスをふたりで食べようと思ったのだ。なにかを察したのか、拓海は早くから外出している。

 俺は、覚悟を決めていた。政臣くんに、交際を申し込もうと、気を張っていた。

 政臣くんを食卓に通すと、目の前がぐるぐるして、心臓がうるさいほど鳴り続け、なんだかわけがわからなくなった。せっかくつくったカレーライスの味がわからない。それでも、政臣くんは、

「おいしいです」

 と色鮮やかに笑ってくれた。その笑顔を見てうれしくなり、俺も自然に笑うことができた。政臣くんはカレーライスをおかわりし、サラダも全部食べてくれた。俺の心もお腹も、幸せで満たされる。


 食後のお茶を飲んだ後、俺と並んでソファに座った政臣くんは、小さな妹がどれだけかわいいかということを、眼鏡の奥の目をきらきらさせて力説している。俺はその目を見ながら、必死で政臣くんに言う言葉を心の中で復唱していた。

「政臣くん」

 呼ぶと、

「はい」

 と返事をしてくれる。

「唐突なんだけど、あのね、政臣くん。俺とお付き合いしてもらえますか?」

 俺は、ありったけの勇気を振り絞って言う。喉が尋常じゃないくらい渇いている。どうして、改まるとひとは敬語になってしまうのだろう。頭の隅のほうで、ぼんやりとそんなことも思う。

「えっ」

 てっきり笑顔でうなずいてくれるものだと思っていたのに、政臣くんは悲鳴に近い声を上げた。しまった。だめだった。母の漫画に影響されすぎたのかもしれない。やっぱり、あんなにうまくいくなんてこと、ありえなかったんだ。そう思いうつむいた俺に、政臣くんが言った。

「僕たち、付き合ってたんじゃなかったんですか!?」

「え」

 今度は、俺が声を上げる。

「だって、僕たち、キスだってしましたし。そういうのって、付き合ってるから、好きどうしだからするんでしょう?」

 付き合っていなくても、好きどうしでなくてもする。少なくとも、俺はできる。とは、悲しげな表情の政臣くんを前にして、とても言えない。付き合ってください。はい。という口約束がないと、なにをやらかしても付き合っていることにはならないと思っていた俺は、そんな自分を少し恥ずかしく思う。しかし、それは男女間のことであり、男同士でキスをするとなると、やっぱり好きなひととでなくてはできない気もする。そういう意味では、政臣くんの言うことのほうが正しいのかもしれない。

「陸人さんのばか」

 ごちゃごちゃ考えながら固まっていた俺に、政臣くんが言った。

「ごめん」

 俺は素直に謝る。

「俺は、政臣くんのことが好きで、大事で、特別なんだ。本当だよ」

 素直な気持ちを、誠心誠意伝える。言い終わった瞬間、政臣くんの唇が、俺の唇をふさいだ。そのまま、されるがままになっていると、

「陸人さん」

 政臣くんが俺を呼ぶ声は、なんだか熱っぽい。潤んだ目で見つめられ、身体が熱くなる。

「そんなこと言われたら、僕、ちょっともう限界です」

 政臣くんは言った。

「あ、うん」

 俺は思わずうなずいてしまう。

 だけど、勢いだけはよかった政臣くんは、キスを繰り返すばかりで、そこから先に進まない。

「あの、政臣くん。気が進まないなら、無理にしなくていいんだよ」

 俺の言葉に、政臣くんはぶるぶると犬みたいに首を振った。

「ちが、ちがうんです。僕、こういうことしたことないんで、どうやったらいいのか……」

「あ、なるほど」

 納得する。確かに、初めてだとわからないよな、と思う。しかも、相手は男だ。なにをどうすればいいのかなんて、ほとんど未知の世界だ。

「まあ、焦んなくても俺は逃げないからさ。ふたりで少しずつ進んでいこうよ。ゆっくりでいいんだから」

 政臣くんは、はにかんだように笑ってうなずいた。あ、だめだ。キュン死に。



 俺は、料理の専門学校へ行くことに決めた。いつまでもニートのままではいられないし、政臣くんや拓海と料理をつくっているうちに、自分がつくった料理で誰かが笑顔になるのは、すごくうれしいことだと気がついたからだ。それを仕事にできたら、きっと幸せだろうと思う。しかし、現在の俺の料理はテキトー極まりないものなので、学校へ行って一から学ぶつもりなのだ。

 母は、「いいんじゃない。あんた料理好きだもんね」と言って、忙しく鉛筆を走らせていた。父へは国際電話で報告した。「やりたいことをやれ。母さんも父さんも、おまえのおかげで、この年になってもやりたいことができてるんだ」と言ってくれた。少し泣きそうになった。拓海は、「その学校って、家から通えるの?」と、ものすごい勢いで確認してきた。幸い、家から通えるところに学校はある。

 この春で、政臣くんと拓海は高校二年生になった。政臣くんは、「僕も陸人さんと同じ学校へ行こうかな」と言っているけれど、自分で考えてやりたいことをやればいいと思う。

 とりあえず、いまは受験の準備をしながら、かわいい妹ちゃんにノックアウトされまくっている政臣くんを見ているのが、とっても楽しい。



ありがとうございました。

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